戦争P‐Ⅰ:語世継「嵐の前の静けさ」
『嵐の前の静けさ』という言葉は、まさにこのときのためにあったのだと、僕は思う。
たとえこの先何があろうとも、僕はこの考えを撤回することはないだろうし、撤回したいとも思わない。なによりも僕は、このレベルのことは二度と起きてほしくないのだ。
まあ僕の、僕たちのことだから、少し先の未来には同じようなことを言っているんだろうし、今の僕に対して『まだ楽な方だっただろ』みたいなことを愚痴っているんだろうけど。それでもこんなことは二度とごめんだ。
確かに、逆境は人を進歩させるけれど。
おそらく僕たちがこの戦いを生き残ったのは、実力ではないから。つまり僕たちが勝てたのは、そういう運命だったからだ。
協力者、敵、今までの経験などなど、いろいろなことが絡まった上での勝利、豪運と言うにはあまりにも運が良すぎたというのもあるけれど――運も実力の内、とは言うけれど―――それでも、たった一つの絶対的な理由があの戦いには存在している。
――この戦いは『あの人』のための戦いだったから、だから勝てたのだ。
きっと、とは言えない程にそれは明らかな理由だった。彼女の能力がこの戦いを機に消えてしまったことがその証拠である。
自身の能力はこの戦いのために存在し、そしてこの戦いの先を僕たちに託すために存在したのだと、彼女は言っていた。
言うなれば、この戦いが彼女の、最終章であったのだろう。
だから僕たちは、嵐から命からがら逃れることができた僕たちは、彼女の――『あの人』のためにも、これからも戦い続けなければならないのだ。
6月16日のことだった。
その日は金曜日、特に何があるわけでもない金曜日のことだったのだ。
「なあ、夜坂」
「何だよ」
確かその時は、僕の席の後ろで楓くんと蓮くんが話してたんだ。別に僕がハブられてるわけではなく、それは3人で会話してる途中の会話だった。
そのうちの一幕。
「『機関』ブームは終わったのか?」
「確かに、言わなくなったよね。機関。」
任務前は機関機関って言ってたのに。
「『厨二病』の能力がなんとなく把握できたタイミングで辞めたんだよ、機関の話するのは。」
「把握できたタイミング?」
「ああ、言ってなかったっけか。雄――俺の姉が教えてくれたんだよ、俺の能力。任務のときに能力解ってないのはまずいでしょ、って。」
確かに、と納得してしまった。
いや、さっさと能力について言っておけばよかったな。
「だから――かな、あんま妄想しないほうがいいんだなぁ、って思ってさ。」
「中二病脱出の理由が自主的な規制とか面白すぎだろ」
「言うな」
蓮くんの耳が赤い。
なんかギャップだな……。
「そもそも結構黒歴史なんだよ、あれ。だからこれ以上…その、『機関』については言わないでくれ。」
頼むから、と蓮。
「厨二病なら厨二病しきれってことだな。」
対して最低なオチを付けた楓くんだった。
その日の部活では新聞部の新聞を発行していた。
「写先輩」
「何だ?」
プリンターの前で多才くんと写先輩が会話していた。ちなみに僕と瑠璃川先輩は部室中心の机に座ってプリンターを見ている。
「この号だけめっちゃネタ多くないですか?」
「まあそりゃそうだろ。テロリスト聖剣魔王七つの大罪化物エトセトラ、ネタが切れるほうがおかしいんだ。」
今なら自信を持って言える。もう一週間待ったらさらにネタが増えたよ、と。
「去年もこんな感じだったんすか?」
「いや、去年はこれの10分の1くらいしかなかった。瑠璃川先輩のときは?」
急に会話が飛んできた。
「いやぁ、ここまで事件らしい事件は起きてなかったし、そもそも新聞部とかまだなかったんじゃないかな」
「ってことはまあ、夜坂が来たからだろうな。」
やっぱり結論はそれか。
「語くんって同じクラスだったよね?実際どうなの?」
「蓮くんですか?…あー、まあ最近は拗らせてないらしいですよ。」
さっき聞いたから確かな情報である。元々拗らせていたかと言われると、まあ拗らせてはいなかったと思う。
一般的な中二病だ、割と重症ではあるけれども。
とまあ、そんなようなことを話していると当たり前のように――実際当たり前に時間は過ぎていくわけで。つまり何が言いたいのかと言えば、印刷が終わったということである。
「さてと、これを配ればいいんだが……」
写先輩は言葉を濁す。そして多才くんが最速で反応、
「え、何か問題ありました?」
「面倒くさい」
「ああ……」
先輩らしからぬ先輩の姿がそこにはあった。
「うん、配ろっか。4人で配れば早く終るでしょ?」
逆にちゃんと先輩らしくある先輩もいた。瑠璃川先輩である。
とまあこんな感じで新聞部は活動した。
そして、話は冒頭に戻る――
というわけではないけれど、しかし事件が起きた翌日には移ることになる。
――夜坂蓮が失踪した。
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