任務Ⅷ:暗闇病舞「キメて殺るだけだぜっ」
今思うと私の能力である『狂愛』を発動したのは、入学直後の能力の確認を兼ねた体力測定という名の1年生大乱闘が最後だったか。
などと思う私の手には、既に『薬』が握りしめられていた。
「……なあ、疑問なんだけどよぉ?お前、何で倒れねぇんだ?」
『暴食』はそんな事を言う。
「何でかな…?んまぁ多分だけど、愛が重いからじゃないかな?それこそ、狂愛ってことで。」
友情を大切にする。
そうだ、それが私の目標だった。だからこの能力をあまり使わないようにしてたんだ。
でも、今なら。
重い愛をともに背負ってくれる仲間がいる今なら。
「じゃあ私、トぶから。」
そう言って、私は錠剤を30粒ほど飲み込んだ。
めっちゃ頑張って飲み込んだ。
さてと、七つの大罪担当、我々Fチームが相手にしているのは『暴食』である。
能力は相手の感情を喰らうというものらしい。つまりは相手を無気力状態にさせるわけだ。
ではそれに対抗するFチームが誰で構成されているのかというと。
私と渡――世界渡、写模先輩に幻中千影先輩。
能力で言えば『狂愛』『世界線移動』『模倣』『幻影』だ。
まあ、それらの能力が『暴食』に対処できるかといえば、それはできないだろう。
「で、このザマってわけだよ。」
とても血色が良いとは言えない顔の青年の姿をした『暴食』は笑った。
「そーだなぁ……これじゃただの屍だ」
私も笑った。
楽しい。
「でも私はさぁ……そんな屍だとしても友達だと思えるんだよ…『暴食』――えっと、グーラって名前だっけ?まあ、お前みたいなやつとは違ってなぁ。」
私はカッターナイフを取り出す。
「お、それで戦うの?でも無理でしょ、リーチとか短すぎるしさ」
ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべてそいつは言う。
「いいや、これはそうやって使うんじゃないよ……っ」
私はカッターナイフを手首に当て、押し込んだ。
血がじわじわと流れていく。
「ホントはさ……これヤッてればいい順位まで行けたと思うんだぁ………あの大乱闘。」
沿いってカッターナイフを一気に引き抜く。血が空気中に跳ね、躍動する。
そしてその血は形を変え、音を置き去りにするスピードでグーラと名乗る青年に向かっていく。
血は肉体を貫き、そして新たに空気中に血を撒き散らせる。
「あッ…が……お前…それぁズルだろうが……!!」
いいや、戦いにズルなんてない。
大事なのは、正々堂々殺ることじゃないのだから。
勝てばいいのだから。
「そんなんドーピングした時点でわかってたことだろうがッ!!」
まだ手首から出続ける血を固める。そうして形成されたのはそう――鎌だった。
真っ赤な鎌。
それはもう、血液を吸い尽くしたかのような見た目だった。まあそりゃ、血そのもので作られた鎌なのだからその色になるのは当然すぎるほどに当然だった。
「殺ろうぜ!殺し合い!!」
「……お前、マジで女子中学生か?いや、むしろ思春期といえば納得できるが。」
中二病だといいたいのだろうか。
いやいや、中二病と言うかメンヘラなんじゃないかな、これは。
私の能力を発動するのにわざわざオーバードーズやらリストカットやらをしなければいけないのだからまあ、メンヘラではないのだけれど。
それらを自慰行為としてやってるわけではないので――必要としてやってるわけではないので、メンヘラを自称するのは失礼だと思うが。
「でもお前を殺しゃあ全部終わるもんなぁ!?ならぶっ殺す!!」
狂気。
そこに愛はなかった。
強いて言うなら、そこにあるのは友への親愛だった。
「来いよ、受けて立つぜ。何でもありでいいんだな?」
「え、何でもありでいいの?じゃあ――」
暴食の心臓を刀身が貫く。
「『模倣』は物体の模倣もできるんだ。世界線移動等を駆使すれば、刀の材料をかき集めることなんて簡単だし、幻影があればその作業中もお前に気づかれない。唯一能力のヘイトを誰に向けておくかが鍵というか、難点だったのだが……そこは病舞が引き受けてくれたってわけだ。」
そんなことが『暴食』の後ろ側から聞こえる。
「大丈夫っすか?写先輩。」
「おう、幻中もいるし、最悪渡が逃がしてくれるからな。安心して刺せたさ。」
というような感じで、我々はすごーくいい感じにチームプレイで『暴食』グーラを討伐したわけだが、しかし他のところはどうだったのだろうか。
そう考えると、成果報告的な時間が楽しみだった。
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