第18話 地対空★

 金属性の鳴声が響き渡り、死を運ぶ羽音が頭上を旋回したとき、最も適切な行動を採ったのはレンゲだった。

 彼女は咄嗟にヘッドカメラをオンにして、映像を電波に乗せた。

 深い考えがあったわけではない。

 自分の身を案じる姉に状況を知らせようとした、ほとんど無意識の反応だった。

 それがマキオがへそを曲げてしまったために中断していたLIVE配信を再開させ、結果的にDチューブを介した情報の共有につながった。

 世界中が “翼竜ワイバーン” の群れに頭上を抑えられた、レンゲたちの窮地を目撃した。


https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330668630295874


◆◇◆


『うおっ、ビックリした!』

『唐突にLIVEが再開!』

『誰のカメラ!? つーか、何を映してるんだ!?』

『レンゲのカメラ! でもブレブレで何を映してるのか全然わからん!』

『MOBに襲われてる?? 右往左往してる!』

『なんで!? キャンプ張ってたんだろ!?』

『キャンプ解いてる!? 魔除けの魔方陣が消えてる!?』

『はぁ!? エバさんが絶対に解くなっていってただろうが!』


「なによ! なにが起こってるの!?」


 ガタッ!と椅子から立ち上がって、スマホに向かって怒鳴る!

 エバと合流して仲間も生き返って、もう大丈夫だと思ってたのに!

 なんでこんなに混乱してるのよ!


「レンゲ、どうしたの!? レンゲ!」


 コメント欄にメッセージを打ち込んでみるも、レンゲのカメラは激しくブレていてコメントを確認している余裕なんてとてもない!

 デバイスの読み上げ機能もオフになっているみたいで、言葉を伝える術がない!


「エバはなにをしてるのよ! ケイコなんて捜しにいくから!」


 依頼を放り出して、あんな女を捜しに行くから!

 プロならプロらしく、まずはレンゲを地上に戻しなさいよ!


(レンゲにもしものことがあったら絶対に許さないから!)


 歯ぎしりしてスマホを睨み付けるわたしの目に、氾濫するコメントが突き刺さる!


『天井! 天井見てる! レンゲが見てるのは天井!』

『真っ暗だぞ!? 天井なら “明かり” がなくても見えるはずだろ!』

『空間が歪んでる!』

『え!? それってまさかエバさんが言ってた――』


“GiYaaAaaaaaAaaaーーーーーーーーーーーー!!!”


 その時、金属の巨大な箱をひしゃげさせたような耳障りな鳴き声が、スピーカーを震わせた!

 そしてカメラを高速で過る、巨大な影!


「な、なに!? なんなの!?」


『 “翼竜” !? 今のが “翼竜” !? エバさんの旦那が苦戦したっていう!?』

『知らねえよ! 初見のMOBなんだから!』

『よく見えなかった!』

『マキオ、オタオタしてないで指示出せ! 指示!』

防円陣サークルフォーメーション! マキオ、防円陣を指示!』

『ああっ!? アタオカか、こいつ! 空飛んでる奴らに相手に一カ所に固まったら一網打尽だろうが!』


 まさしく視聴者リスナーの――メンターの言うとおりだった!

 背中合わせに一カ所に固まったレンゲたちは上空から猛スピードで急降下してきた “翼竜” の一通過で、バラバラに吹き飛ばされてしまった!


「レンゲ!!!」


 直撃じゃない! でも風圧だけで簡単に吹き飛ばした!


『速ええ! あんなのどうやって捉えろってんだよ!』

『リオが詠唱を始めた!』

『なんの呪文!?』

『これは―― “焔嵐ファイア・ストーム” !』

『もうそれしかないよ! 剣でどうこうできる相手じゃない!』

『そうか! 一度死んで甦ったから、魔法封じの罠が解けたのか!』

『 “焔嵐” は中規模範囲グループの攻撃魔法だから、密集したところに叩き込めば一気に殲滅できるかも!』

『飛び回ってるんだから、密集なんてするのか!?』

『そもそも何頭飛んでるんだ!?』

『頑張れ、リオ!』

『詠唱終わった!』


 直後、画面が爆発した!

 紅蓮の炎が暗闇を席巻し、真っ赤に染める!

 直前までの威嚇の声とは明らかに異なる苦悶の悲鳴が、スマホから響いた!


「やった!」


 快哉を叫ぶ、わたし!

 カメラの奥、レンゲの視線の先で、ひとつ、ふたつ――ふたつ!

 ふたつの巨大な物体が炎に包まれながら墜落して、床に叩きつけられたのだ!

 

『二頭撃墜!』

『二頭やった!』

『ナイス、リオ!』

『でもまだ生きてる!』

『戦士、トドメを刺せ!』


 ここぞとばかりに飛び出す、三人の戦士マキオ、ヤンビ、ゼンバ


「駄目! まだ無傷な奴が飛んでる!」


 叫んだときには、すでに遅かった!

 炎の呪文を逃れた三頭が、まるで糸で繋がれたような機動で、マキオたち目掛けて急降下した!

 マキオに、ヤンビに、ゼンバに、それぞれ一頭ずつが襲いかかる!

 鋭いかぎ爪が鮮血を引く!

 今度は誰一人として避けられず、マキオたちは深い裂傷を負って吹き飛ばされた!


 ――壁に寄って!


 レンゲが倒れている戦士たちに駆け寄りながら叫んだ!

 マキオに肩を貸して助け起こすと、近くの内壁に向かって移動する!

 ゼンバをホーイチが、ヤンビをリオが助け起こし、レンゲに続く!  

 

『そうだよ! 壁際なら “急降下爆撃” はできない!』

『ソレダ! レンゲ頭いい!』

『勢い余って激突か! 確かに!』

『急げ!』

『急いで!』


 大柄な戦士に肩を貸しての移動は、もどかしいほど遅かった!

 特に非力な魔術師メイジ であるリオは、ヤンビを支えるだけで精一杯な様子だ!

 レンゲは脇目も振らずに壁際に向かう!

 そして壁に向かってマキオを投げ捨てるととって返し、リオの反対側からヤンビを支えた!


「馬鹿、なにやってるのよ!」


 妹のお人好しぶりに、頭を掻きむしる!

 今は他人ことなんて助けてる余裕ないでしょ!

 レンゲが何かを叫ぶ!

 ハッとしたリオとホーイチが、同時に魔法の詠唱を始めた!


 充分な高度に達した “翼竜” の編隊が、巨体にため込んだ位置エネルギーをまたも運動エネルギーに変換、再び急降下に移る!


『来るぞ!』

『逃げろ! 逃げろ!』

『伏せろ! 伏せろ!』


 しかし魔法を詠唱しているレンゲたちは、動かない――動けない!?


「逃げて!!!」


《今よ!!!》


 レンゲの叫びが、わたしの悲鳴を打ち消す!

 

 リオが詠唱を終え、ホーイチが祝詞しゅくしを唱えあげる!

 耐呪レジスト不能の暗闇が三頭の視覚を奪い、半透明の強固な障壁が進路を塞ぐ!

 視界を奪われた “翼竜” は、空中に出現した壁に頭から激突!

 墜落こそしなかったものの体勢の立て直しに追われ、獲物を狩るどころではなくなった!

 “翼竜” の狂ったような咆哮に背を向け、今度こそ壁際に逃れるレンゲたち!


 わたしは安堵してしまって、だからカメラの先いるはずのマキオがいないことに、すぐには気づけなかった。

 カメラが、レンゲの視界が歪む。

 そして……映像は途切れた。



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ご視聴、ありがとうございました

第一回の配信はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16817139558675399757

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エバさんが大活躍する本編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742

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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!

エバさんの生の声を聞いてみよう!

https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj

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