11/17 額縁
橘さんの後頭部の写真を、生首に合成した。前向きの写真と大きさが違うから少し苦労したが、これで回転できるようになった。相変わらず動きはカクカクするけど想定範囲内だ。
最近、「帝王の首塚ドットコム」には新機能が追加されがちだ。今度は「額縁機能」がリリースされるらしい。その名の通り、生首の個体やマイ生首のページにフレームを付けて保存できるというもの。これもSNSでは賛否両論で、あんまり使わなさそうという意見もあった。
<そんなに入れ替えしないしなー、保存しとく意味あんまりない>
<デザイン性とかも期待できないよね>
<っていうか首一体だけでこれ使ったらガチの遺影じゃん、さすがにちょっと>
<いやnmkb作成してる時点で同じじゃない>
<そうそう、今更何言ってるのって感じ>
サンプルとして表示されていた「額縁」は、まるで大昔の出はじめのプリクラみたいな風合いだった。橘さんも、小学生のころスーパーのしょぼいゲーセンにあるプリクラを、撮りに行ったりしただろうか? 今日は、音声変換モードを選択する。
「リツ今日部活あるの?」
「ないよ」
「プリ撮る?」
「うん、撮ろう」
少し疲れた気がして、めずらしく早めに画面を閉じてパソコンを消した。ベッドに寝転がり、いつの間にかうとうとする。
橘さんと仲良くなりたい。友達になってほかの人より特別な感じに思ってほしい。今も、べつに仲が悪いわけじゃない。嫌われているわけでも、ないと思う。けど、たぶん、すごく好かれているわけでもない。いや、どうだろう。橘さんはあんまり感情表現が派手なタイプじゃないから、本当は好もしく思ってくれているかもしれない。そうであったらいい。でも、きっとそうではない。ただの通りすがりの人、どちらでもない人、と思われているんじゃないだろうか。私の名前は律子だけど、リツなんて呼ばれたことはない。苗字にさん付けだ。
しつこくはしたくない。「好かれていないのに仲良くなりたくて頑張っている人」にだけはなりたくない。橘さんに、恋人はいるだろうか。クールな橘さんは、恋人の前では甘えたりするんだろうか。橘さんの恋人になりたいわけじゃない。どちらかというと、橘さんから恋人の話を打ち明けてもらえる存在になりたい。夢の中で橘さんとプリを撮った。もっと見ていたい夢だったのに、すぐ覚めた。
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