化物E:環楓「転校生」

 数日経ってから判明した事実の話。

「化物の話、終わってないってマジ?」

「ああ。化物の噂、まだあるらしいぜ。」

 帰路に着いた段階で思い出したのは、とある二人の会話だった。




「ペトラさんじゃねえのかよ」

 第一に突っ込むべきところはそこなのだが、しかしFF外から話をふっかけられるほど俺はコミュ強ではない。

 結果、盗み聞きで終わった。

「やあ、どうも」

 目の前に男が立ちふさがった。いや、別に道を塞いでたわけじゃないんだが。

 そんなことより俺が気になったことは、


――何故、少なくとも音速を超えるであろう15時半以降の『帰宅部』を目で捉えられたのか。


 ということである。

 目で捉えるのはそれほど苦ではないのかもしれないが、かといって話しかける気になるだろうか。

 しかし一応他人、ここはいい感じに対応しようじゃないか。

「えっと、どうも」

「申し訳ないが、夜坂蓮という少年を知っているか?」

 ここで姿を描写しておこうか。その男はスーツを着ていた。しかしそれは社会人的なそれではない、かといって他の何とも形容できない――言ってしまえば、かなり気持ちの悪い見た目である。

 だから、というわけでもないが見知らぬ男に『夜坂蓮』という存在を知られていることがとても不気味に感じた。

 不審者、誘拐犯一歩手前と言うか。

「知ってるが、あんた誰だ。」

「知ってるのか、」

 無視すんな、と言う前に俺は絶句した。

「ならばお前が、環楓、『帰宅部』か。」

 何故ならば、俺の名前だけではなく能力すらも把握されていたからだ。

 それはつまりその男が『只者でない』ことを証明していた。

「どうした」

 俺がたじろいでいると、その男は俺の方に向かって跳んできた。


 10メートルは空いていた距離が一瞬で数センチほどに縮まった。

「――!!」

 俺はやつと同じように後方に跳んだ。回避である。

「どうした、何故避ける?」

 避けるだろ、普通!

「怪しいからだよ察せ!!」

 俺は全力で逃げた。

 そう、『帰宅部』の全力で、である。音速以上だったっけか。


 しかし、逃げ切れはしなかった。

「何故逃げる?俺は――」

 俺は跳んだ。

 電柱に乗る。

 おいおい、なんだあいつ。人か?

 もしかしてあいつが化物の正体なんじゃないのだろうか?もしくは化物が化けた姿なのか。

「あいつ、どこ行きやがった。」

 先程居た道路のど真ん中にはいなかった。ちなみに道路と言っても住宅街の道路なので車通りはほぼゼロ、実質的に歩行者天国(あれ、これって死語なのか?)である。

 俺が周りをキョロキョロと見回していると俺の頭に影がかかった。

「こっちだ」

 そいつは俺の真上にいた。


――。


 別の電柱に飛び移った。

「ほう、元いた電柱を壊すことで俺の足場をなくしたか。」

 うわ本当だ、電柱折れてるじゃん!ごめん!このあたりに住んでる人たち!!

「……とにかく、あんた、誰だ?」

「あれ、言ってなかったか?」

 こいつの話し方はどこかで聞いたことがあるな。ああ、貝塚の貝に枯れ木の木が名字のやつか。

 雰囲気がどこかの不吉な男に全体的に似ているだけだな。

「俺は金切圓美かなきりえんびだ。黄金の金に切る、円の旧字体である圓に美しいと書く。」

 金切圓美、か。

 珍しいとか言う次元じゃないくらい聞いたことのない名前だ。おそらく人違いを起こすことはないだろう。

「まあ、警戒されてしまっては元も子もないのでな。ここは一度退かせてもらうとする。」

 待ちやがれ、という気にもならなかったので俺はそいつを帰すこととした。

 勝手に襲ってきて勝手に退くとは、これいかに。




 昨日あったことを言おうかと思っていた翌日のことである。

 ついに転校生がやってきた。

「転校生は何が出来るんだろうな」

「ああ、『偶人』っていう能力で、人形を使役することが出来るらしいぜ。」

 何故お前が知っているんだ、夜坂蓮。

「ちなみにそいつの名前は天入律月あまいりりつきって言うらしいぜ」

 だから誰に聞いたんだよ。

「時雨に聞いたんだけどな。」

「お前エスパータイプの才能あると思うぜ。」

 なんて冗談を吐く俺だった。



 天入律月、謎の転校生である。

 そもそも6月に転向してくるという時点であまり普通ではないのに、転校という概念が存在しないこの学校もどき――最近になって生徒の間に『異能学校』という呼び名が付けられた――に転校してきたのだ。

 何の文句もなくそのままの意味で『謎』である。



「どーもー!!」

 例の天入が教室に入ってきた。

「天入律月でーす!えっと、転校生っていう体で来てはいるけど実際は引きこもってただけ、今日が中学初登校でーす!」

 とだけ言って出ていく転校生。

「………。」

 あいつ自分が転向してきたクラスでもねえのにとんでもねえカミングアウトしていきやがった。

「なあ」

「え、何?」

 俺は無意識のうちに真隣に居た鬼血に話しかけていた。

「正直転校生の第一印象はどうだ?」

「まあ、またイカれたやつが来たな、って思ったよね。」

「だよな」

 共感してくれるやつがいてよかった。

 まあ、この調子じゃほとんどが共感してくれそうだが。

「あー!!」

 またうるさい転校生が戻ってきた。

「今度はどうしたんですか?」

 おお、言葉さんが委員長ムーブをかましている!!

 似合いすぎだろ。

「化物についてなんだけど、私倒してきちゃったから!」


 沈黙。


 世界が止まったかと思うほどに静寂だった。環境音すらも静まり返っていた。

「マジ?」

「マジ」

 とんでもない転校生が来たもんだ。

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