11/9 つぎはぎ

 同じ学科の西村さんはパッチワークが趣味らしい。うちの母親もむかしちょっとだけやっていた。気合を入れて小物入れポーチを作ってくれたけど、当時は母の手作りが恥ずかしくて、クラスの子たちが持っている、雑貨屋さんで買ったり百円ショップのをカスタムする、ラメのついたペナペナのビニールポーチが羨ましかった。

 今でも、正直、ほんとに申し訳ないんだけど、ちょっとダサいな、と思ってしまう部分はある。でも、いろんな色柄の布をつぎはぎしたカラフルな、重たそうなスカートは、素直にすごいなとも感じる。

 それで、どうして西村さんのことを書いたかというと、西村さんの手作りらしいパッチワークのかばんを、橘さんが持っているからだ。かばん、といってもぺらっとしたA4サイズぐらいのトートバッグで、橘さんはたぶん、それにテキストや提出前のレポートを入れたりしている。黒っぽい服が多い橘さんが持つと、少し似合わないようにも、それはそれで素敵なようにも見える。でも、これは橘さんの趣味に合ったのだろうか。


「どうしてそのかばん持ってるの」


 生首の橘さんに、テキストで話しかける。


「もらったからかな」


 まだ自動応答モードで高度な会話はできないので、返事もテキスト入力だ。これも、会話のパターンとして登録されていくのだろうか?


「気に入ってないの?」

「気に入ってるとか、気に入ってないとか、あんまり考えてない」

「橘さんのいつもの服装には、合わない気がするね」

「そうかもね」


 ピンポーン、と突然チャイムが鳴って、びっくりして「×」で画面を閉じてしまった。なんのことはない、Amazonで注文していたものが届いただけだ。立ち上がって行って、インターホンで返事をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る