帝王の首塚ドットコム

11/12 湖

　「帝王の首塚ドットコム」に、背景機能が搭載された。ＳＮＳでは、「ちょっと迷走してる？」という意見もみられる。もう説明も要らないと思うけど、マイ生首のページに、背景を数種類から選んで設定できるものだ。選べるのは、合戦場（これが唯一生首らしいといえば、らしい）、平原、山奥、ビル街、教室……たしかに迷走している。

　橘さんの生首の背景を、はじめ「教室」に設定してみた。中学生や高校生のとき、橘さんはどんなだっただろう。

「橘さん、おはよう」

「おはよう」

「次は体育だね」

「うん」

「バスケットボールだって、嫌だなあ」

「そう？　マラソンよりいいと思う」

　橘さんは、バスケ部だったらしい。大学の体育館が開放される時間があって、そこで、数人でバスケをしている場面を目撃したことがある。長い髪を後ろで無造作に結んで、本格的っぽい姿勢でバスケをする橘さんはかっこよかった。現役バスケ部の橘さんを見たかったなと思う。でも、もし中学や高校で橘さんと同じクラスだったとしたら、今より仲良くなれていたかといったら、決してそうではない気もする。

　選択肢の中に、「潮」があった。「潮」？　「海」じゃないんだろうか。選んでみる。たしかに背景に水面が広がるが、砂浜も防波堤っぽいものもなければ、波もない。背景はアニメーションではないからこんなもんかもしれないけど、地味すぎる。手前の生首部分とは切り離されていて、生首が水に浸かることはなさそうだ。

　来年の夏、ゼミメンバーで海に行くのを提案してみてもいいかもしれない。いや、でも、水着はちょっとハードルが高いかな。

「海は好き？」

「あなたよりは好き」

「えっ？」

　びっくりした。パソコンの前でうとうとしてしまっていた。今のは本当に橘さんの生首が言ったのか、私が無意識に打ち込んだのか、夢の中の出来事なのか、生首との会話は、ログは残らない。目を擦ってよくよく見ると、隅に表示された文字は「潮」ではなく「湖」だった。どおりで浜もなければ波も立っていないはずだ。湖は好き？、とは、もう私は橘さんに尋ねなかった。