第30話 駆け抜ける嵐★

《ア、アラビアンナイト?》


 “僭称者役立たず” の背後に実体化した青い巨人を見上げ、レンゲがおののいた。


《“大気巨人エアージャイアント” です。ジャイアントと呼ばれていますが巨人ではなく、風の精霊の眷属です。生命力ヒットポイントは極めて高く、呪文も加護もほぼ完全に無効化します。魔法も竜息ブレスも使いませんが、アタックポイント最大攻撃力は180. 熟練者マスタークラスの戦士ですら一撃で叩き潰す剛力を誇ります》


《AP180って、HP180が一瞬で消し飛ぶってこと!?》


『なんだそりゃ!!?』

『パワー系なんてもんじゃねーぞ!』

『エバさんのHPだって108しかねーのに!』


 エバさんとケイコのやり取りに、視聴者が驚愕のコメントを返す!


“……くくくっ、そのとおり。前衛後衛問わずの難敵だが、魔法使いスペルキャスターの聖女には特に組みしにくい相手だろうて”


https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669172144279


《“吸血鬼バンパイア” も半分残ってるし……エバ、これはもう社長を呼ぶしかないかも》


 エバさんの社長さんは彼女の旦那さんであり、伝説の “運命の騎士” !

 召喚魔法で呼び寄せることができれば、希望が拓ける!

 

《ですが、それこそが “僭称者” の目的なのかもしれません―― “トレバーン陛下” を魔界から呼び出したのも、わたしにあの人を召喚させるためだったのでしょう?》


“……聖女窮地に陥るとき騎士現る。逆もまた然り。貴様たちは表裏一体。光と闇。狂王の召喚は我の挨拶代わり。だがあの場で思い至らず “真祖” に教えられて初めて気づくとは興ざめも甚だしい”


《そんな回りくどいことしないで最初から出てくればよかったのよ! 男らしくない爺さんね!》


“――なればこそ、今回はこうして現れた! さあ我のこの一手、いかに受ける! ニルダニスの聖女よ!” 


《エバ!》


 “僭称者” が問い、巨人が豪腕を振り上げ、ケイコがエバさんに戦棍メイスを放る!


護り御壁よマツ!》


 エバさんは戦棍メイスを掴むや否や、護りの障壁を発生させた!


護り御壁よマツ!》

護り御壁よマツ!》

護り御壁よマツ!》

護り御壁よマツ!》

護り御壁よマツ!》

護り御壁よマツ!》


 しかし “大気巨人” の振った巨大な拳は、エバさんが次々に張った半透明の防壁を易々と粉砕し、彼女たちの頭上に振り下ろされる!


散開ブレイク!》


 エバさんが叫び、レンゲとケイコと同時に三方に跳ぶ!

 直後それまで三人がいた空間に、圧倒的な質量が叩きつけられた!

 石床が砕け破片が散弾のように、周囲の “吸血鬼” たちをズタボロに吹き飛ばす!


“いつまでかわし続けられるかな? 他の盗賊ネズミはまだまだ未熟。共闘もできまい”


《エ、エバッ!》《エバさんっ!》


《“僭称者” はあの人を呼び寄せたがっています! 策略を見極めずに呼ぶわけにはいきません!》


“ならばどうする!”


《こうするのです! 目には目を、歯には歯を、そして風の精霊には風の精霊を! ――出てこいシャザーン!》


《ハイハイサーーーーー!!!》 


 次の瞬間、“僭称者” の後ろに控える “大気巨人” に対抗して、エバさんの背後にも半透明の雲衝くような大巨人が現れた!

 “大気巨人” を上回る巨体、豪壮で豪奢なターバン、すべてを睥睨へいげいする絶対強者の眼光!


《《な、なに!?》》


 レンゲとケイコが畏怖の声を重ねる!


《風の精霊王 “ダイジン” 大王陛下です――陛下、をお諫めください!》


《パパラパーッ!》


https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669209714925


 “大気巨人” が明らかに狼狽えている!

 それはそうだろう!

 エバさんの言うとおりなら、自分の王様と対峙しているのだから!

 

 召喚者である“僭称者” と主君である “大王” との間で板挟みになり、“大気巨人” は憐れにもブルブルと震え、耐えきれずに消滅してしまった!

 そして役目を果たした “ダイジン” 大王陛下も、エバにチャーミングなウィンクを残して一陣の風と共に去った。


《ありがとうございました、陛下》


《エバ、あんた……本当に何者……?》


 ケイコが呆然と訊ね、レンゲに至っては言葉もなくただコクコクとうなずくのみ。


《陛下には以前に御意を賜り、光栄にも知己を得させていただいたのです》


『エ、エバさん、あなたという人は……』

『す、凄すぎて、もはやコメントのしようがない……』

『旦那は “大天使アークエンジェル” に護られて、嫁は “風の精霊王” か……』

『……Jesus……』


“くははははははっ!!! ヒーィッヒッヒッヒッ!!! 凄い、凄いぞ、聖女! まさか風の精霊王まで誑し込んでいたとは! 聖も魔も使役する、まさに地下迷宮の申し子よ! ――ならば、これはどうだ!”


 “僭称者” が狂喜の哄笑と共に、 次の一手を打つ!

 不意に画面の中の空間がぐにゃり!と歪み、距離感が掴めなくなった!

 そして轟く、大咆哮!


「こ、今度はなんなの!?」


 拡がった空間を圧したのは “金” と “黒” の対照的な影! 

 一方は目も眩む黄金の輝き!

 もう一方は、闇の中でこそ映える濡れ羽色の美しい輝き!

 対照的な鱗に覆われた、二頭の大巨獣!


《“金竜ゴールドドラゴン”!!! “黒竜ブラックドラゴン”!!!》


https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669209589846

https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669209630087


“もうダイジンは呼べまい! さあ、どうさばく、聖女よ!”


 勝ち誇る “僭称者” に、エバさんがギチッと奥歯を噛む!  


《ガ、“緑竜ガスドラゴン” なんてもんじゃない……あれはもうゴジラだよ……》


《ガチガチガチガチッ!》


 ケイコがレンゲと抱き合いながら、ガクガクと震える!

 完全に血の気を失った顔!

 激しく鳴る歯の音をマイクが拾う!


『ヤベえ! ケイコとレンゲがブルってる!』

恐慌アフレイドしてる!?』

『ドラゴンの咆哮だ!』

 

 身動きが取れないふたりに、残っている “吸血鬼” たちが群がりよる!


護り御壁よマツ!》


 障壁を張り、ふたりを護るエバさん!

 突然目の前に出現した半透明の壁に激突し、吹き飛ばされる “吸血鬼” たち!

 しかし五〇匹もの不浄なる魔物は、次から次へとレンゲとケイコに飛びかかる!

 一片の慈悲もない数の暴力!

 

 ブウンッ!!!!


 解呪ディスペルを唱えかけたエバさんに、“金竜” の長大な尾が振るわれる!

 間一髪回避するも、祝詞しゅくしは中断されてしまった!

 “吸血鬼” たちの重みに抗しきれず、砕け散る護りの障壁!

 エバさんの顔が絶望に歪み、丸裸になったレンゲとケイコに、真紅の爪と純白の牙が殺到する!


「レンゲェェェエエエエッッッーーーーーーーーー!!!」


 眼前に展開される、凄惨な殺戮劇。

 肉という肉に突き立てられる、死の穂先。

 突然、迷宮の石床から林立した長槍パイクが、レンゲとケイコに飛びかかった “吸血鬼” という “吸血鬼” をした。

 そうして宙高く掲げられた “吸血鬼” たちすべてが、見る見るうちに干からびて、

悶え苦しみながら息絶える。

 


“この鮮やかなまでに残虐な手練、趣向――ついに穴蔵から姿を現しおったか”


 “僭称者” が、迷宮の闇に向かって向き直る。

 視線の先から跫音あしおともなく現れたのは、壮麗な大時代風の衣装に身を包んだ美丈夫。

 一九〇センチになんなんとする長身。

 豪奢な金髪。

 白磁よりもなお白い肌。

 ゾッとするほどに美麗で、完璧なまでに整った耽美な容貌マスク

 紅玉ルビー色の瞳が “僭称者” を捉え、スッと細まる。


“我が主に無礼を働く鼠輩そはいよ。己が生と決断を後悔するがよい”


 すべての不死属アンデッドの頂点に立つ “真のロード” が、主を護ってエバさんの前に立つ。


https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669209530463



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ご視聴ありがとうございました

風の大王『ダイジン』のエピソードは、本編のこちらから

https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742/episodes/16817139558905743268

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第一回の配信はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16817139558675399757

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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!

エバさんの生の声を聞いてみよう!

https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj

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