第14話 再び現場へ/菜月②

 夜の公園というものは、何故こんなに不気味なのだろう。人がいないというだけで、これほどに雰囲気が変わるものなのだろうか。何がいる訳でもないのに、無性に恐怖心を煽られる。


 いや。今の状況を考えれば、むしろとわかっているから、恐怖が引き立つのではないか。黒斗の発言から考えれば、この場所に、今回の事件の原因となる怪異――幽霊がいることになる。そして、その幽霊さえ説得出来れば、今回の事件は解決、ということだ。


 そんな簡単に交渉が進むのかはわからないものの、ただの人間である菜月には口をはさむ要素はないはずなので、この場は黒斗に任せる他ない。彼女に出来るのは、交渉が難航せずに済むのを祈るくらいのものである。


 そうして辿り着いた、慰霊碑の前。そこには明らかに


 姿は見えない。しかし確実にそこにいて、こちらを見ているのがわかる。見られているだけなのに、足元から震えが登ってきて、やがて全身に広がった。


 これと交渉をする?


 何を馬鹿な。


 とても話が出来るような相手とは思えない。


 菜月の本能が、警報を鳴らす。一刻も早くこの場から離れろと。全身が強く訴えて来るようだ。


 しかし足はすくんで動かない。これではまるで、ヘビに睨まれたカエルそのものではないか。ガクガクと震える太ももを手の平で叩き、何とか動かせないかと試行する。だがダメだ。震える脚はピクリとも動かないし、そもそも、太ももを叩く手にまったく力が入っていない。


 焦りが募る。何とかしなくては、と。時間が経つに連れ、積もる恐怖で思考が鈍るのは明白。手立てを打つなら今しかない。


 考えろ。


 考えろ。


 考えろ。


 考え――。


 雷の落ちる音。それも、遠くで聞く音ではない。すぐうしろ。目と鼻の先に落ちたような、そんな音だ。


 思わず目をつぶり、「ひっ」と悲鳴を上げる。こうなってしまったら思考を巡らせるどころではない。しかも、それが1回きりではなく、2回、3回と続けば、最早パニックである。菜月はその場に膝をつき、縮こまってブルブルと全身を震わせた。


 ひたすらに続く稲光いなびかりと、同時に来る轟音。その場から一歩でも動けば、次の瞬間には雷光が自分を貫くかも知れない。いや、もっと言えば、この場に留まっていれば安全という確証もない訳で。


 この場に留まるべきか、それとも安全な場所を求めてこの場から離れるべきか。そんな簡単な2択すら、今の菜月には思いつかなかった。何のためにここに来たのかなど、最早遠い過去の話。誰が一緒にいようが、このままでは生き残るすべはない。そんな風にすら感じる。


 しかし。


『急にうずくまって、どうした』


 声が聞こえた。先ほどから雷の音がうるさくて、他の音なんて耳に入るはずがないのに。


『まだ交渉は始まってすらいないぞ?』


 誰の声だっただろう。恐怖に支配された頭では、それが誰の声なのか、判別が出来ない。


「とにかく立て。連れがそんな状態じゃ、話し合いにならない」


 頭の中に直接響いてくるようなその声は、どこか温かく、菜月の心に、ほんのわずかな安らぎをくれた。


 ほんの少し冷静になった菜月は、その声に対して、頭の中で返事を試みる。


「だって、雷が――」


 今なお、雷はなり続いていた。これだけ大音量で繰り返し鳴っているのだから、相手にだってそれは聞こえているはず。


 しかし、声の主は落ち着き払った様子で、先を続けた。


『落ち着け、藍川。雷なんて

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