任務Ⅲ:鬼血吸「嫉妬の攻略」

「INVIDIA――これはラテン語で『嫉妬』って意味なんだ。」

「ってことは、あんたがか。」

「そう」

 インヴィー…嫉妬を司る能力者だ、と、その女性は言った。




 現状報告。

 チームBに所属する私達――1年生からは私、鬼血吸と明日ヶ谷渚、2年生からは古霧先輩、3年生からは焔先輩が配置された――は、『嫉妬』の討伐を目標とした。

 あとはまあ、回想前の状況からお察しの通り。

 森に入ったタイミングで――つまり午後3時そのときに、『嫉妬』側が攻めてきたというわけだ。




「『嫉妬』さん、どっかで会ったことない?」

 私は聞く。

「さっき名乗ったろ?私の名前、インヴィー。」

 まあ、私はあまり気に入ってないんだけどね、と彼女は付け足す。

「人って名前付けんの下手くそだよなぁ。『インヴィー』ってさぁ…?なんか、あれじゃね?」

「戦う前に家から語彙力持ってきなよ。あれ?もしかしてそれで素なのか?」

 焔先輩はわかり易く煽った。

 おそらく半分時間稼ぎ、半分臨戦態勢。

「戦――」

 ……その時既に、相手の能力は発動していたのだろう。


 間。


「――!!」

 絶句した。

 あ…いや、私ではなく――焔先輩と渚ちゃんが、だ。


「見えない…!?まさか世界が――」

「いや、私の炎も出ない。見るべき未来がないんじゃない……もっと根本的な原因があるんだ…!」

「あれ、知らない?……ああ、そっか。身体変わったら能力も更新されんだっけ。なら調査不足というより、そもそもの情報不足かな?にしても自分のシステムすら忘れてたとはなぁ……。身体を変えるのもあんま良いことばっかじゃないね。」

「忘れる…?」

 古霧先輩が引っかかる。

「聞きたい?でも教えないよ。開示したら次回の身体乗り換えの時不利になるかもだからね。」

 『嫉妬』は――インヴィーは、慎重すぎる程に慎重だった。

「!!……お前――『嫉妬』は…相手の能力を無効化するってことか…!!」

 焔先輩は自身の状態から予測する。…しかし、私には、そして古霧先輩にはそれが違うとわかった。

 なぜなら――

「ちょっとだけど、違うよ。…これに関しては開示しようがしまいが変わらないから言ったげるけどね。」


 なぜなら、私はまだ『吸血鬼』だから。

「『嫉妬』の効果……それは相手の能力の発動を拒否することだ。」

「…なるほど、じゃあ常時発動型――古霧と鬼血にゃ効いてないってわけか。」

「……あぁ、そういうことか。頭いいなぁ、この作戦を考えたやつは。」

 その言葉を聞いた少女たち――つまり、私たちは、硬直した。一瞬とも言えないほどの、刹那。

 何を言っているんだ、と。

 その場に居た4人は思った。

「私の能力、知ってて組んだんだろ。もしくは、そういう運命だったか。」

 運命論とか嫌いなんだけどね、とインヴィーは言った。


 確かに、能力は封じられている。

 ただし、対応ができないわけではない。




 『七つの大罪』。

 それは世界の概念であり、いわば理。

 つまりその能力は、その『理』に――つまり有限。減りきらないし増えきらない、プラスマイナスがゼロになるという、世界の条件に…世界、それ自体に――リンクしているはずである、という仮説。

 …もっと簡潔に、簡素に言うのであれば、『相手の能力を無効化する能力』なんていう、チートもチート、ぶっ壊れがすぎる能力には、さすがに条件らしい条件があるのではないだろうか――あるはずではないのだろうか、ということだ。


 そして、能力の対価となる条件。相手の能力を封じるという、実質的に相手の生き方を制限するという能力に対しての適切な対価が、能力に見合った条件が設定されているならば、おそらくそれは――

「…時間。その能力には、『効果時間』が付与されてるんだろ?」

「鋭いね。本能的な勘なのか対峙した感覚なのか、それとも地頭なのかな?」

 一つだけとは限らないよね、とインヴィー。

 無駄な一言が無駄に多いやつだ。

「でもさぁ、その時間がわかんないよね?」

「そうだよね…だからさ、教えてくれるとありがたいんだけど」

 なんてことを言う渚ちゃん。

「教えてくれるわけないでしょ…」

 に、対して、私は思わず正論を言ってしまった。

「そうだね、教えない。」

 やっぱり正論だった。

「じゃ、3分間待ってあげるよ。」

 どこかの大佐、及び王のセリフを言う『嫉妬』なのであった。


 ではでは。

「どうしよっかなぁ…」

「無策っすか…」

 渚ちゃんと焔先輩が話し合う。

 3分間しかないのだから、早めに議論しておくべきなんだと思っているのだろう。

「…3分間、ってことはそれ以上の時間制限を持っているわけか。」

 この状況に対して、絶望、とまではいかないけれど。

 適切なそれを超えた感情にはなっていた。

「でも、相手は能力で戦うわけじゃないんですよね?あくまで、能力が封じられるだけ…だけっていうのもあれだけど。」

 …適切なそれ、なんて言い方じゃ少しばかり語弊があるが。

 少しばかり性的な意味を含んでしまうことになるが。

「2人でも戦える可能性がある…ってことか。」

 しかしそれも、私の主観でしかない…のだから。

 どうせ時間が経てば、忘れるんだ。

「あ」

 そうか、主観で、時間。

「どした?」

「3分間はクールタイムなんだ…!」

「え?」

 そう、どこかの大佐、及び王のセリフだってそうだった。

 銃弾の装填時間が足りないから3分間の時間を貰った。

「じゃああいつの能力の効果時間、2分弱?」

「学校を出る前に能力をかけられてたんだよ」

 どこかで会ったことがある。

 それはおそらく、能力の縛り。

 この森は、チームBの作戦会議用会議室の窓から見える。おそらく逆もそうだ。

「いま火が出れば、私の予想は当たってると思います。」

 ――。

 予想通り、火は出た。

「…3分がクールタイムである可能性があるだけでしょ?」

「なら、能力に対しての効果時間が短すぎるんじゃない?」

 納得。

「でも、どうやってかけたんだよ?」

「もうそろそろ3分ですね。」


 58秒。


――3分。

「火、出せると思います。」

 ――。

 予想通り、火は出た。

「……これが何になるってんだ。」

「……発動条件は『見ること』だと思う。そしてそれを『なんとなく誰に見られているか認識する』のが、条件の1つ目。結果、時間に対しての条件が軽くなる。おそらく、30分…いや、1時間以上。」

 そしていつ見られてたか。

「作戦会議中、そこから考えると3分前は――」

「作戦会議が2時から…って考えると、1時間か。」

 焔先輩は作戦会議の時間すら覚えているのか…。

「でもどうする?別にそれが致命傷になり得る情報ってわけでもないし。私達にとっても相手にとってもね。」

 確かに、古霧先輩の言うことは正しい。

 情報だけならば、致命傷にはならない。

「作戦がある。」


――時間遡行で不意打ちするっていう、単純で簡単な作戦が。


 それが私達にとっての『バルス』になることを、強く願った。

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