第2話 気になるクラスメイト/菜月②
そういう訳で、一人、
そして、その
とは言え、訪れたのは夕方。見渡してみれば、まだ公園を訪れている人が多く、心霊スポットと言われても、あまり実感が湧かない。どこからどう見てもごく普通の公園である。
「処刑場跡地ね~」
一応慰霊碑まで行ってはみたが、特別何かを感じるかと言われれば答えはノー。菜月にとっては、この場所が拘置所であったのは両親が生まれるより前のこと。イメージが湧かなくても当然のことだ。
これは調べるだけ無駄か。そう思い始めた頃。嫌に冷たい風が、唐突に頬を撫でる。春とは言え、流石に夕方になって冷えてきたかと思いながら振り返ると、そこには目を疑うような光景が広がっていた。
つい先程まで多くの人で賑わっていた園内から、一切の人の姿が消え、空は
「……え、何これ?」
見たことのない空の色。突然消えた人々の姿。そして、季節に似合わない冷たい風。それがただ事でないことは、すぐにわかった。しかし、どうすればこの状況から脱することが出来るのかがわからない。
とりあえず移動するべきか。「あるいは公園から出れば」などとも考えたものの、足がすくんで一歩が踏み出せないでいる。この場に居座るのはよろしくないが、かと言って自力での脱出は難しい。このままでいたら、自分はどうなってしまうのだろうと、菜月の不安はどんどんと膨れ上がっていった。
それでも、「いいや」と、菜月は首を横に振る。こんな時こそ冷静にならねば。菜月は思考を巡らせた。
そもそも、この現象はいったい何なのか。自分以外に人がいない点を考えれば、可能性として高いのは幻覚の
「まさか、本当に幽霊の仕業?」
菜月は慌てて周りを見渡した。もしこれが幽霊の仕業なら、その張本人が傍にいるかも知れないと思ったからである。
「探すな」
突然、声が聞こえた。どこか聞き覚えのあるその声は、同年代の男子くらいのものである。しかし、いくら見渡して見ても、声の
「黙って俺の声にだけ集中しろ。今、そこから引っ張り出してやる」
「引っ張り出すとはどういうことだ?」と首を傾げつつ、それでもこの奇妙な空間にいるのは心地が悪いので、素直に彼の指示に従うことにする。しかし、声に集中したからどうなると言うのか。こちらから彼が見えないのだから、彼からもこちらが見えていないはず。
「……見つけた」
と、急に何者かにうしろから襟元を掴まれ、そのまま後方に引っ張られた。菜月はバランスを崩し、そのまま転ぶことを想定して、咄嗟に目を
ボフッと、背中が誰かにぶつかり、転倒することなく済んだ。すぐさま振り返って、ぶつかった相手の正体を確認する。
「……皐月原君?」
そこにいたのは、紛れもなく、クラスメイトの皐月原黒斗その人だった。
菜月を見下ろす彼の身長は、170センチを少し越えたくらいだろう。服の上からでもわかるほど身体の線が細く、お世辞にも運動が得意そうには見えない。目元にややかかるくらいの長い前髪から覗く顔は端整だが、覇気がないというか、存在感が薄いため、クラスの女子からの
「
「えっと、どういうこと?」
「三途の川に片足突っ込んでたってことだよ」
「よし。妙なもんも連れて来てないな」
黒斗はそう言って、これ見よがしに大きくため息を
菜月は、今起こった現象について尋ねるべく、小さく口を開いた。
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