化物N:環楓「終わるということは始まるということでしてⅡ」

「化物?」

「そう、化物の話……ってより、噂かな。」

 化物の噂、か。

「噂って……それ信用できるのかよ?」

「うーん、正確に言うのであれば都市伝説とかそういうのかな。でもまあ、まだ『都市伝説』になりきれてないから、『噂』って呼んでるって感じ。」

「へえ……で、その化物ってのは何なんだ?」

「いやぁ、何というかさ。本当に『化物』としか表しようがないんだよ。動物とか人間とか、そういうのじゃないし。かと言って架空の生物にいそうかと言われるといなさそうなんだよ。」

「そこまで形容しがたい見た目かよ……」

 結局『噂』程度か。

 まあ、実際に化物がいたら恐ろしいから良いんだけど。




 回想。

「プリントって……学校じゃないんすから」

「いやまあ、そうだけどさ。写くんがいるからコピーがめちゃくちゃ楽なんだよ。なんせ一枚作っちゃえば同じものがいくらでも作れちゃうんだしさ。」

 そこには前回の『七つの大罪』に対しての色々をまとめたプリントが30枚程度積まれてあった。

「で、これを俺に運べってことっすか。」

「え、いやあ……別にそういうわけじゃないけど…?」

「いや、さっき分身先輩が『悪い!運んでくれ!』って逆攻先輩に頼んでたじゃないっすか…」

「見られてたか…」

 見られてたって……。

 完全犯罪みたいなテンションで仕事を押し付けようとするなよ。

「逆攻先輩、なんか用事あるんですか?」

「ハッキング」

「情報部って犯罪組織かなんかなんすか…?」

 普通に部活に行くって言えよ……。

「仕方ないな……わかりましたよ、運びます。ただ、運ぶだけっすからね?配ったりはしませんよ?」

「ああ、ありがとう。マジ助かる。」

「まあ、分身するのも疲れるでしょうし。手伝ってあげてもいいかなって。」

 少々ツンデレ気質のある台詞だが、まあ言ってるのが俺なのでセーフだと思う。

 今この瞬間、俺によって環楓でBLを書くやつはいないと断定された。というか書くな。

「二次創作は別に自由だけどな。」

「え、何の話?」

「いや、こっちの話。じゃあ後はやっておきますから。」

「そ、そうか。じゃあ頼んだ!この礼は必ずする!!この礼はいつか、精神的に!」

 借り返す気ねえじゃん……。




 というようなことがあり、今はプリントを各教室に回しているときにたまたま多才と出会ったというところだ。

「そんな化物なら会ってみたいもんだな。」

「そうか?俺は都市伝説とか七不思議とかすげえ嫌いだから分かんねえな」

「何で急に七不思議が出てきた……」

 何気ない会話を続けていると、いつの間にか話は転校生の話題に移っていた。

「転校生、来週だってな。」

 流石に自由登校期間に転校というのも可哀想だということで転校生は来週から来ることになっていた。

 無駄な配慮だ。

「そうだな……ま、俺3組だし関係ないんだけどな。」

「転校生イベントってよくあるけど、流石に1年生のしかも6月に来るとは思わねえわな。」

 早すぎる。

 2年生とかに来るやつだろ。

「本当にな…ってか、そういう意味じゃ前の学校通ってたの2ヶ月ってことになるのか?」

「いや、そもそも学校に通ってたかってところからな気もするけど……」

 能力もあるし、普通に学校に通えてたかはわからない。

「あ、やっべ」

 多才が何かを思い出したように言う。

「どうした?」

「悪い楓、そろそろ新聞部の記事集めに行かないといけないんだ。」

「ああそっか、新聞部だっけか、お前。ってか新聞部仕事熱心なやつ多いよな……。」

 語然り、多才然り、写先輩然り、瑠璃川先輩然り。

 逆攻返も見習ってほしいものだ。

「じゃ、頑張れよ。」

「おう」

 そう言って多才は新聞部の部室としている会議室の方に走っていった。

「廊下を走っても良いのはこの学校もどきの良いところだな。」

 訳の分からない理論を提唱したところで俺は、自身の手に持っているプリントが残り7枚になっていることに気づいた。


――あと1年2組だけだ。


 何で1年1組と3組にプリントを置いてきたときに忘れてたんだよ、俺。

 まあ、答えは多才能と会ったことで集中力が切れたからなんだけど。

「会議室行くんだったら2組の前も通るよな……」

 こんなことなら多才に任せておいたほうが良かったんじゃないかと思いつつ、俺は1年3組の教室へと向かった。

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