06 指(早月&直樹)

 直樹なおきはいつも勝手に僕の部屋に入ってくる。ゲームをしていようと、マンガを読んでいようとお構い無しだ。そして、いつもの「あれ」を要求する。


「兄貴。舐めてよ」


 僕はスマホを置き、ベッドに腰かけた。隣に直樹が座る。そして僕は直樹の指にしゃぶりつく。


「あはっ……気持ちいい……」


 これが始まったのは、直樹が包丁で指を切ってからだった。早く止血しろ、と俺が言うと、兄貴が舐めてよと口に突っ込まれたのである。

 ぴちゃぴちゃ。ねちょり。


「ねえ、もっと激しくして……」


 僕はメガネの位置を直し、さらに強く吸い付いていく。こうしていれば、直樹は僕を殴ることはない。だから言うとおりにする。


「先、噛んで」


 前歯をたてると、直樹はますます悦楽に歪んだ表情を浮かべた。兄弟でこんなことをしているなんて、どうかしている。

 次第に直樹のリードになった。僕の頬の裏側をさすり、歯茎をなぞってきた。ぽとり、と僕のよだれが床に落ちた。


「はしたないね」


 直樹はよだれを裸足で踏んづけてなすりつけ、なおも僕の口の中をいじり続けた。


「はぁ……やっぱりこれだけじゃ我慢できない。兄貴、キスしよう?」

「それはダメだ。僕たち兄弟なんだから……」


 平手が飛んできた。メガネも吹っ飛んだ。僕がベッドに崩れ落ちると、直樹は馬乗りになってきた。


「ねえ、いいじゃん兄貴ぃ……」

「ダメ。指だけだ。そうしないと、取り返しのつかないことになる」

「俺は兄貴とならどこまででも行けるよ? ねえ、させてよ」

「ダメだってば」


 体格では直樹の方が上だ。とうとう、唇を奪われた。舌が入り込み、唾液をからめとられた。


「かはっ……」

「兄貴のファーストキス、奪っちゃった。あとはもう一緒だよね? 行き着くところまで行こうよぉ……」


 直樹の言うのがどこまでを指すのか、僕は恐ろしかった。だから指までで我慢してもらっていたのに。


「なあ、指ならいいから。指ならいくらでもしてやるから。それ以上はやめてくれよ……」

「つまんないの。いいや、時間ならたっぷりあるしね。何せ俺たち兄弟なんだから」


 早く一人暮らしをしてこの生活から抜け出したい。直樹のことが恐い。僕はなんとしてでも止めないといけない。それが兄としての責務だ。


「兄貴、今度はもっとキスしようね」

「嫌だっ」

「強情なんだから。そういうところが可愛いんだけどね」


 今度は絶対に屈しない。そう決意を新たにして、直樹を真っ直ぐに睨み付けた。彼は、笑っていた。

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