第29話 悪夢は三度甦る★

《エバ!!!》《エバさん!!!》《エバ、ゲロ!!!》


『『『『『『『『『『『『『『『エバさん!!!』』』』』』』』』』』』』』』


「エバさんっ!!!」


 ケイコが、レンゲが、カエルが、世界中の視聴者リスナーが、そしてわたしが叫び、暗黒の中から現れた彼女に希望の光を見た。


《遅くなって、もうしわけありません》


“現れたな、エバ・ライスライト! この悪の手先! 元締め! 権化め!”


 手先と元締め。

 矛盾に気づかないまま口汚く罵るマキオを、エバさんが見つめる。


《マキオさん、このような結末になってしまい、残念です》


 艶やかな黒髪が幾筋か汗で額に貼り付いてはいたが、息に乱れはなく、同色の瞳は凪いでいた。


“結末!? 結末だと!? ははははっ! なにを言っている! これは始まりだ! 僕が創る新しい世界のな!”


 憤怒の形相からの突然の哄笑。

 何度も見てきた、自分に都合のよい物語を見つけ出したときの、マキオの反応。


“嫉妬してるな! 嫉妬してるな! 嫉妬してるな! おまえの “聖女” なんか遙かに上回る力を手にいれた僕に! “ロード” となったこの僕に!”

 

 常に誰かに嫉妬しているマキオは、他人も常に嫉妬に囚われていると思っている。


《あなたは “王” ではありません、マキオさん》


 静逸な瞳と声で、エバさんが告げる。


《“吸血鬼バンパイア” を支配できるのは唯一人、最初に誕生した不死属アンデッドである “彼” だけです。それは “彼” が人類の天敵として生み出された存在だからです。

 “癒やしの加護” の恩恵を人間に与え賜ふた女神ニルダニスに、男神カドルトスが自然の立場に立って生み出した存在。

 “彼” は増えすぎた人類が自然を脅かさないための、守り人。

 故に “彼” は “吸血鬼” だけでなく、人類の天敵であるすべての不死属を従えることができる。

 故に “彼” は “王” と―― “真祖ロード” と呼ばれるのです》


“神が自然を守るために生み出した存在だって!? うははははははははははは! まさしく僕のことじゃないか! そうか、そういうことだったのか! 僕は――俺は神に選ばれたのか!”


「……く、狂ってる……!」


 狂喜するマキオの狂気にわたしは、わたしだけでなく世界中の視聴者が恐怖した。


《わたしは、あなたを “吸血鬼” に変えたのが “彼” だと考え、迷宮の最奥で “彼” とまみえました。交渉を含む “彼” との対決を制すれば、レンゲさんらを救えると思ったからです》


《それじゃあんた、たった一人で最下層へ!!?》


《ええ、ですがそこで “彼” から告げられたのは、想像を絶する事件の全容でした》


“なにをわけのわからないこと言っている! 神に選ばれた “真祖” は俺だろうが! その “彼” とかいう偽者はどこのどいつだ!”


 再びマキオが苛立つ。

 そんなマキオに、初めてエバさんが憐憫の籠もった表情になった。


《偽者は……偽物レプリカはあなたなのです、マキオさん》


“なんだと!!?”


《確かに “真祖” を生み出せるのは神々だけです。ですが……過去に一度だけ、その禁断の領域に足を踏み入れた者がいるのです。

 その者は、以前は “呪いの大穴” と呼ばれ、今は “ローマ・ダンジョン” と呼ばれる地下迷宮の最下層に大量の偽物を作り出し、討伐を目指す探索者たちと争いました》


《だ、誰なんです、それは……》


 怯え、震える声で訊ねるレンゲ。


《かつて向こうの世界アカシニア最大の魔導王国 “リーンガミル聖王国” を二度に渡って恐怖のどん底に突き落とした、一〇〇〇年王国の魔人。史上最凶の最悪の魔術師――。


 ――そこにいるのでしょう! ずっと見ていたのでしょう! 姿を見せなさい!》


 エバさんが叫んだ、瞬間!

 画面を通してさえ身体が凍り付くような、猛烈な妖気が溢れた!

 ガクガクと顎が、スマホを持つ手が、立ち尽くす足が、全身が震える!


(な、なに? なにが起こってるの?)


 そして……。

 目前の空間から湧きでる、人影。

 豪華な法衣をまとい、手にするは禍々しい気配を放つ錫杖。

 でも……でも……わからない。見えない。

 確かにわたしの両眼は、宝冠の下の素顔を捉えているはずなのに、そこにあるのはポッカリとあいた暗闇だけだった。


「……だ、誰……?」


“……くくくくっ、ようやく気づいたか。相も変わらず胡乱な娘よ”


 しゃがれ掠れた……老人にも老婆にも聞こえる耳障りな声。


三度みたび、冥府より甦りましたか》


“……四度でも五度でも、我を望む愚者がいるかぎり無限に甦ろうぞ。そして世界は愚か者の選択で満ちあふれておる……くくくっ!”


《ならば今度こそ、永遠の眠りに就かせましょう―― “僭称者役立たず” !》


 “僭称者役立たず


 その名は初めて聞くはずなのに、ずっと以前から心に刻み込まれている気がした。

 きっとわたしだけでなく、レンゲもケイコも世界中の視聴者も同じだと、わたしは直感した。


https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669169114245


“おい、テメー! いきなり出てきてなんだ! 今はをしてんだ、ジジイは引っこんでろ!”


《いけません!》


 ボクウッ!!!


 エバさんの警告が届くより速く、マキオを惨劇が襲った!

 まるで見えない暴走列車に衝突されたみたいに吹き飛ばされ、顔が、腕が、胴が、足が、潰れ砕けよじれて、ボロ雑巾のように壁に叩きつけられた!


“……犬が。主に吠え掛かるとは身の程を知れ”


 血泡を吹いて悶絶するマキオを、“僭称者” が一瞥する。

 その背後で透明な空気が徐々に青さを増し、筋骨隆々の巨大な姿を形作っていく。


《…… “大気巨人エアージャイアント” !》


 呻くようなエバさんの呟きが、最後の戦いの幕開けだった。



--------------------------------------------------------------------

次回、最終決戦

--------------------------------------------------------------------

ご視聴ありがとうございました

僭称者役立たず” のエピソードは、本編のこちらから

https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742/episodes/16816927862078365522

--------------------------------------------------------------------

第一回の配信はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16817139558675399757

--------------------------------------------------------------------

実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!

エバさんの生の声を聞いてみよう!

https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る