第4話 フルアーマー・ケイコ

《いえ、目指すのはわたしではありません――彼女です》


『『『『『『『『『『げぇ! ゲロケイコッッッ!!!』』』』』』』』』』


《ゲロは余計だ!》


 三日前に迷宮の入口で会った革鎧の女性が、カメラに向かって怒鳴った。


「どういうこと!? なんでこの人が潜るのよ!」


 わたしも画面に向かって怒鳴る!

 当然だ!

 世界最強の迷宮探索者というから、エバ・ライスライトだから頼んだのに!

 なんでこんなわけのわからない人が出てくるのよ!


《“魔法封じアンチマジックの罠” が掛かってる区域エリアに、いきなり僧侶プリーステスのエバを送り込むわけにはいかないでしょ。呪文も加護も魔道具マジックアイテムも使えないんじゃ、いくらこの熟練者マスタークラスだからって実力半減よ。下手したら二重遭難になる》


 ケイコ……と呼ばれる盗賊シーフ が、カメラに向かって軽く肩を竦める。


《だからあたしが先にメッセンジャーとしてマキオたちに接触して、状況を説明して あいつらを “魔法封じの罠” の外まで連れ出す。そこでエバと合流して地上に戻る。もちろん途中で出会う魔物は全部スルー。それが今回の計画》


《隠密行動ではわたしよりもケイコさんです。今回はご本人の申し出もありまして、協力を仰ぐことにしました》


(本人の申し出ってなによ……? お金が目的? それとも売名?)


《わたしはまだレベル7で古強者ネームド未満だけど、レベル8のレンゲが遭難してる以上、すぐに動ける盗賊はわたしぐらいだったんでね》


 そしてケイコの表情と口調が変わる。


《エバが生きている限り望みはある。この娘の安全をどれだけ確保できるかが今回のミッションの成功の鍵だよ》


『ケイコ……漢』

『姐さん!』

『ゲロケイコ、覚醒!』

『説得力ある!』

『確かに重装備のエバさんがスネークするより、身軽なケイコの方が成功しそうだ』

『マキオたちがいるだいたいの座標は判ってるんだからな』

『つまりケイコがマキオ'sを見つけ出して、近くにあるはずの転移地点テレポイントに飛び込む。そしてその先の魔法が使える区域にいるエバさんと合流でOK?』

『OK』


《もちろん我が社もケイコさんを全面的にバックアップします。社の備品を貸与して可能な限り彼女の生存率を高めます》


《どうよ、この豪華な革鎧。他の装備もだよ》


(バリバリって、あんたいつの時代の人よ!?)


 得意顔で装備を見せびらかすケイコに、いらいらが頂点に達する!


《武器:貫くもの (短剣ショートソード +2)

  胴:絢爛たる鎧(革鎧レザーアーマー+2)

  盾:支えるもの(シールド+2)

  頭:転移の冠 (ヘルム+1)

 籠手:真銀の籠手(籠手グローブ+1)

 

 魔道具マジックアイテム

    滅消の指輪  “滅消ディストラクション” の呪文が使える。5%で壊れる

    示位の指輪  “示位コーディネイト” の呪文が無限に使える。永久品

   亜巨人の指輪  オートリジェネ、生命力ヒットポイント+1 & 致命の一撃クリティカル

     棘の指輪  “棘縛ソーン・ホールド” の呪文が使える。10%で壊れる

     炎の指輪  炎の竜息、呪文のダメージ緩和

   抗魔の首飾り  攻撃呪文のダメージ緩和


 装甲値アーマークラスは、驚きの-3!》


『おお、すげー!』

『Excellent!!!』

『ケイコもフルアーマー化した!』

『これで勝つる!』

『つーか、知らない魔道具がまた出てきた』

『灰の道迷宮保険は、ほんと物持ちがいいなぁ』


《もっとも “転移の冠” は最初に使っちゃうから、すぐにただの鉢金はちがねになっちゃうんだけどね。だから装甲値は-1で頑張ることになる》


視聴者リスナーの皆さんとは装備品を含めた情報共有を行ない、アドヴァイスを頂きたいと思います》


『エバさんは八階の経験があるの?』


 視聴者のひとりが訊ねた。


《一度だけ潜りました。ですが “魔法封じの罠” がある区域エリアに足を踏み入れたことはありません。罠の経験があるのは社長さんですが……あの時は本当に間一髪でした》


 深刻な表情で過去を思い出すエバ。

 視聴者とのやりとりはそれで終わりだった。

 ケイコは最後エバと二言三言言葉を交わし、ヘッドカメラを装着して、するすると巧みな動作で縄梯子を下りていった。

 魔法伝導物質エーテルのない地上からは直接転移できないのだ。

 手慣れた様子に、少しだけ安心する。

 すぐにエバも続く。


 一階に下りるとエバは、“恒楯コンティニュアル・シールド” と “認知アイデンティファイ” の加護を嘆願した。

 単独行ソロなので、“永光コンティニュアル・ライト” は掛けないようだ。

 エバが離れるとケイコは真言トゥルーワードを唱え、”転移の冠” に封じられている “転移テレポート” の呪文を解放した。

 カメラを包み込む、光の粒子。

 まぶしさに、思わず目を逸らす。

 光が治まり再び視線を向けたときスマホには、一階とはまったく様相の違う階層フロアが映っていた。

 

《八階に着いた。状況ミッション開始だよ》



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ご視聴、ありがとうございました

第一回の配信はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16817139558675399757  

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エバさんが大活躍する本編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742

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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!

エバさんの生の声を聞いてみよう!

https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj

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