11/11 坂道

 ばかみたいに巨大な坂道を、橘さんと歩いている夢を見た。向かい風が強く、坂をのぼって行く私たちの髪の毛はばさばさと乱される。口の中が渇いてくるが、私はなにか話しながら笑っていた。隣を歩く橘さんも笑っている。橘さんの笑顔は、笑顔っぽくない。知らない人が見たらちょっと苦笑が入ってると思うかもしれない、クールな笑顔だ。でも、楽しくて笑っているかどうかは、たぶん、わかる。

 坂をのぼり切ると、向こうに町なみと海が見える。私たちの通う大学も、あのへんにある。空は青く、そこで目が覚めた。少し寂しいような幸せな気持ちを、先週やっと出した薄手の毛布の中で、じんわりと嚙み締めた。


 大学はべつに海の近くではない。どちらかというと、街なかだ。へんな夢を見たな、と思いながらぼんやりと歩いて行くと、学食のほうから橘さんが歩いて来るのが見えた。その隣にいるのは、未美ちゃんだ。珍しい組み合わせだ。未美ちゃんも同じゼミだけど、彼女のことを正直私は苦手だ。通り過ぎようとしたとき、でも、未美ちゃんはこっちに気づき、あー、りつぽん、と、私のことを誰も呼ばないアダ名で呼ぶ。未美ちゃんと仲がいいと橘さんに思われたらいやだな、と思いながら、私は立ち止まって曖昧な笑みを返した。


「今日、ポッキープリッツの日だから、これあげる!」


 差し出されたポッキーの箱から、むりやり一本押し付けられた。未美ちゃんは空気が読めない。こんな外でむき出しのポッキーを渡されて、相手が困ると思わないんだろうか。橘さんももらっただろうか? 橘さんだって迷惑したんじゃないだろうか。

 二人が行き過ぎたあとさっさとポッキーを食べてしまい、振り返ると、未美ちゃんはもうどこかへ行ったのか、紺色のパーカーに細身のジーンズの、橘さんが一人で歩く後ろ姿があった。


 校内はだいたい平坦だが、五号棟の裏からスクールバスの乗り場へ行く道だけは坂になっている。橘さんの後ろ姿は、そちらの方へ歩いて行く。急ぎ足で乗り場へ向かうが、ちょうどバスが発車してしまったところだった。小さな坂の下で、しばらく私は息を切らした。

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