第27話 姉妹★
『お姉ちゃん、わたし迷宮探索者になるよ。それでお姉ちゃんの学費を稼ぐ』
『なにいってるの! あんた死ぬ気なの!? そんなの駄目に決まってるでしょ!』
『それじゃこのまま一生、貧乏の沼に嵌まって一緒にもがく?』
『わたしはそれでも構わない!』
『わたしは嫌。欲しい物も買えない。食べたい物も食べれない。なにより周りからのあの視線――見下されて、馬鹿にされて、哀れまれる人生なんて絶対に嫌』
『……レンゲ』
『わたしが迷宮で稼ぐから、お姉ちゃんはそれで沢山勉強して、良い大学に進んで、良い会社に入って、沢山お金を稼いで、そしてわたしを引っ張り上げて。そうしたら今度はわたしが勉強させてもらうから』
『…………』
『わたしは絶対にこのまま終わらない。必ずあいつらを見返してやる。お姉ちゃん、これはわたしたちの復讐だよ』
『……わかった。一緒に復讐しよう、レンゲ』
カメラの焼き付きが治まり、レンゲのおう吐物がスマホの画面いっぱいに映ると、後悔が走馬灯となって頭の中を駆け巡った。
“何度も言わせないでくれよ。すべては予想の範囲内だって”
レンゲの脇腹を蹴り飛ばしたマキオが、勝ち誇った表情で見下す。
“君たちのやることなんて、すべてお見通しだよ”
妹の目に宿る、激しい怒り。
自分を見下す人間へ向けられる、物凄まじい憎悪。
だからマキオに取り込まれてしまった。
胸に抱く闇に、心の隙間に入り込まれてしまった。
後悔した。後悔した。後悔した。
そして憎んだ。
妹をこんな目にさせてしまった世間を、社会を、国を、そしてなにより自分自身の決断を憎んだ。
「助けて! 誰か助けて!
そんな目をする子じゃないの!
こんな最期を迎える子じゃないの!
優しい子なの!
幸せになれる子なの!
ならなきゃいけない子なの!
お願い、誰か妹を――レンゲを助けて!」
スマホに向かって泣き叫んだ!
神でも悪魔でもいい!
妹を助けてくれるなら、命でも魂でもなんでも差し出す!
わたしたちには――わたしにはもうレンゲしかいないの!
《じゃあ、これも?》
“――え?”
何が起こったのか……わからなかった。
だたスマホの小さな画面を、呆気にとられたマキオの顔が、くるくると回りながら飛んでいく間抜けな絵面に、
「……え?」
と、わたしも同じ顔になった。
(……え?)
そして一瞬の虚を衝き、レンゲの仲間だった四人の “
再び閃光が走り、自分とレンゲを巻き込まないように抜群の距離感で投擲された“
画面の焼き付きがもう一度治まったときそこには、レンゲと生死を共にした仲間の姿はなかった。
硬直するわたしをよそに、
《《やーったった! やったった! ザマァみぃ!(ゲロッパ!)》》
最後には両手を腰に当てて呵々大笑した。
それでも奇跡を起こしてくれたのが、毛嫌いしていたあの人だとはすぐには判らなかった。
https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16818023212513994002
『うおおおっ!!! ケイコ、首刎ね!!?
『しかも素手――チョップじゃなかった!!?』
『忍者!!? ケイコ、忍者だったの!!?』
『Ninja!!? Keiko is Ninja!!?』
『OMG!!!』
『ええっ!!? もしかして世界初の忍者爆誕!!?』
『くノ一、ケイコ!!?』
《――え? ああ、違う、違う。あたしは忍者なんてそんな大層なもんじゃないよ。全部この指輪のお陰》
ケイコはカラカラと笑って、左手に着けていた分厚い革製の手袋を外した。
五本の指すべてに嵌まっている指輪のうち、ビッ!と中指を立て、
《 “
『おおっ! そうだった! 確かにそんなこと言ってた!』
『装備がいろいろ凄すぎて忘れてた!』
『いやぁ、盗賊のクビチョンパ! 凄い物を見せてもらった!』
『トールキンリング……トロールキングの指輪? それともプロフェッサーの指輪? どちらにしても凄いアイテムだ!』
チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪
チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪
チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪
チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪
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チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪
チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪
乱れ飛ぶスパチャの嵐。
《でも……どうして……?
レンゲが汚れた口元を脱ぐいながら、ヨロヨロと立ち上がった。
ケイコが駆け寄り手を貸す。
《その質問にはオイラが答えよう、ゲロッパ。答えはすべてのこの背嚢にあるのさ。ゲロゲーロ》
《答えようったって、あんたの身体じゃ取り出せないでしょうが――正解からいうと吸精なんて最初から受けてないのよ》
ケイコが膨れっ面のカエル(真鍮のくせになんと倍くらい膨らんでいた)代わって背嚢から取り出した物は――。
《エバさんの
《この “
《熊がよく出る所に住んでたせーだな、ゲロゲロ!》
《熊に死んだふりは効かないわよ。あんたの相棒にやってみればわかる》
《わっはっは!》《ゲロゲーロ!》
そこでまたも大笑するケイコとカエル。
《――そんなわけで今回なんとか切り抜けられたのは、みんなエバから借りた装備のお陰よ。あの
《そのエバさんは?》
《なんでもカタストロフを防ぐために誰かに会いに行くっていってたけど――まあ、その元凶は食い止められたんだから、地上に戻れば会えるっしょ》
“くくくくっ、食い止めただって? 馬鹿か、おまえは”
壁際に転がった首が、逆さになったまま嘲った。
ギョッ! と跳びはねる、レンゲ、ケイコ、カエル、視聴者。
《マキオ!!?》
《そんな、首を刎ねられたのに!!?》
レンゲに聞いたことがある。
不死の “吸血鬼” といえど首を刎ねられれば、その場での活動限界を迎えると。
そして泡立ち分解・消滅するが、やがて地脈を流れる闇と負の波動を吸い上げて、大概は自分の寝床である棺桶の中に甦る。
本当に殺すには高レベル聖職者の
でもマキオは、消滅どころか分解すらされてもいなかった。
“俺をそこいらの“吸血鬼” と一緒にするな。俺は “王” だぞ。選ばれた存在なんだ”
そしてむくりと状態を起こす、マキオの身体。
覚束ない動きで立ち上がると、逆さに転がっている頭にひょこひょこ歩み寄って、元の位置に載せる。
“んんっ~、なじむ、なじむぞ~”
あまりのおぞましさに、レンゲもケイコもわたしも、世界中の視聴者すら言葉を失っていた。
“親衛隊は消えたか。まあ岩の中に飛んでなければ、そのうち戻ってくるだろう――こいつらみたいに”
その瞬間マキオの背後の
一〇……二〇……三〇……四〇……いや、もっと!
“君らがぐずぐずしている間に追いついてきたのさ。それも仲間を増やしながらね。いまはもう一〇〇以上いるよ――みんな僕の下僕、最強のバンパイア軍団さ!”
終わらない悪夢が、わたしたち姉妹を苛み続ける。
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ご視聴、ありがとうございました
第一回の配信はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16817139558675399757
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エバさんが大活躍する本編はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742
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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!
エバさんの生の声を聞いてみよう!
https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj
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