第1章 幽霊騒動

第1話 気になるクラスメイト/菜月①

 菜月には気になるクラスメイトがいる。相手は男子だが、恋愛的な意味ではない。そのクラスメイトは、常に大型のヘッドホンを頭に乗せており、授業中ですら外すことがないのだ。


 彼の名は皐月原さつきばら黒斗くろと。合格発表の日に、落としそうになったスマホを受け止めてくれた彼である。


 本格的に授業が始まってから数日。先生がヘッドホンの件をとがめない辺りから察するに、何かしらの正当な理由があるのだろう。しかし、他のクラスメイト達がそれを容認出来るかと言えば、話は別。大抵は彼に対しての陰口に繋がっている。


 今はまだ陰口で済んでいるものの、もうしばらくするとグループが出来上がり、クラスカースト上位のグループを主体としたいじめに発展しかねない。そうなる前に、ある程度人間関係を構築しておいた方がいいと思うのだが、彼はそういうことに無頓着なのか、まったく誰かと関わろうとする素振りを見せないのである。


「藍川さん、聞いてる?」


 と、すぐ隣にいたメガネの女子に声をかけられてしまった。せっかく会話に参加していたのに、話をろくに聞いていなかったことに気付かれてしまったらしい。


「ああ、ごめん。何だっけ?」


 どうやら、今はまだそれほど反感は買っていないようだ。とは言え、あまり気をらしてばかりだと、今後の人間関係に溝が入りかねないので、菜月は目の前の会話に集中することにする。


「だから、私のお姉ちゃんの話。去年の夏に心霊スポット行ってから、何だか様子がおかしいって言うか、調子が悪いみたいなの」


 今はたまたま隣の席になったメガネの女子から、とある相談を受けていた。相談を受けると言っても、菜月が特別な力を持っていたり、特別な立場にあったりということではない。強いて特長を挙げるとしたら、聞き上手であることだろうか。


 まずは近場から積極的に交友関係を築こうと、菜月が声をかけ、いろいろ聞き出しているうちに、相手の悩み事に行き当たったのである。


 メガネの女子曰く。彼女の姉は一つ年上で、自分達と同じ高校に通っているらしい。要するに先輩だ。その先輩は昨年の夏。菜月達が受験に追われて必死に勉強していた夏休みに、学校の近所にあるとある心霊スポットへ肝試しに出かけたという。


「調子が悪いって、例えばどんな?」


 去年の夏から続いていると言うのなら、ただの風邪と言うことはあるまい。とは言え、心霊スポットに行ったことと、体調を崩したということに因果関係があると決まった訳でもないのが事実。ここは詳しく話を聞いて、それから判断するのでも遅くはないだろう。


「普段は普通に生活してるんだけど、時々何の前触れもなく意識を失って倒れるの。通学中の電車の中だったり、家で勉強してる時だったり」


 突然意識を失うと言うのは、確かに穏やかではない。それは心配にもなるというものだ。


「病院で見てもらったりは?」

「もちろんしたよ? でも、どこの病院で調べても異常はないって」


 セカンドオピニオンを薦めるまでもなく、もう既に調べられるだけ調べた後らしい。しかし、医学的に見て肉体に問題がないとなると、可能性としては精神面に問題があるのではないか。例えば、普段の生活の中で過度にストレスを感じるシーンがあったりするのでは。


 そう思って尋ねてみても、思い当たることはないとのこと。その先輩は学校でも家庭でも人間関係は良好で、特別学力が低いなどの悩みとも無縁だと言う。だとすれば、突然意識を失う要因とは何か。まさか本当に、心霊スポットに行ったことによる霊象れいしょうと言うことはあるまい。


 「なるほど」と、菜月は相槌を打ったが、何が何やらさっぱりだ。そもそも菜月は幽霊の存在を信じていないし、それによる害があるなど、考えたこともない。それでも、こうして話を聞いてしまったからには、何かアクションを起こしたくなるのが、藍川菜月という人物なのである。


「行ってみるか。その心霊スポット」


 こうして、菜月は話題に挙がった心霊スポットへとおもむくこととなった。その一連の様子を、一人の男子生徒が傍目でうかがっていたことなど、知りもせずに。

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