11/21 飾り
悪い意味で世間の話題になった人を、つい検索してしまう日がある。たとえば、元恋人の自宅で自殺未遂した歌手。たとえば、精神的にバランスを崩して表舞台から姿を消したアイドル。仲間割れで炎上したYoutuber、不倫で叩かれたタレント。人の不安定な部分や嫌なところを見ると、安心するのかもしれない。それで、もし友達との会話でそのことが話題に上がれば、えーそうなんだ、とか、あーたしかにね、とか、適度に興味がないふりをしてしまうのだ。
芸能人のゴシップを話題にするなんて恥ずかしい、という思いがある。でも、きっと本当は、隠れてこそこそウィキペディアやまとめサイトを検索して、ひとりで長いこと見ている私のほうが、一番恥ずかしいしいやらしいことを、薄々気づいている。
学童のバイトでは早くもクリスマスの飾りつけで、画用紙やペンが欲しい子にちゃんと行き渡るように一応見守りながら、私も折り紙でサンタクロースを作る。心音ちゃんの仲間外れは終わったみたいだ。飾りじゃないのよ涙は、ハ・ハン♪、と歌うのでびっくりした。年配の先生が、古い歌知ってるね、心音のママだって世代じゃないでしょ、と言い、心音ちゃんは、Youtubeで見た、と噛みあうような、合わないような返事をした。
タブレットは持ち歩くのをやめた。つい外で「帝王の首塚ドットコム」を見たくなって、それを誰か知っている人に目撃されてしまったら取り返しがつかないと思ったからだ。帰宅して、少し久しぶりに鍵アカウントの「#私のnmkb」タグをゆっくり眺める。
<いじめてきたやつ全員殺したくて、卒アル使って一クラス分の生首生成した>
<パワハラ上司と先輩の腹いせと思ってやってたら職場のほぼ全員生首になって草>
<月二百万使ってもラーメンしかおごってくれない担当、生首にしてやった>
「帝王の首塚ドットコム」というサイト名にずっと違和感があるけど、こういう使い方なら、たしかに帝王っぽいのかもしれない。ただいじめられた過去は変えられないし、パワハラは止められない。ホストが優しくなるわけでも、たぶんない。王たちは全能感を味わえただろうか、虚しさが残らないだろうか。皆、この残酷なサイトからなにを得るのだろうか。私は、勝手に作った橘さんの生首と勝手に会話して、いったいなにを得たいのだろう。
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