化物N‐Ⅱ:夜坂蓮「これは魔王の生前の話である。といっても、奴はまだ生きているがな。」
「これは我の生前の話である。といっても、我はまだ生きているがな。」
不憫な魔王は言った。
「……いや、格好つけてもらって悪いんだけどさ」
うん、分かるんだよ。お前が魔王だから威厳を出したいってのも分かる。
「でもお前さっきまで元勇者に怯えてただろ」
お前を殺した元勇者に。
夜坂転とゆかいな仲間たちに怯えてただろ。
「うん、それは言わないでくれ。頼むから。」
「ごめん、うん。」
魔王は座っていた。
「魔王様、玉座に座ってください」
「やだ、だって寒いじゃん。」
魔王はストーブの目の前に座っていた。
「魔王の間もちゃんと暖かいですから、玉座に――」
「その玉座が冷たいんだよ!それにゲームも持っていけないしさぁ!!」
その時の魔王は今のようなロリ体型ではなく、一応ちゃんと大人っぽかったらしい。まあ、この魔王の言う事だし行ってても14歳あたりの見た目だろう。
というか台詞的にもそうじゃないと見てられない。
「…勇者、今魔王城から100キロ地点にいるようですよ。ほら、勇者のためにもラスボスとして君臨しておかないと。」
「そもそもおかしいじゃん!?暴れてる魔物は魔王軍から逃れた野生で、その他はやられたからやり返してるだけなんだよ!?それなのに魔王が悪だだの、魔王を殺せだのと……王様に和平条約的なのを送ったときもあったけど、その手紙食っんだって!碌でなしだし人でなしだよ!」
「碌でもないのは今の魔王様だと思いますが」
「ぐふっ」
魔王は精神的ダメージを負った。
魔王は瀕死になった。
「もうだめだー、この精神状態じゃ勇者と戦えないわ~。」
………。
お前、もう魔王辞めたらどうだよ……。
「……拷問部屋にでも送りましょうか?」
「嫌だ、それだけは本当にやだ。」
魔王によると、『拷問部屋』というのは身体的精神的苦痛的性的拷問を強制的に受けさせるため魔法を練られた部屋らしい。
誰もいないのに感覚だけが刺激されるから気持ち悪いらしい。『色欲』の魂を犯す能力をイメージしてもらうと良いと思う。多分。
「そもそも我魔王ぞ?魔王拷問部屋に送るって何?あと『でも』って何!?」
舐められている。いや、もっと舐めたほうがいいレベルで権威がなさすぎる。ちゃんと反省しやがれ。
「もうペトラが勇者全部追い返せよ~、お前ならできるだろ?」
「それじゃ勇者が可哀想でしょう。魔王様、私達は倒されるべき存在としてここにいるんですよ。私達が倒されることで、人間たちは平和に暮らせるのです。」
「いやぁ……どうせあいつら争うって。我いなくなってもあいつら戦って滅ぶって。」
…それに関しては事実かもしれない。
魔王もまともなこというんだな。いつも世界征服だとか世界破壊だとか言ってる気がしたんだが、こいつは違うのか。
「一応は我々世界征服を目的としてることになってるんですから。」
やっぱ世界征服しようとしてんじゃねえか!!
「一応、な?しかもそれも人間たちの争い止めるためじゃん。」
…そもそも何で人間たちの争い止めようとしてるんだよ。
「ってか何で人間たちの争い止めようとしてんだよ?我々魔族なのに」
と、思ったが質問していたらしい。
「んー、前魔王様の意向ですね」
その魔王多分だけど闇堕ちした勇者だよ、うん。
でなきゃ人間側に味方とかありえないから。
「ちぇ、父さんの意向なら仕方がねえや。」
というかなんだこの魔王、キャラコロコロ変えすぎだろ。
「あ、勇者パーティ魔王城に侵入してきましたよ」
「え、何で?いやいや、魔王の間に行かせたいだけの嘘でしょ?」
「マジです」
と、いうような流れがあって、どっかの俺の妹と戦いボロ負けしたというところに繋がる――らしい。
「お前魔王として終わってるよ」
「失敬な、他の魔王もこんなもんだぞ」
んなわけ……いや、ちょっとあるかもしれないのが怖いな。
「ってか、お前多分勇者の娘だぞ」
「はぁ?何言ってるんだ、あの小娘には我は産めん。そもそも、たとえ我の住んでいた世界だろうとあんな少女に手を出すのは罪だ。」
「いや、あの馬鹿じゃなくて。」
ってかあいつが産んでる状況ってどんなだよ。
『魔王vs勇者』の構図が『娘vs母親』の親子対決になっちまうじゃねえか。というかそれ普通『息子vs父親』でやるやつだから。
いや、勝手に妄想して勝手にツッコむのはやめよう。収集がつかない。
「前の勇者だよ。ほら、前の前の魔王がやられたのも勇者が倒したからだろ?」
「いや、老衰で逝ったらしい」
「平和だな!?」
老衰で逝く魔王とか初耳だぞ!?
「…にしてもその、側近さん――ペトラ、だっけ?なかなか面倒見が良いな。」
「おい、それは我が我儘で子供っぽいということを遠回しに言っているのか?」
「今気づいたのかよ……」
なんなら会ったときからずっと言ってた気がするが。
別に我儘な感じはないけど子供っぽさは――いや、これはガキっぽさと言ったほうが正しいか。
魔王、お前にはとにかくアホだし不憫なやつってイメージしか無いよ。
「酷いイメージだ……もう魔王やれない……」
「なら一生夜坂転とゆかいな仲間たちの一員だぞ」
「それも嫌だッ!!」
――という流れで自分語りは幕を閉じた。
「いやいや、勝手に閉じるな。」
「あ、モノローグ改変したのバレた?」
「バレないほうがおかしいからな。」
声聞こえてるし。
「質問したいことがあるんだよ、一つだけだけど。」
「ほう?言ってみろ」
「何故お前に拒否権があると思っているのかは甚だ疑問だがまあいい。お前、最初の寂しそうな顔って何だったんだよ」
だって明らか死んだ人を思い出すときの回想の入り方だったじゃん。
「ああ、死んだんだよ。そのとおりだ。」
「え、勇者に殺されたとかってことか?」
「お前ちょっとは間違えてくれないか?我が格好良く正解を語れないだろ?」
お前に格好良さなんて微塵も残ってねえよ、とは言ってやらなかった。
俺なりの優しさである。
「まあ、あいつは一応消えてはないからな。どこかで、会えることを願うよ。」
「……ま、いい話だったよ。多分。」
ちゃんとストーリーを追っていたなら泣けただろうに、魔王が適当に語るからこうなる。
とはいえまさか、再会がその話をした翌日になるとは思っていなかっただろうがな。
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