第24話 バンパイア・スタンピード
ひとくくりに
死体種。
霊体種。
不死人種。
死体種は、“
不死属の中では下等な存在とされ、動き回れるとはいっても腐敗し続けているので動作は緩慢であり、意識もない。
霊体種は、未練や恨みを残して死んだ人間の魂魄が安らぎを得ることなく、現世を彷徨っているもの。
肉体を持たないので、物理や魔法による攻撃にも耐性が高い。
反面自由に移動することができず、物、場所、他の生物などに取り憑くことで存在している。
物や場所に取り憑く低級な “
そして、不死人種。
生命活動を停止していながら、死んでいない生物。
呼吸は止まり心臓すら動いていないのに、腐敗せず、老化もしない。
意識もあり、生きた人間と同様に思考する。
強大な秘術で自らを不死化した “
魔術師系第三位階までの呪文を操るほどの高い知能を有し、吸血した人間を新たな同族として繁殖する。
反面、最高位の不死属として尋常ならざる自尊心を持ち、自分を “吸血鬼” にした相手であっても容易には服従はしない。
彼らが唯一純粋にして絶対の忠誠を誓うのは、“
その “
同じ
統一された意思の元の
意思は執拗にふたりの少女を、屈服・服従させることを望んでいた。
「ほんと、しつこいわね!
「
「伊達に不死属最高位の種族じゃねーな、ゲロゲロ!」
ケイコが、レンゲが、カエルのゲロボルタが、辟易した口調で次々に罵った。
駆け出しの
「この階層には
「そ、そう!」
ケイコの言葉にレンゲは、ほんの微かな慰めを覚えた。
踏んだ瞬間に床が抜けて串刺しにされたり、回れ右して “吸血鬼” たちの真ん中に突入する心配がなければ、少なくとも息が切れるまで走ることができる。
「逆よ、逆! どっちかでもあれば “まとめて串刺し” か “あっち向いて、ほい!” してやれたのに!」
「……」
「なに!? 吸血鬼と串刺しは “ドワーフと髭” でしょ!?」
言葉を失うレンゲに、エバ・ライスライトの一番弟子は息を弾ませながら言った。
「ケイコ、そろそろ次の手を打たねーと、やべーぜ、ゲロッ!」
「了解!」
レンゲを安心させるために軽口を叩いてはいるものの、ケイコも必死だ。
事前にエバと行なったシミュレーションを賢明に思い出し、“悪巧み” を練った。
手持ちの品と、周囲の構造と、置かれた状況。
すべてを勘案して、生き残るための最適解を導き出す。
(あたしが今使える武器は――
“スタナー” ×1
“ガス
“
“
“スタナー” は単体にしか効果がないうえに、おそらく“吸血鬼” には効かない!
“ガス爆弾” で毒にしたところで、そもそも死なないし、苦しまない!
不浄なる者だから神々の加護とは一番遠い存在で、“聖職者殺し” も意味がない!
やっぱり “強制転移” しかないか!)
しかしここで奥の手を使ってしまったら、身を守る術が底を突く。
ケイコは葛藤し、葛藤すればするだけ精神的にも時間的にも追い詰められていく。
(ああ、やっぱまだまだ未熟だ! エバだったらとっくに一発、逆転のカタルシスを提供してるのに!)
それでもケイコは考える。
手持ちの品に頼れないなら、周囲の構造、そして状況との組み合わせだ。
彼女たちがいま悪夢のように逃げ回っている地下八階の北西
十字路の中心はすべて
(十字路の手前の
迷宮の真の闇暗黒回廊は一切の光を吸収してしまうばかりか、エルフやドワーフの持つ赤外線を探知する “
猫と同様、わずかの光で闇を見透せる “吸血鬼” といえど暗黒回廊の中では視力を失うが、奴らは猫よりも蝙蝠に近い。
超音波を発して暗闇でも正確に物体捉えることが出来る。
なので最初の “強制転移” は暗黒回廊ではなく、出た直後の十字路に仕掛けた。
暗黒回廊の中では、却って奴らに警戒されると思ったからだ。
だからこそ今度は、暗黒回廊の中に置いた。
◆◇◆
“吸血鬼” たちも “強制転移” で石の中に跳ばされるのは怖い。
不死身の肉体を持つが故に、身動き一つ取れない石の中で血を吸えず、ジワジワと飢渇に苦しむのだけはご免だ。
“吸血鬼” にとって、生き血を啜れない以上の拷問はない。
日光に灼かれて灰になる方が、苦しみが短い分だけマシとさえ思っている。
それほど “吸血鬼” の血への渇望は強い。
だから暗黒回廊の中に転がっているそれを超音波が捉えたとき、“吸血鬼” たちは漏れなく急停止した。
怖々と “強制転移” の範囲外に出て、罠が発動するのを待つ。
“強制転移” は一
一秒……二秒……一〇秒……二〇秒。
罠は発動しない。
不発か?
“吸血鬼” たちは暗闇でお互いの顔を見た。
だが近づいた途端に、ボン! と “石の中にいる!” のは嫌だ。
そして誰かが言った。
“爆破処理しちまえ”
危険物の一番安全な処理方法だ。
複数の“吸血鬼” が同時に “
暗闇に爆発音だけが轟く。
容器が爆散したが、それでも中身の魔力が解放された気配はない。
狐につままれたような “吸血鬼” たち。
高度な知能を持つ彼らが、自分たちには無害な“聖職者殺し” でたっぷりと数分間足止めされたことに気づいたのは、さらに十数秒経ってからだった。
◆◇◆
「あははは! 引っかかった! 引っかかった! これぞケイコ式『空城の計』!」
背後から迫っていた足音の大群が消え、ケイコは走りながら大笑いした。
「奴らの猜疑心を利用して、無力な “聖職者殺し” を驚異に錯覚させたか、ゲロ! やるな、ケイコ! さすがオイラの一番弟子だ! ゲロゲーロ!」
「あたしがいつあんたの弟子になった――さあ、この
「ああ! ありがとう、ケイコさん!」
レンゲが感謝の声を上げた直後、視界が拓けた。
狭い玄室が広い空間に瞬時にして変わった。
「て、天井は――見える! 空間は歪んでない!」
“
彼女たちのパーティはここで “翼竜” の群れに襲われ、そして……。
「ちょい待ち! そっちじゃない!」
縄梯子がある北に向かいかけたレンゲを、ケイコが止めた。
「あたしたちが行くのはこっち」
ケイコがうながしたのは東だった。
「え、でも――」
「縄梯子でちんたら地上まで戻ってらんないっしょ。こっちの第二
「第二昇降機! ケイコさん、使えるの!?」
「イヒヒヒ! ちゃんとエバから
(わたしの方がレベルは高いけど、この人は抜け目がない!)
感嘆と賞賛の眼差しで、レンゲは先を走るケイコの背中を見た。
「この先は、
転移地点の前で立ち止まると、ケイコは自分とレンゲを
「最後の山場。覚悟はいい?」
「はい!」
「慌てず、急いで、慎重に行こう」
力強くうなづいたレンゲにケイコは微笑み、転移地点に足を踏み入れた。
それからふたりの
魔物の気配を感じれば息を殺してやり過ごし、気づかれればケイコが “
指輪で消し去れない
そして暗黒回廊を抜けて眼前に昇降機の巨大な扉が現れたとき、ケイコとレンゲは思わず抱き合い、涙ぐんだ。
涙を拭い、笑顔を見せ合うと、ケイコは扉に向かった。
昇降機自体は、キーアイテムの“
四階にある昇降機前の扉を開くのに必要なだけなのだ。
悪夢は終わっていなかった。
レンゲが気づき悲鳴を上げるよりも速く、黒い影がケイコに覆い被さった。
吸血ではなく吸精。
四レベル分もの生体エナジーが、ケイコから吸い取られる。
苦しみを与えるために、あえて
痙攣するケイコを放り捨てると、マキオがレンゲに向き直った。
床に打ち捨てられながら、ケイコは思った。
自分はやはり、未熟だと。
エバ・ライスライトが言っていたではないか。
“追われている探索者は地上に逃げ帰ろうとしますから、待ち伏せをするなら上りの縄梯子と考えるのが常道です”
地下八階から逃げるなら、縄梯子よりも昇降機だ。
さらに、そのエバがいたら思ったはずだ。
この場所こそ、あの悲運の
宝箱に仕掛けられた“
地下八階の “
“吸血鬼” と化す仲間。
もはや疑いようがなかった。
すべての符号が一致していた。
今回の事件はあの悲運の、“アレクサンデル・タグマン” 事件を模しているのだ。
そして――なればこそエバ・ライスライトは、この場にはいないのだった。
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ご視聴、ありがとうございました
今回言及された “アレクサンデル・タグマン”事件” についてはこちら、
本編の第二章で語られています
https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742
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第一回の配信はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16817139558675399757
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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!
エバさんの生の声を聞いてみよう!
https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj
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