任務Ⅸ:識見曲「限界突破の魂」

 『認識偏向』の欠点。

 それは偏向した認識――感覚やら感知やらを全部とは言わずとも一部だけ引き受けることとなるということである。

 そして、『色欲』の能力は魂を犯す能力だ。

 簡単に言うのであれば、魂に直に感情を注入する能力である。

 血液にアルコールを入れれば、たとえ一滴でも恐ろしいほどに酔いが回ると言う。ではそれと同じことを魂にやってみようものなら、その能力を食らった人間はそれはもう瞬きする暇もなく一瞬で廃人になるだろう。

 ではでは本題。

 その魂の強姦を受けた上で、さらに他3人分を認識偏向で請け負ったときには、何が起きるだろうか。


「私は『色欲』――ルクスゥです。」

 礼儀よく挨拶をするその人は、『戦い』とは全く無縁に見えた。

「色欲?え、なんか思ってたより清楚なんだけど……」

 歌奏先輩が言った。

 確かに色欲担当にしては清楚がすぎる見た目だった。人のことを見た目で判断しちゃいけないんだけど。

「能力の解説をしておきますね。」

「え、それ言っていいやつなの!?」

 瑠璃川先輩が突っ込む。

 いやまあ、一応能力バトルなんだから言っていいやつではないだろうが。

「私の能力は『色欲』で、人の心に強制的に感情を流すことができます。」

「――っ!?」

 えげつない能力が明かされたのと同時に全員に『異変』が起こる。

「そちらの『圧倒的美貌』の方には絶望を、『強制服従』の方には恐怖を、『説得』の方には快楽を、『認識偏向』の方には諦めをそれぞれ与えま――した。」

 不自然な間を取って彼女は言う。

 『圧倒的美貌』とか快楽とか真顔で言うの辞めてくれ。

 言ってることと顔のギャップで笑っちゃうから。

 それはともかく、チームGのメンバーはわかったと思う。

 あえて説明するのなら、俺、言葉諭、冬中歌奏、瑠璃川永流の4人である。

「っはぁッ……っ」

 艶めかしい声。

「――っ」

 声と言っていいのかわからないくらいに怯える声。

「………」

 もはや声も出さずに顔を曇らせる者。

「ルクスゥさんよ……その能力、なにか欠点あったりしないか?」

「いいですよ、教えてあげます。負けないので。」

 おっと。

 諦めの感情を植え付けられたにしては少し出過ぎた真似をした気がするが、しかしそれもまた、一種の諦めなのだろう。

 ウジウジ悩んで何も言わないことを諦めた。

 感情の発散の仕方はひとそれぞれなのだから、諦めの感情をそうやってしょうひしてもいいだろう?

「私の能力の欠点は与えた感情の半分が私に帰ってくることです。まあ、半分なので致命的ではありませんが、複数人相手となると少し不利です。それでも4人ならさばけますがね。」

「……おう、ありがとうな。ただ、能力に関係なくもう一つ欠点があるぜ。」

「……はい?」

 もはや自分の能力は知り尽くした、というような表情をする彼女に対して、俺はこういった。

「攻略法を自分から言うのはどうかと思うぜ?」

 『認識偏向』。

 4人分のオーバーな感情を一新に請け負う。

 不可能に近い行為だ。でも、やるしかないだろう。

 魂の限界を超える挑戦である。

「――は?」

「4人分………ッ!!耐えてやったぜ……!!」

「いや、馬鹿なのですか、あなたは。そんなの時間稼ぎにしか――」

「時間稼ぎでいいんだよ、俺にゃ仲間がいるんだから。」

 起きるまで、起きた後コイツをぶっ倒すまで、その時間を稼ぐだけでいい。

 だから俺は、ここにいるんだ。

「『色欲』さん……多分だけどこれは、感情に耐えれるかどうかのバトルになるんじゃないかなと思うぜ。」

「…人間風情が、生意気なことを。」

 出力を上げたらしく、目眩と言うかなんというか意識がぐわんぐわんする。

 辛うじて相手を捉えることはできるものの、しかしこれ以上をやられたらやばい。

「――がぁッ」

 それは向こうも同じなようで、おそらくだが頭を抱えてしゃがんでいる。

 ぐわんぐわんしてない意識でその状況を目の当たりにできたのなら、『色欲』とは関係なくその姿に魅了されていたかもしれない。危ない危ない。

「先輩――起きてくださいッ!!」

「――悪い、情けない所見せたわ。」

 初めに起きたのは歌奏先輩だった。

「『従え』」

 その言葉を聞いた瞬間、まるで夢から覚めたように意識が戻っていく。

 おお、これが素面か。懐かしい。

「『従え』『従え』」

 『強制服従』の発動条件は、相手の脳に『従え』という音を知覚させることだ。

 本人はなんだか中二病みたいで嫌だなぁといっているけれど、まあこの学校には厨二病に振り切ってる奴がいるからあまり気にしても仕方がないだろう。

「よし、能力は解除した。あとはまあ、こいつらを学校に連れ帰れば終わり、か。」

「そうですね。」

 というような会話をしていると、ふと、あることに気づく。


――諭さんと瑠璃川先輩はどこだろうか。


 …いや、気づいたは気づいたけどさ、別にそんな深刻な問題じゃなかったんだ。

 要は諭さんが3人の前でまあまあな痴態を見せてしまったので隅っこで落ち込んでいるのを瑠璃川先輩が慰めていると言うだけだった。

 ……だけ、と言うには、傷跡があまりにも深すぎたけれど。

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