化物編

化物N‐Ⅰ:夜坂蓮「自由登校ってことは行かなくていいんだな!?」

 本日6月13日。

 任務から1日が過ぎた。

 でまあ、『七つの大罪』と戦うとかいうあのエグい任務直後なので今日から一週間は自由登校の日となった。

「自由登校ってことは行かなくていいということだな。」

 魔王が俺のリュックを持って言う。

「おい魔王、自由登校でも俺は行く気なんだよ。だからお前握っているそのリュックを離せ。」

「奪い取りでもしたら燃やすぞ。」

 ………。

 何でだよ!

「俺お前に何かしたか!?したなら悪かったよ、謝るから離してくれ!」

「貴様は何もしてない」

「じゃあ何で怒ってんだよ!!」

「わた――我は何もしてないから怒ってるんだよ!!毎日毎日妹は我を追いかけてくるし、捕まったら強制的に他4人と一緒にわちゃわちゃだ!あいつら風呂まで一緒に入りやがるんだぞ!我の魔王としての尊厳どこ行ったんだーっ!!」

「お、おう。たった一日でそこまでの洗礼を……」

 なんというか、やっぱめちゃくちゃ不憫だ。

「なんというか、そりゃ悪かったよ。」

「だから貴様にも一日中家に居てもらって我の苦しみを味わってもらう」

「でも八つ当たりは違うだろうが!!」

 可哀想だとは思うけど巻き込むのは違うだろ。

「通せ!!」

「嫌だ!!」

「子供かよ!!」

「見た目は子供だから駄々こねてもいいだろっ!」

「魔王としての尊厳自主的に捨ててるじゃねえかよ!!」

 子供だから駄々こねていいって……。

 魔王の圧ゼロじゃん。

「どうしても行きたいなら……私を倒してから行け。」

「それ魔王の台詞じゃないだろ。」

 どちらかというと師匠とかか?

 陣営の時点で間違えている。

「はぁ……わかったよ」

「お、やっとわかったか。じゃあ今日は我と一緒に――」

 クローゼットから光り輝く剣を取り出す。

「こいつで斬る。」

「聖剣じゃん!?」

「そ、聖剣。お前倒せば行けるんだろ?なら死なない程度にボッコボコにしてやる。」

「すいませんでした!!もうしませんから!だからどうか今日だけはうちに居てください!あいつら怖いんです!」

 爆速で土下座した…。

 情けない魔王だ。

「仕方がない。今日はいてやる。」

「え、まじですか!?やったぁ――!!」

 魔王から全力のガッツポーズが出る。

「そんなに嬉しかったか……というか、そんなにあいつら――転ちゃん一味のこと嫌いかよ。」

「嫌いというか苦手だ。我は主に一人で生きてたからな、ああいうわちゃわちゃしたのはあんまり慣れてない。話したことがあるのなんて親か側近くらいだ。」

 親か側近……。

「何でそんな酷いことに……」

「酷いことって言うな、傷つく。」

 どうやら魔王に精神攻撃は有効らしい。いや、精神攻撃が有効な魔王ってなんだよ。多分前代未聞だわ。

「そりゃそうさ。だって魔王の娘、次期魔王の身だ。訓練だの何だのと言って自由時間なんて碌に与えてもらえなかったさ。友達は居なかったし、魔王になったらなったで恐れられて話しかけられなくなるしでさ。」

「意図せず判明した過去編がなかなかに辛い……!」

 それも物語性のある辛さじゃなくて現実的に辛いやつ。

 それだけ苦労して最終的に転ちゃんなんかに殺されたらたまったもんじゃない。いや、勇者に倒されてるからそれ自体はまだいいのか。

 やばいのはその勇者に下僕として飼われてることだ。

「でーびーちゃーん、出ーておいでー」

「ひっ」

 魔王が身体を縮こませた。

「身体が声を覚えてんじゃねえか……」

 条件反射。

 魔王として君臨した罰がこれなんだとしたらやりすぎだと思うぞ、夜坂転。

「ほら、魔王様……縮こまってないで、転ちゃんはどうせここも探しに来るからさっさと隠れて。」

「うぇえ……」

 もはやこの魔王のほうがいもうとしてるんじゃないかと思う。

 なら義妹キャラか?


 俺の部屋のドアが開く。

「デビちゃん来てない?」

「来てない」

「魔王の子なんだけど。」

「名前覚えてないとでも思ったか、ここには来てねえよ。」

 魔王の子って言葉を『魔王という職業をやってる子』って言う意味で使うのこのタイミングしかないと思う。

 魔王の子って普通魔王の子供って意味じゃないのか?

 魔王本人なことある?

「そっかー、じゃあ見つかんなかったらもう一回来るから。」

「来るな、いまから一人でやるから」

「なっ……変態!!」

「はいはい」

 ダッシュで去っていった。

 なんだあの妹キャラ、兄のこと変態って言ったぞ。

 急に妹らしくなったじゃん。魔王にその立ち位置取られたくなかったか?

「…行った?」

「おう、なんならもう来るなとも言ってみた。」

 もう来るな、というか入ってもいいけどその場合俺のそれを見ることになるけど?と言う脅しである。

「危なかった……毎回クローゼットとかに隠れてやり過ごしてるんだよ」

「少し前に流行ったフリーホラーRPGかよ。」

 青い鬼のやつ。

「でも嗅覚が凄いらしくて毎回見つかるんだ。」

「違うあいつ鬼じゃねえ、犬だ。」

 鬼を退治する方だった。

 太郎と雉と猿はいつ連れてくるんだろう。

「で、何するんだ?ここで話してたってしょうがないだろ。」

「……じゃあ、我の――いや、私の話をしよう。」

「話って…何の話だ?」

「昔話だよ。」

 追憶。

 何か寂しげな表情で、魔王は言った。


――これは魔王……いや、私の。ヴァルク・ディアボロの、どうしようもない友だちの話だよ。


「聞いてくれるか?」

「おう。」

 魔王は、その少女についての物語を語った。

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