第25話 ファンブル
《ケイコさん、あなたが一緒に行ってくれると言うのでしたら、お願いがあります》
縄梯子を登り切り、再び身体を
《お願い? なによ?》
《あなたにはひとりで、レンゲさんたちを助けに行ってもらいたいのです》
《……どういうこと?》
《カタストロフを防ぐために、わたしには行かなければならない場所があるのです》
「ちょ、ちょっと! なに言ってるのよ!」
わたしはスマホに叫び、それでは伝わらないことを思い出して、慌ててコメントを打ち込んだ。
レンゲを――妹を放ってどこにいくつもりよ!?
そんな真似はさせない! 絶対にさせない!
《レンゲさんのお姉さん、あなたが怒るのは無理もありません。ですがレンゲさんを助けるためにも、わたしは行かなければならないのです》
《まずは状況を理解しないと。エバの話を聞きましょう》
ケイコがわたしをたしなめ、歯ぎしりしてスマホの奧の盗賊を睨み付けた。
《レンゲさんは “
《“吸血鬼” が――魔物が地上に出るっていうの!?》
《魔物が迷宮から出ないのは、あくまで彼らにその気がないからです。ですが
《それで……どうなったの?》
《多大な犠牲を払って撃退しました。しかしその時の魔軍には “吸血鬼” は含まれていませんでした。もし彼らが戦列に加わっていたら戦局は全く違っていたでしょう。もう一度言いますが、“吸血鬼” が一匹でも地上に出れば人類は滅びます》
そうしてエバは自身のヘッドカメラを外し、カメラに向かって、わたしに向かって訴えた。
《レンゲさんのお姉さん。レンゲさんは自分が助かることより、あなたの身を案じています。レンゲさんの気持ちに応えあなたと、なにより彼女を助けるには、わたしはどうしても、彼に会いに行かなければならないのです》
「彼って……」
《現在この迷宮を支配する者――
衝撃が激しい悪寒となって、身体を貫いた。
《彼は過去にもこの八階に探索者を誘い込み、眷属化して互いに争わせました。“
「アレク……なんとかって、誰よ?」
突然出てきた名前に困惑し苛立つわたしの声は届かず、エバは残っているすべての “とっておき” をケイコに渡した。
さらに――。
《これも持っていってください》
《あたしは盗賊だよ。それは使えないって。だいいちそいつはあんたの――》
《いえ、これは
渡せる限りの道具とさらにヘッドカメラを渡すと、エバは僧衣の下に秘している
そこでケイコと再会を約束し、自分はもう一度、迷宮の何処かへと “転移” していった。
《――さあ、それじゃレンゲを捜すよ》
装着者を移したヘッドカメラのマイクが、ケイコの決意の籠もった声を拾った。
◆◇◆
エバ・ライスライトの表情が凍り付いた。
迷宮の最奥で、主不在の玉座を守る怪人から告げられたのは、彼女の想像を遙かに超える事件の全容だった。
彼女は見誤った。
宝箱に仕掛けられた“
地下八階の “
“吸血鬼” と化す仲間。
すべての符号がかつて目の前の男が演出した “アレクサンデル・タグマン事件” と一致していたからだ。
エバは気づかないうちに、迷宮で最も忌むべき固定観念に囚われていた。
だから交渉を含むこの男との対決さえ制すれば、皆を救えると考えてしまった。
痛恨の
今回の事件を演出したのは、この男ではなかった。
想像を絶して、別にいたのだ。
エバはこの部屋の主から受け継いだ
封じられた “転移” の魔力を引き出す。
間に合うか。
否、間に合わせなければならない。
だが実際にリカバーできるかは、迷宮の時間の歪みに――自身の
そして彼女の運気はすべての
胸に手を当て頭を垂れる男の前で、エバは量子の光となって爆ぜた。
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ご視聴、ありがとうございました
今回言及された “アレクサンデル・タグマン”事件” のエピソードは、
本編のこちらで語られています。
https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742/episodes/16816452219051052276
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第一回の配信はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16817139558675399757
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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!
エバさんの生の声を聞いてみよう!
https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj
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