第10話 机上の正論★

「か、囲まれた!」


 僧侶プリーストのホーイチが、恐怖に引きつった声を上げた。


「“邪眼犬ゲイズハウンド” よ! 麻痺パラライズを持ってる!」


 短剣ショートソード を逆手に、レンゲが叫ぶ。

 毒牙を剥いて威嚇する、五匹の魔獣。

 初めて遭遇する魔物だったが “認知アイデンティファイ” の加護の効能で、訓練所で叩き込まれた “怪物百科モンスターズ・マニュアル” の知識と照合することができた。


「ど、どうすんだよ!?」


 恐慌アフレイド一歩手前の表情で、ホーイチが質す。

 死んだ仲間リオを背負ったままでは、戦棍メイスも盾も構えることができない。


「突破する!」


 高揚した声でマキオが答えた。

 勝算も成否も関係ない。

 事象に対してを述べていれば評価されてきた。

 周りがなんとなく賢そうな人だと思ってくれた。

 実行者ではなく評論家であること。 

 それがマキオの処世術だ。

 

 だが実際のところ、それしかなかった。

 包囲されてしまった以上、逃亡は困難であり、戦って血路を拓くしかない。

 息をするように吐き出されるに引きずられ、困難な戦いに突入するレンゲたち。自己責任。


「ハッッ!!!」


 飛びかかってきた一匹に、マキオがロングソードを叩きつけた。

 確かにマキオには、戦士ファイターとしての素養があった。

 肥大した自我のために他我との関係を構築できず、これまで何をやっても最終的に鼻つまみ者になってきたマキオ。

 そんなマキオが吸い寄せられるように “新宿ダンジョン” で探索者になったのは、もはや必然といってよかった。


 マキオだけでなく、社会に適応できない人間たちが最後の居場所を求め、迷宮街に寄り集まった。

 ある者はエーテル耐性がないために、訓練場の能力検査で問答無用にはねられた。

 ある者は検査には通ったものの、その後の基礎訓練に耐えきれず脱落した。

 運良く探索者になれた者も半数が、最初の迷宮で苔むした墓を建てた。

 

 そんな数知れぬ悲嘆に呑まれることもなく、まがりなりにも古強者ネームドまで上り詰めたマキオには、確かに探索者としての素養があった。

 それがマキオの幸運であり、マキオとパーティを組んだ者の不運だった。


「GiSyaaaaaaーーーーーーッッッ!!!」


 犬とも蛇ともつかない悲鳴を上げて、マキオの逆撃を受けた “邪眼犬” が壁際まで吹き飛ばされた。

 身体を縮こまらせて、シュウシュウと醜悪な威嚇声をあげる魔獣。

 深手だったが、息の根を止めるまでには到っていない。


「くそっ、魔剣だったら殺れてたのに!」


 多くの戦士の例に洩れず、マキオも魔法強化がなされた剣を欲していた。

 まだ世界で五本と確認されていない魔剣を持つ者は、羨望の的ステイタスだった。

 他者からの羨望。

 マキオにとってそれは生きるうえで不可欠な、だった。

 

 だがその欲求の吐露が、レンゲたちの心を騒つかせた。

 今回の苦境を招いたのは他の誰でもなく、魔剣欲しさにパーティの反対を押し切り “強制転移テレポーター” の仕掛けられた宝箱を開けさせたマキオだ。

 罠の解除に失敗したのはレンゲとはいえ、強行させたのはマキオなのだ。

 それなのにまったく気を病む様子もなく、魔剣への渇望を口にしている。

 普段や納めている憤りが極限状態であるが故に、腹の底を破って噴き出した。


 一時的で擬似的な凶暴化バーサーク


 憤激が恐怖を打ち払い、レンゲの短剣 が、ヤンビの剣が、ホーイチの戦棍が、滅多矢鱈めったやたらに振るわれた。

 そのうちのヤンビの振り回した剣が運良く、“邪眼犬” の急所を刺し貫いた。

 マキオが吹き飛ばした一匹と合わせて、血路が拓らかれた。


「――今だ!」


 マキオが叫び、先頭を切って走り出す!


「待って、リオとゼンバが!」


 レンゲが悲鳴を上げた。

 戦いの最中。

 ホーイチが背負っていたリオも、ヤンビが担いできたゼンバも、今は彼らの足下に打ち捨てられている。


「置いていけ!」


 仲間たちは耳を疑った。

 この男は何を言ってるんだ?

 つい先ほど、パーティ全員で還ると大見得を切ったばかりではないか?

 

「この状況では無理だ! 全滅するぞ!」


 一聞すると、正しい言葉。

 だが一連の言動を俯瞰ふかんすると、矛盾だらけの言葉。

 リーダーのその場その場の正論が、またしても仲間たちをかき乱す。


◆◇◆

 

「――ゲロゲーロ! 気をつけろ、ケイコ!」


「ちっ、ババ引いた……!」


「“侍大将チャンプサムライ” ×6! こいつは “大大名メジャーダイミョウ” や “小大名マイナーダイミョウ” の番頭部隊長だ、ゲロゲロ! 腕が立つぜ、ゲロッパ!」


https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330668165504916


「ゲロ吐きそう……」


「どうする……? 見たところ友好的フレンドリーじゃなさそうだぜ、ゲロ」


「刀抜いてにじり寄ってきてんだから、そりゃそうでしょ……もう“魔術師殺しメイジブラスター” がない」


「残り物でなんとかするしかねーぜ、ゲロッパ!」


「的確なアドヴァイス、ありがと――う!」


 ヒュンッ!


 ジリリリリリリリッッッッッッッ!!!


「ここで “警報アラーム” を使うか、ゲロゲーロ!」


「同士討ちさせてやる!」


「なにがくるゲロ!? なにがくるゲロ!? 隣の玄室には何が巣くってるゲロ! 開けてビックリ玉手箱、ゲロゲーロ!」

 

 ――バンッ!!!

 

「「ゲエッ!? “緑皮魔牛ゴーゴン” & “合成獣キメラ” ×3!!」」


「「この階で一番遭いたくない魔物の群れ(ゲロ)!!」」


「ゲロゲロ! ケイコ、やりすぎだ! いや、呼びすぎだ!」 


「し、知らないわよ! ――さあ、侍たち、気合い入れて倒さないと、あんたたちも一緒に丸焼けよ!」


「うお、すっげえ、すっげえ! “侍軍団” vs “緑皮魔牛” & “合成獣ズ” ! こいつは銭が取れるぜ、ゲロゲーロ!」


「商売っ気出してないで、この隙に逃げるよ!」


竜息ブレス四連発、くるゲロ!」


「焼かれる前に隣の玄室に飛び込む!」


「ゲロッパ! 気張れ、ケイコっ!!!」


 轟轟轟轟ッッッッ!!!!


「熱チチチチチチッ!!! は、速く扉を閉めろ! 姿焼きになる、ゲロゲーロ!」


 バタンっ!!!


「はぁ、はぁ、はぁ――!!!」


「ゲロ、ゲロ、ゲロ――!!!」


「「た、助かったぁぁ――(ゲロ)!!!」」


「GuRururUruRUッッッッ……!」


「「――ふぁあっっ!!? “合成獣”、もう一匹!!!」」


 轟ッッッッ!!!


◆◇◆


『酷え! マキオが、ゼンバとリオを捨てていくように命令!』

『こいつ、これでもリーダーか!?』

『レンゲたち硬直!』

『そりゃそうだろう!

『マキオとそれ以外、仲間割れ! 仲間割れ!』

『レンゲがリオを抱えて動かない!』

『当たり前だ! 仲間を捨てて逃げられるか!』

『“邪眼犬ゲイズハウンド” にまた囲まれた!』

『ヤンビ、咬まれた!』

『麻痺! ヤンビ、麻痺!』

『ケイコとカエルもヤバい! 隣の玄室に、もう一匹 “合成獣キメラ” が残ってた!』

竜息ブレス!!! “合成獣” 、竜息吹いた!!!』

『エバさん、“転移テレポート” !!!』

『エバさん、行ったー-ーっっっ!!!』

『エバ! ( ゚∀゚)o彡° エバ! ( ゚∀゚)o彡°』

『どっち!!? どっちを助けにいった!!?』

『つーか、予定より全然早い! まだどっちも魔法封じの区域エリアから出てねー!』



To be continued...



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ご視聴、ありがとうございました

第一回の配信はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16817139558675399757

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エバさんが大活躍する本編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742

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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!

エバさんの生の声を聞いてみよう!

https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj

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