11/24 センタク

 これまでの人生を、自分で選んできたつもりでいた。義務教育はともかくとして、高校受験をどこにするか、大学に行くかどうかや学科、ゼミ、バイト先。大学に行くことを選べるだけ恵まれてるとかそういう話は置いておいて、ともかく、与えてもらった選択肢の中から、自分で選び取ってきたようなつもりでいた。

 でも、よくよく考えてみたらちがった。高校は特に進みたい学科もなくて、二者面談で先生に、希望がないならここはどうだ、と言われた、成績に合った学校を受けた。大学は父に、とくにやりたい仕事がないなら行っておいた方が将来の選択肢が広がるんじゃないか、と言われ、母に、保護者面談で先生にここはいいんじゃないってパンフレットもらったよ、と言われた、成績に合った学校を受けた。中学校で吹奏楽部に入ったのはクラスで最初に仲良くなった子が入ると言ったからで、今やってるバイトは、大学のキャリアセンターで紹介してもらったものだ。その一つひとつを、選んできたといえばそうなのかもしれないけど、選び取ったと言うには、あまりにも弱すぎる。

 親がそう厳しくなかったからかもしれないけど、悪いことをしたいとも思わなかった。そういうノリじゃなかったからかもしれないけど、校則を破りたいとも思わなかった。アイドルとかアニメキャラとかの「推し」がいた時期もある。でも、それも、そのとき仲が良かった子が、好きだと言ったからだ。情熱は、ぜんぜんなかったわけじゃないけど、そうたくさんは、なかった。

 初めて自分で選択したのが、「帝王の首塚ドットコム」だった。初めて情熱を注ぎこんだのが、「帝王の首塚ドットコム」で、橘さんの生首を作ることだった。初めて渇望したのが、生首にするための橘さんの写真、生首にするための橘さんの声、生首になった橘さんとの、会話だった。初めて打ち込んだのが、それだけ渇望していること、生首の橘さんを塚に据えていることなどおくびにも出さず、さりげなく、なんでもない調子で、橘さんと友達っぽい存在でいようと、することだった。

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