任務Ⅳ:アイ「憤り、怒り、鎮める。」

 …どうにかしている。

「もう永久機関だなァ…!イーラ!!」

「…小賢しい。」

 凍った足を無理やり動かす大男。

 その大男に立ち向かう少年。

 その少年は、私たちの知る少年だった。


 チームC。

 私、多才能、日生下優、凍浜結。

 1年生3人と3年生1人。

 その4人が相手にするのは『憤怒』――イーラと名乗る大男だ。

 彼の能力は至ってシンプル。身体強化とブースト、それだけだ。

 しかしシンプルイズベスト、その能力こそが最強。


「なら、やることは一つだな。」

 彼は――多才君は迷わず言う。

「ゾンビアタック…だな。」

「…まあ、単純には単純で対抗するべきだとは思うよ?」

 でも、狂ってるでしょ。

 私は言う。

「狂ってるなんて言い方良くないですよ…」

「いや、いいんだ。実際狂ってるし。」

 そんな、非人道的な――。

 そんな、人外的なことを、さも当たり前のように言うのだから。

 そりゃ、狂ってる。

「それが最適かと言われると、多分違う。」

 凍浜先輩も言う。

「確かに、面白みはない。それに正解感もないさ。でも、解けるならばそれは解法の一つ。討伐にもそれは適応するはずだ。」

 数学がそうであるように。

 確率の問題での総当たりが解法として存在するように。

「日生下が回復、アイが移動――つまり、侵入ができるわけだ。凍浜先輩はそのまま、単純能力だし何でもできるわけだよ。」

 でも俺は無能だ。

「何でもできる才能がある。逆に言えば、何かがなければ、何もできないんだ。」

 多才であるだけで、多彩ではない。

 才能があるだけで、無能なんだ。




 そして、今。

「これは漫画の台詞だけどよ……お前がダメージを受けて、俺がその攻撃を与えるためにボロッボロになって、それでも回復してもらうんだよ…!」

 つまりさぁ…!!

「永久機関が完成しちまったなアア~!!最もぉ、既に永久機関は能力で完結してるんだけどな~!!」

「煩いし、五月蝿い。蝿か何かなのか?」

「どちらかというと蜂かな…?まあ、お前を殺せるなら蝿でも十分だけどな!!」

 殴る。

 蹴る。

 ぶん殴る。

 ぶん蹴る。

 叩く。

 押す。

 格闘というにはとても荒々しい、殺し合い。

 殺し合いというには、片方が絶対に死なないという超有利条件だけれど。




 殺し合いは続く。




 殺し合いは続く。




 殺し合いは、続く。




 ハッキング、回復、凍結。

 バフとデバフを限界まで盛って、殴る、蹴る、叩く、押す、投げる、突く、エトセトラ。

 さあ、どうするよ。

「終わりか?」

「…永久機関だっつったろ。」

 じわじわと削るだけじゃ終わらない。

「でも、もう終わりにするか。」

「…そうだな。」

 先輩と、多才君は、何かを思いついているらしい。


「高温よりも低温のほうが、痛いんだよ。」


 突如『憤怒』が、イーラが、悶える。

「痛いだろ?皮膚を凍らせたんだよ、勿論、取れないくらいに薄く、溶けないくらいに冷たく、痛くだ。」

「――ッ!!!」

「痛いだろう?本家でもこういう倒し方をしたんだよなァ…!!痛み殺しってのかなァ!!」

 身体に纏わりつく超低温の氷。

 その冷たさは常時更新され、痛みだけが回る。しかも、薄すぎて取れない。

 勝利条件は無いが、敗北条件はあった。

 しかし、それは相手も同じ。

 相手が敗北すれば、こちらは勝たずとも勝てる。

 そんな作戦。

 私は何も言えなかった。否、何も言いたくなかった。

 しかし、一つ言えることがあったとするのならば――


――今回の戦いでの無能は、おもに私だけだったよ。


 なんていうことは口に出さずに、心のなかにぽつんと残すだけで我慢する、私なのでした。

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