第31話 聖と魔と闇の狂宴★

“我が主に無礼を働く鼠輩そはいよ。己が生と決断を後悔するがよい”


 壮麗な大時代風の衣装に身を包んだ、一九〇センチになんなんとする長身。

 豪奢な金髪。

 白磁よりもなお白い肌。

 ゾッとするほどに美麗で、完璧なまでに整った耽美な容貌マスク

 “僭称者役立たず” に優るとも劣らない妖気を発するその美丈夫が、主を護ってエバさんの前に立つ。


《……美形……》《……耽美……》


 ケイコとレンゲが同時に呟く。


「……なんて……奇麗な人……」


 レンゲを想って千々に乱れていたわたしでさえ、その男性には目を奪われた……。


『……良い男……』

『……推しがきた……わたしもうこの人しか推さない……』

『……他の男なんて目に入らない……』

『おい、どうした!?』

『ヤバい、女性の視聴者リスナー魅了みりょうされた!』

『いや、男でもなんか変な気分になる……』

『誰なんだ……』


《来てくださったのですね、公爵》


我が主マイ・レディのご賢察のとおり、この鼠の期すところは “運命の騎士ナイト・オブ・ディスティニー” の召喚にあり。ここは灰の暗黒卿に代わって我を思し召しください――さあ、ご命令オーダーを”


《わたしはこれまで、あなたに明確な指示を出すことを躊躇ためらってきました。わたしのその弱さが今回の悲劇を招いてしまった。なればこそ同じ過ちは繰り返しません》


 エバさんがキッと “僭称者” を見据え、自分を護って立つ美丈夫に明瞭に告げた。


《主エバ・ライスライトが、ヴラド三世公爵に命じます! サーチ&デストロイ! サーチ&デストロイ! この “紫衣の魔女の迷宮” の秩序を乱す者は、何人たりとも見つけ次第殲滅してください!》


御意イエス・レディ!”


「ウラド三世公爵!!?」


 そ、それってもしかして――!!?


『ドラキュラ伯爵 キタ━(・∀・)━!!!!』

『本物の “真祖バンパイアロード” 様、キタァ━(゚∀゚)( ゚∀)超( ゚)絶( )大(゚ )興(∀゚ )奮(゚∀゚)━!!!!』

『リアル・アーカード キタ━(・∀・)━!!!!』

『エバさんは “ヘルシング機関” の長だったのか!!』

『OMG!!!!』

『He is Count Dracula!!!!』

『Jesus Christ !!!!』

『風の精霊王の次は、吸血鬼の王! エバさん、あなたどこまで行く気!?』

『いや、聖女が吸血鬼を従えるって、それってありなわけ!?』

『またバチカンが紛糾しそうだ!!』

『ヴラド公爵って、ロシア正教会じゃなかったか!?』


 予想もできない展開に、大興奮と大混乱のコメント欄!


“ぐはははははっっっ!!! まさに聖女にして魔女よな!!! 大魔女アンドリーナ護符アミュレットを受け継ぐだけのことはある!!!”


一〇〇〇年王国リーンガミルの忌み子よ、その名を不浄な舌に載せるな。その名は貴様如き鼠が口にしてよいものではない”


“最も不浄な存在であるおまえが何をほざく! 淫婦の主ごと滅却されるがよい!”


 ふたりの魔人が対峙したのも束の間、“僭称者” の背後で唸る二頭の巨獣が鎌首をもたげ、対照的な色の鱗に覆われる胸が吹子のように膨らんだ!


 ゴシュウウウウッ!!!

 ゴボッゴボゴボッ!!!


 吐き出される二種類の竜息ブレス

 “金竜ゴールドドラゴン” からは全てを灼き尽くす灼熱の業火が!

 “黒竜ブラックドラゴン” からは全てを溶かし尽くす強酸の液体が!

 エバさんと、レンゲとケイコ! その前に立つ “真祖” に吐きつけられた!


「レンゲッッッ!!!」


 喉を枯らす悲鳴!

 しかし鉄を燃え上がらせる業火も、岩をも溶解させる酸液も、彼女たちに届く前にまるで手品のように掻き消えてしまった!


“ふん、探索者ゴミども相手に封印していた能力を解放しおったか”


《な、なにが起こったの?》


《公爵が竜息を無効化させたのです。耐呪レジストは竜息にも効果があります。公爵の本来の魔法無効化率は九〇パーセント。探索者わたしたちを相手にする際は手加減をしてくれていたにすぎません》


《手加減云々はよくわからないけど……この人が頼りになるってことはわかったわ》


 エバさんの説明に、ケイコが呆然と呟く。


“その力を解放したからには、“聖浄ホーリー・ターン” で消し去ることは叶うまい”


“無論。“聖浄” どころか “対滅アカシック・アナイアレイター” ですら、我が身に届くことはない――”


 次の刹那、ふわりと“真祖” が跳躍した。

 見る者を魅了しその時間を盗むように、重力を無視した舞踏然とした動きで二頭の顔前に到達したかと思えば、空気を裂く擦過音と共に伸びた真紅の爪が、“金竜” と “黒竜” の瞳に突き刺さった。


「……え?」


 一瞬で脳を破壊された竜属ドラゴンの双璧は、呻き声ひとつあげることなく絶命していた。

 地響きを立てて横倒しになる、二頭の怪獣。

 そして音も無く優雅に、エバさんの前に着地する “真祖”


“まったくもって残虐にして鮮やかな手並みよ。串刺し公の二つ名は伊達ではないわ”


 濛々と立ち込める土煙の中で “僭称者” が、さも愉快げに笑う。


“貴様の造った出来損ないと比べるな。だが玩具とはいえ我の贋物がんぶつを造り弄んだ罪はあがなってもらうぞ”


“……不死属アンデッド風情が、誰に向かって口をきいている”


 余裕の滲んでいた “僭称者” の声が不意に、凶相を帯びた。


“むっ!?”


《離れてください!》


 “真祖” の端麗な口元が歪み、エバさんが叫んだ直後、“僭称者” がぜた!

 いや、爆ぜて――爆発したように見えただけで、実際には


「な、なによ、あれ!!?」


 グジュグジュッ、ブシュウウウウッッゥ……!!!


 蛍光色ピンクに明滅する巨大な、本当に巨大な、あれは、あれは――。


「ア、アメーバ!?」


 “僭称者” の周囲で蠢く、不気味な不定形の物体。

 それは大量で巨大な原生生物アメーバだった。


腐肉塊ブロブ” か。薄汚い忌み子が召喚するに相応しい”


https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669375438809


《ですが “怪物百科モンスターズ・マニュアル” の記述によれば物理耐性が高く、魔法全般の無効化能力も八五パーセントを超えています。のわたしやの公爵には竜属ドラゴンよりも嫌な相手と言えるでしょう》


“さらには致死耐性も九〇パーセント以上。“酸滅オキシジェン・デストロイ” でことも望めますまい”


《“バブリースライム” なら、核を潰せば溶け去ってしまいますが、一見したところそれらしい物は見当たりません》


“ならば見えている核を潰すまで”


 ヒュンンンッッ!


 主人との会話を切り上げるや否や “真祖” が、見えている “僭称者” に紅玉色の爪を伸ばした!

 カミソリよりも薄く針よりも鋭い爪が、“僭称者” の顔面に突き刺さるかと思ったその時、周囲の “塊” が盛り上がり壁となって吸血鬼の爪を防ぎ止めた。


“ほう”


 消失した爪の先端を見て、“真祖” が感嘆の表情を浮かべた直後、


“GiYaAAAAaaaaaaaaaaaaaaーーーーーーーーッッッッ!!!”


 頭蓋骨の内側を掻きむしらるような悲鳴が、“腐肉塊” から上がった!


“下衆が!”


 不定形が形作った泣き叫ぶ女の子を見て、“真祖” が激する!


“生き身の人間を喰わせたか!”


“くくくっ、然り! こやつはわしが直々に品種改良した特異体。そこいらの “塊” と一緒にしてもらっては困る!”


《炎っ!!!》


 エバさんの裂帛れっぱくの指示に、間髪入れずに “真祖” が 呪文を詠唱!

 “焔嵐ファイア・ストーム” を炸裂させる!


《氷っ!!!》


 さらに吹き荒ぶ、絶対零度の嵐!


 しかし燃え尽きたかに思えば再生し、凍り付いたかと思えば氷を砕いて再動する!

 しかもその度に、老若男女、人族、エルフ、ドワーフ、ノーム、ホビット、猫人、“こっちの世界” と “向こうの世界” のあらゆる人類の姿を作って金切り声を上げた!


“痛み、苦しみ。さいなめば苛むほど、こやつは活性する。苦痛だけが人として残された最後の感覚なのだ! ――さあ、どうさばく聖女エバ、この迷宮のマスターよ!”



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あけましておめでとうございます。

今年もどうぞ、迷宮保険&推しの子の迷宮をお願いいたします

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第一回の配信はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16817139558675399757

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エバさんが大活躍する本編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742

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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!

エバさんの生の声を聞いてみよう!

https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj

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