10 ハロウィン(伊織&瞬)

 帰宅した兄を見て僕は悲鳴をあげた。


「ぎゃぁぁぁ!」

「どうだ、よくできてるだろう」


 兄の顔は血まみれだった。口の右側は裂け、目の周りは打撲したかのように青黒かった。


「ゾンビメイクっていうの? やってもらった」

「もう……まさかその顔で電車乗ったの?」

「そうだけど。ハロウィンだし?」

「よくやるよ……」


 ハロウィンといえば、僕だって準備していた。


「夕飯、ハンバーグなんだけどさ、パンプキンスープもつけたよ。兄さんカボチャ好きでしょ?」

「げえっ、俺さ、スープにされると食えねぇんだよ。瞬が全部食え」

「ええ……」


 兄はメイクをしたまま夕飯を食べた。見慣れてくると、もう驚かない。僕はお腹をパンパンにして二人分のスープを飲んだ。

 皿洗いをしていると、兄の手がお尻に伸びてきた。


「もう、兄さん。メイク落としてからにしてよね。やる気になんない」

「えー、いいじゃねぇかよ。一年に一度だぞ?」

「まあそうだけどさぁ」

「屍姦みたいで楽しいじゃねぇか」

「じゃあ兄さん、動かないでよ?」


 片付けを済ませた後、兄はベッドにごろりと仰向けになった。僕は兄にまたがった。さすがに呼吸を止めることまではできない。胸が上下していた。

 本当に兄が死んだら――そんなことまで考えた。

 僕は兄の服を脱がせ、指を突っ込んだ。触れているところから熱が伝わってくる。兄の表情を見ると、ぴくぴくと頬が動いていた。


「兄さん、死んでるんだから動くの禁止」

「って言われてもよぉ……ちょっとくらいは仕方なくね?」

「口答えも禁止」


 僕は自分の指に唾液をからませ、さらに奥までかき回した。ねちょねちょと肉のひだがからみついてくる。僕も高ぶってきた。

 一旦指を抜き、兄の唇を舌でこじ開けた。一方的に兄の口内をいじり尽くすのは、なんだか新鮮だった。いつもは僕の方が追い詰められるから。


「なぁ瞬、もう挿れて」

「ダメ。喋るの禁止って言ったよね? 死体役やる気ある?」


 僕は兄の筋肉質な身体に舌を這わせ、くすぐった。兄は身をよじったが、何も言わなかった。そして僕はとうとう挿入してやらなかった。


「瞬、マジで生殺しなんだが」

「死んでるから仕方ないじゃない」

「なんかこう、思ってたんと違った」

「死体は快感なんて感じないでしょう?」

「あーもうメイク落としてくる!」


 兄は洗面所へ行った。散々焦らして弄んだ分、手酷い「お返し」が待っていることだろう。僕はそれを楽しみに、ベッドの上でうっとりと待っていた。


本編

血の鏡

https://kakuyomu.jp/works/16817330663090185240

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