17 お揃い(時雨&飛鳥)

 今日殴られた理由は、帰りがいつもより遅かったということだった。担任に呼び止められて話が長くなったのだと言っても、兄は取り合わなかった。

 どうしてこうなったんだろう。小学生ぐらいまでは、仲のいい双子として過ごしていたのに。今じゃ高校で目を合わせるのすら禁止だ。


飛鳥あすか。脱げ」


 僕はベッドの上で全裸になった。抗うことなんてできない。新たな拳が飛んでくるから。


「仰向けになれ。じっとしてろよ」


 兄は僕に馬乗りになって、肌に舌を這わせてきた。嫌なのに、身体は反応してしまう。そう兄に作り替えられた。


「あっ……時雨しぐれ、そこは……」

「なんだ? 正直に言え」

「その……気持ちいい……です……」


 初めはくすぐったかっただけなのに。いつの間にか、快楽を覚えるようになってしまった。

 兄の唇は鎖骨まできて、強く吸い付かれた。


「ダメっ……痕、残るっ……!」

「もう遅いよ」


 ギリギリ制服から見えないだろうか。シャツのボタンを上まで留めていればバレないだろうか。そんな位置だった。兄は言った。


「なぁ、小さい頃はよくお揃いの服着せられてたよな」

「……うん」

「飛鳥も俺にやれ。お揃いの方が嬉しいだろ?」


 僕は兄のシャツのボタンを外した。そして、同じ場所に吸い付いた。


「そんなんじゃダメだ。もっと強く」


 必死だった。兄の要望に応えられなければ、また酷い目に遭うから。


「……鏡、見に行くか」


 兄と僕は洗面所に立った。くっきりと浮かび上がった赤い痕。鏡越しに兄と目が合った。彼は口元を歪ませて笑った。


「飛鳥、嬉しいだろ? 嬉しいよな?」

「はい、嬉しい、です」


 それで終わるわけはなかった。またベッドに戻り、僕はお腹を踏みつけられた。


「ぐえっ……」

「どうする? 今日は機嫌がいいから選ばせてやるよ」

「時雨のしたいように……すればいいよ……」

「はぁ? 俺は選べって言ってるんだよ」


 どんどん兄の足が重くなっていった。苦しい。でも、自分がどちらをやりたいかなんてわからない。何も言えないでいると、兄は足をのけた。


「まあ、今まで俺の命令通りにやってきたもんな。命令するのも疲れるんだぞ。自分の頭で考えなきゃいけないからな。飛鳥はそれができないんだもんな。仕方ねぇな」


 僕は両手で顔を覆った。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」

「もういいよ。情けない弟だな」


 いつか、元のような兄弟に戻れる日は来るだろうか。それにしては、僕たちはもう、行き着く所までたどり着いてしまったのかもしれない。

 僕はお揃いの痕のことを思った。こんなこと、兄弟でしちゃいけないのに、密に悦んでいる自分がいた。


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