第26話 逆転される
“初めて
重力を無視して天井に立っていたマキオは、
しかし四レベル分もの生体エナジーを吸い取ったにも関わらず、マキオにはなんの感慨もなかった。
仮にもすべての
マキオはあらゆる事実と現象を否定する。
遭遇する事象を否定し見下すことでまずは優越感を担保し、自我の安定を図るのが本能となっている。
それは “王” となったあとですら、その能力の判断にまで及んでいた。
一方で自身への否定にも繋がるので、すぐに肯定しなければならなかった。
打ち捨てたケイコの
そして驚愕の表情を浮かべるレンゲに、自信に溢れたを向けた。
“そうそう、“
「……うっ……あっ……」
ケイコは痙攣しながら、苦悶に顔を歪めている。
“吸血鬼” なら麻痺させるのも容易だったはず。
逆にそうしなかったことが、マキオの加虐性を示していた。
麻痺していればトドメを刺されるにしても苦痛は感じないからだ。
「あなた、まだ自分が探索者だと――人間だと思っているの?」
ギチッと奥歯を鳴らし、レンゲが意を奮い立たせる。
怖い。怖い。怖い。
へたりこみたくなるほど、泣き出したくなるほど怖い。
だが細動するケイコを見て、その恐怖を塗りつぶすほどの怒りが燃え盛っていた。
“まさか。僕はもうあんな下等な生き物じゃないよ。生物の頂点に立つ存在として、君に教えてあげただけさ”
レンゲは
“吸血鬼” となったマキオは、今の自分の
まともに戦って倒すことは不可能だろう。
(なんとかケイコさんが持っている “
どうにかケイコの所持している “
生き残るには、それしかない。
ぐずぐずしていたら、振り切った他の “吸血鬼” たちが追いついてくる。
(でも四階の扉を開けるための
昇降機自体はキーアイテムである “青の綬” がなくても使えるが、四階にある入口(下層から乗った場合は出口)の扉を開けることができない。
マキオを転移させることができたとして最悪、追いすがってきた他の “吸血鬼” に袋の鼠にされてまう。
“レンゲは何かを狙っていまずぞ、マキオ様”
“マキオ様、“
“それだ。大好きな “強制転移” でまたマキオ様を困らす気だ ”
“相変わらずこすっからい奴だ。マキオ様に対してなんて無礼な”
不意に聞き知った声が、背後の
“漆黒の正方形” が盛り上がり、四人の人影が現れる。
蒼白な肌と真紅の瞳。
瞳と同色の長い爪。
口元から覗く鋭い犬歯。
「……ホーイチ……リオ……ヤンビ……ゼンバ……」
“吸血鬼” と化したかつての仲間たちの登場に、怒りで奮い立たせたレンゲの心は粉々に砕けてしまった。
“やっときたか親衛隊。相変わらずノロマだな”
“もうしわけございません、マキオ様”
“お許しください。わたしたちはマキオ様と違って、ただの“吸血鬼” です”
“マキオ様のような選ばれた存在ではありません”
“嗚呼、神聖にして高貴な我らが王よ!”
自分を化け物に変えたマキオを、身をくねらせながら恍惚と賛美する仲間たちに、レンゲは激しく恐怖した。
以前見たカルト宗教の映像にそっくりだとも思った。
さらに醜悪なのは、満更でもないどころか大いに気を良くしているマキオの表情。
「……親衛隊って……マキオ、あなた……」
仮にも命を預け合った仲間への
ない。
あるわけがない。
マキオにあるのは強烈な自己愛と、その自己愛を満たすためならばあらゆる手段を正当化する、歪んだマキャベリ的思考。
“寂しがることはないよ、レンゲ。すぐに君も加えてあげるから”
「サイコパス……」
他者への一切の共感が欠落したマキオの言葉に、ついにレンゲの口からその言葉が漏れた。
自己愛。
サディズム。
マキャベリズム。
サイコパシー。
この四つが揃ったとき、完全無欠の犯罪者が誕生するという。
歴史に災禍をもたらした多くの独裁者にも、この傾向が見られるという。
マキオの
いまや “吸血鬼の王” となったこの男を地上に放てば、いったいどれほどの災厄を世界にもたらすことか。
(絶対に地上に出しちゃいけない!)
レンゲはハッキリと自覚した。
それは正義感や使命感といった崇高な思いではなかった。
人類をひとつの生命としてみたとき、マキオの存在は自らの生存を脅かす、絶対の脅威だった。
だから人類という名の生命体は、レンゲという名の細胞に指令を発した。
“いかなる犠牲を払ってでも、この脅威を排除せよ!”
(ケイコさん、ごめんなさい)
レンゲにはもう、ケイコを助けて共に生き延びる術はなかった。
それでもマキオを止めなければならない。
自らとケイコを犠牲にしてでも、カタストロフは阻止しなければならない。
(
この様子はヘッドカメラを通じて配信されている。
だから姉にも状況は伝わっているはずだ。
きっとDチューブのコメント欄には、姉からのコメントが溢れているに違いない。
聞けば決心できなかった。
(お姉ちゃん……ごめんね)
自分が “強制転移” の罠を作動させようとしているのは気づかれている。
馬鹿正直にケイコの雑嚢に飛びついても、簡単に阻止されるだろう。
“吸血鬼” のモンスターレベルは12.
レベル8の
(意表を突かないと――なんでもいいから、マキオたちの予想外の行動で驚かす)
しかしレンゲには、その行動が思い浮かばなかった。
周りを “吸血鬼” たちに囲まれ、彼女が採れる
いや、ゼロかもしれない。
(エバさん!)
この時レンゲは、エバ・ライスライトの再合流に一縷の望みを託していた。
そしてマキオたち “吸血鬼” も、彼女の出現を警戒していた。
誰もがこの場にいない最強聖女を、強く意識していた。
だから全員が彼の存在を、綺麗さっぱり忘れていた。
まったく失礼極まる話だった。
ピョン!とケイコの上に跳び乗ると、サングラスをかけたカエルのゲロボルタがフィーバーポーズも高らかに、残っていた “
“吸血鬼” には無害な罠。
それでも発動時には、強い閃光を放つ罠。
レンゲは目を塞ぎながら、無我夢中でケイコに向かって走った。
彼女が持っている “強制転移” の罠を作動させ、自分もろとも“吸血鬼” たちを地底深くの岩盤に閉じ込める。
強い意識があった分だけ、レンゲの動きは速かった。
キツく両目を閉じたまま倒れたケイコに縋りつき、手探りで雑嚢を――。
ボクゥ!
衝撃がレンゲの脇腹に炸裂した。
レンゲは内壁の際まで吹き飛ばされ、激しく嘔吐した。
激痛と息苦しさに、意識を失いかける。
よりケイコの近くにいたマキオの、サッカーボールキックが炸裂したのだ。
“何度も言わせないでくれよ。すべては予想の範囲内だって”
両手で右の脇腹を抱えながら、レンゲが吐瀉物に塗れた顔を上げる。
“君たちのやることなんて、すべてお見通しだよ”
「じゃあ、これも?」
“――え?”
次の瞬間、キョトンとした表情を浮かべたまま、マキオの頭が空中を舞っていた。
どんな魔剣よりも鋭利な手刀の一撃。
逆転に次ぐ逆転に次ぐ逆転を成したのは、レンゲではない
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ご視聴、ありがとうございました
第一回の配信はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16817139558675399757
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エバさんが大活躍する本編はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742
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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!
エバさんの生の声を聞いてみよう!
https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj
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