05 車内にて(時臣&政輝)

 揺れる満員電車内。人と人との熱気が充満する中、俺は息を殺していた。けれど、どうしても漏れる。


「ふぁっ……ふぅ……」


 壁際に押さえつけられ、尻を撫でられる。制服越しとはいえ、的確に俺の敏感な部分を攻められると、我慢ができない。


「はっ……ひっ……」


 車窓から景色が見えた。夜のとばりは落ち、今は帰宅する人々であふれかえっていた。ぼそり、と声をかけられた。


「他の人にバレてもいいの?」

「やだ……」


 俺は歯を食い縛った。また大きく車内が揺れた。するするとベルトを外され、ごつい指が下着の中に入ってきた。その体温の熱さといったら。絶叫してしまいたい。


「はっ……はぁっ……」

「ほら、我慢して」

「ふぁい……」


 次の駅の名前を告げるアナウンスが流れた。この時間ももうすぐ終わりだ。指は俺の中にじゅぷじゅぷと入り込み、もうすぐ停車しようという時、ずぽりと抜けた。

 へなへなと崩れ落ちそうになった俺を、さっきまで下着の中に入っていた手が支えた。


「大丈夫か?」

「ははっ、兄ちゃん、ありがと」


 兄の時臣ときおみは大げさにため息をついてみせた。改札を抜け、夜の歩道を歩きながら、彼は言った。


「ったく、今日こそバレるかと思ってヒヤヒヤしたぞ?」

「ごめんって。もうちょい頑張って声落とす」

政輝まさてる、今度で満足できたか? オレこりごりだよ。いくら同意の上だっていっても見た目には痴漢なんだから」

「えー! やだやだ、もっかいして。兄ちゃんにしかこんなこと頼めない」

「もう……」


 痴漢プレイを兄にお願いするようになって一ヶ月。彼はあまり乗り気ではないみたいなのだが、それでも弟の頼みを聞いてくれる。甘いのだ。どこまでも。


「それより政輝。テストの結果出たろ。どうなった?」

「どうせ万年一位の兄ちゃんには教えたくない」

「まさか補習じゃないだろうな?」

「えへ、そのまさか」

「バカ。補習終わるまではやらしーこと禁止な?」

「ええー!」


 俺は兄の制服の裾を掴み、上目遣いをしてみた。


「そんな顔されてもダメなもんはダメ」

「でも、今夜はどうするの? 母さん居ないよ?」

「今夜は……うん……今夜はいいよ」

「やったー!」


 家の中なら、思いっきり声が出せる。その解放感を味わいたくて、俺は兄に痴漢を頼むのだ。

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