11/16 面

 やっと橘さんの背面、というか、後頭部の写真を手に入れた。ゼミの時間たまたま真後ろに座っていて、佐久間くんのパワポをスマホで写すふりして。

 ゼミが少し長引いたからか、終わったあと、お昼を持って来てる子たちは教室でそのまま食べる流れになった。橘さんもその輪に混ざるようだ。私もたまたま朝、コンビニで買ってきていたから、ラッキーだなと思う。未美ちゃんは用事があるからすぐ帰ると言って出て行ったので、少しほっとする。

 今日は運のいい日かもしれない。ただ、座っていた席の関係上、橘さんのすぐ後ろで食べるわけで、一列分空いているとはいえ少し緊張した。この間の学食のほうが距離は近いといえば近いけど、ゼミは人数が少ないから、話し声はあるとはいえ比較的静かだ。お腹が大きな音で鳴ったり、クチャクチャ食べるとか思われてしまったらどうしよう。ふだん気にしたこともないことが気になり始め、できるだけお腹に力を入れながら、ゆっくり食べた。


 橘さんのかばん、西村さんが作ったかばんに、お面が入っていた。コンビニのサンドイッチを取り出すときに、見えた。狐面だ。すげー、と、佐久間くんが素直な感嘆の声をあげる。


「なんだこれ、本格的」

「演劇?」

「伝統工芸サークルのやつが作ったんだよ」


 あ、“だ”だ。おにぎりの海苔を噛む口を一瞬止める。すごーい、とほかの子たちも言っている。運動部以外の部活もばかにされないというのは、大学のいいところだよな、と思う。口の中のおにぎりを慎重に飲み込んで、私も話に加わった。


「橘さん、似合いそう」


 言うと橘さんは、なんだそれ、と苦笑する。そんな彼女の様子が、気のせいでなければ少し楽しそうに見えて、私は嬉しくなった。


「これかぶれるの」

「かぶってみていいよー」

「ちゃんと紐ついてんだ」


 はからずも、狐面をかぶった橘さんの写真も入手してしまった。これは、でも、生首に合成したら変なふうになるだろうか。昼休みは、すぐ過ぎてしまった。


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