16 ニーハイ(伊織&瞬)

 エレベーターに乗る前に、集合ポストを覗くと、茶色い包みが入っていた。ネットで何か買ったのだろう。僕はそれを持って兄の部屋に向かった。


「ただいま。何か入ってたよ」

「おおっ、届いたか!」


 兄はぺりぺりと包みをはがした。中から出てきたのは、やけに長い黒い靴下だった。


「それ何、兄さん」

「ニーハイ! 瞬にはかせようと思ってさ」

「……マジで?」


 僕だってニーハイは嫌いじゃない。むしろ好きだ。でも、それは見るのが好きなのであって、はくのは……どうなんだろう。


「よし瞬、ズボン脱げ」

「はいはい」


 僕はボクサーパンツ姿になり、ニーハイを握りしめた。爪先を差し入れ、そっと布を引っ張ってみる。けっこうキツい。


「……本当にはかなきゃダメ?」

「ここまできといて何言ってるんだよ。さっ、早く早く!」


 かかとを合わせ、ふくらはぎを通りすぎ、膝を覆った。ここで一旦下の方から布をたぐり寄せ、伸ばして、太ももに真っ直ぐ沿わせた。


「いい……めちゃくちゃいい……」


 兄はスマホで撮影を始めた。


「立ち上がって! そう! 後ろ向いて!」

「はぁ……」


 靴下だけというのがどうにも恥ずかしい。いっそ丸ごと女装させられた方がマシだ。


「いいねいいね、太ももの肉が食い込んで乗ってる感じ! 素足よりもはいてる方が断然エロい!」

「もう脱いでいい?」

「ダメ。そのまま上にズボンはいてコンビニ行くぞ」

「えー?」


 まあ、隠れるなら別にいいか。僕は兄の言うとおりにした。コンビニまでは五分もかからない。歩いていると、ニーハイがずり落ちてきて、膝の下で布が丸まっていくのがわかった。


「兄さん、やっぱり気持ち悪いんだけど……」

「まあ、一旦外出ちゃったし。夕飯買うぞ」


 僕たちは夕飯を調達して、また部屋に戻った。僕はズボンを脱いでベッドに腰かけるように言われ、じっと兄の動きを待った。


「どうしよっかなー。脱がせるのもいいし、このままするのもいいな」

「僕はどっちでもいいよ」

「うん、両方やりたい。脱がせるからもう一回はけ。それからやろう」

「面倒くさいなぁもう」


 兄はニーハイに指をかけて引っ張った。


「はぁ……瞬の素足、いい……」

「はいてる方がエロいとか言ってなかった?」

「訂正。どっちもエロい」


 それから、脱がしたニーハイの匂いを兄がかぎだしたので、さすがに頭を軽く小突いた。


「やめてよね、この変態」

「何とでも言え」


 こんな兄に付き合える弟は、世界中どこを探しても僕だけだろう。今後もろくなことがないだろうが、ある程度なら叶えてやるかと僕は思った。

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