任務Ⅱ:環楓「傲慢」

 3時13分――出発。


「ちょっと早く集まりすぎましたね」

「そうだな。でもまあ、10分で相手を見つけられるかって言うと微妙だから、大丈夫だと思うけどな。」

 わざわざ数分も待つ必要はなさそうだ。

「…待つ必要はあったの?」

「私はなかったと思うよ、お姉ちゃん。」

「お前らなあ……」

 今はどんなことよりもこいつらに嫌われている理由を知りたい。

 


 3時21分――接敵。


「お、思ったより早かったなあ」

 そこにいたのは、一人の少女。

 それも、俺よりもずっと小さい少女。それこそ『ロリ』という感じ。

「は?」

「は?って何だよ、酷いなぁ。」

 いや、酷いってなんだよ。

 別に俺と知り合いってわけでもないだろ。

「先輩、マッチングアプリとかやめたほうが良いですよ。」

「はぁ!?俺そんなことしてねえよ!?ましてや今日の、これ以降の予定なんて……」

「別に私はマッチングアプリで呼ばれたわけではない」

 いや、本気で思ってたわけじゃないんだけど。

 だって俺よりも小さい子がマッチングアプリなんてやってるわけ無いじゃん。そもそも、俺がやってないんだな。

「キミみたいな童貞よりも小さい子がキミがやってない事やってるわけ無いでしょ、ね?相。」

「そうだよね。まあ、そんな1秒考えればわかることもわからないんだよ、お姉ちゃん」

「お前ら殴るぞ」

 マジでなんでこんなに嫌われてるんだ。

「悪い、誰か全く分かんねえや。」

「私?私はスゥペール。」

「す…?」

「スゥペール。」

 ……言いづらい。

 スゥペール…外国人かな?

「それとも、こう言った方が良いか?」

 その瞬間、何かが俺の目の前に放たれた。目の前に放たれて、潰れ、止まり、落ちた。

「……銃…弾!!」

「ひひっ」

 彼女は笑い、こう言った。


――私が『傲慢』である…と。


 思考時間。


「はぁ――!?」

 こいつがかよ!!

「ちっさ。」

「こどもじゃん」

 こいつらでさえツッコんでる!!

 余程のことだぞ――多分、絶対。

「おいおいおいおい、ちょっと待て。意思として生きてんだろ?つまりはお前、自分で選んでその身体にした……って、わけだろ?え、そうだよな!?先輩!?」

「…の、はずだが。」

「そうだぜ?私が選んだんだ。いい体だろ?かわいいだろ?」

「いい体だしかわいいからおかしいんだろうが!!」

「セクハラだ。」

「幼女にセクハラしてる」

「お前ら今だけは黙っててくれ。」

 今大事(?)な謎を解き明かそうとしてるんだよ。

「いいや、答えは出てるだろ?」

 傲慢の少女は不敵に笑う。

「人間だろうがなんだろうが、顔や体なんて可愛かったり格好良かったりのほうが良いんだよ。『癖』って言うのかな?私は男よりも女が、大人よりも子供が、格好いいよりも可愛い方が好きなんだ。だからこの身体を選んだ。」

「きっしょ」

「きもちわる」

 俺以外の奴に暴言を吐く事あるんだ。

 知らなかった。

「生物の3分の1は性欲で出来てるんだぜ?お前も、私も、だれもかれもだ。そんなもんさ。生物の中で最も大事なのは性欲さ、食欲がなかろうが睡眠欲がなかろうが、生まれた瞬間に交尾すりゃ繁栄はできるからな。」

「きっしょ」

「きもちわる」

「聞いてはいたけど『傲慢』ってイカれてんな。」

 …同感。

 終始キモい。なんというか、形容できないタイプのキモさ。

「それはそうと、上、大丈夫そ?」

 傲慢は上を指差して言う。

 その指の先にあったのは、無数の兵器――いや、正確に言うのであれば、無数の銃。

 形としてはアサルトライフル……おそらく、カラシニコフAKシリーズというやつだ。まあつまり、見たやつの殆どがAK-47…だったと思う。

「――待ってくれるってことで……OK?」

「んなわけないじゃん。」

 ですよねー。

「じゃ、ふぁいやー!!」

 銃がこっちに向く。

 発射される。


「――ッ!!」

 式先輩は大丈夫と思ったので、俺は――いや、のでって訳では無い。近くにいたのがその2人だったからというだけだ。

 俺は双子を両腕に抱えて走った。

「おい」

「何だ共…だよな!?」

「うん」

「何だ!?」

「お前の手、胸に当たってる」

「我慢しろ死にたくなけりゃなぁ!!」

 酷いことを言ってるが、死ぬよりは良いのでセーフ…に、してほしい。


「はぁ……はっ…うぅ…ぐっ……」

 過呼吸。

 滅茶苦茶疲れた。

 流石に『帰宅部』があるとはいえ、重い。

「おい、お前今、重いって思ったろ」

「思ったよ、そりゃ2人抱えてんだから当然だろ……」

「お姉ちゃんは重くない。お前の筋肉が悪い。」

 何なんだこいつら……。

「で、式先輩…どうします?」

「……環、『帰宅部』は15時から――だったよな。」

「今は何時っすか?」

「15時26分。」

 後4分……か。

 4分間あの銃弾からこの双子を守れる気がしない。

「『演劇部』なら、3分くらいなら稼げる…と思う。」

「……マジですか?」

「マジ。」

「発動条件は?」

「台本を作って、その台本通りに対象を動かすこと…だ。」

「つまり、台本を考えて、その後あいつの行動を台本にリンクさせる必要があるのか……台本は何分くらいで出来ますか?」

「1分…いや、30秒で作る、」

「……天才かよ…!!」

 なら俺は、その30秒とあいつの動きをどうにかすりゃ良いのか。

 30秒、あいつに『見てもらう』ことができるかどうか。

「やったらぁ!!」

 俺は木の陰から出た。

「おい『傲慢』。」

「何だい、人間?」

 全力で走る。

 そして、その幼女を抱える。

「はっ?」

「遊ぼうぜスゥペール!!俺がお前のこと振り回してやっからよ!!」

「ちょっ」

 有無を言わさず空中に投げ捨てる。

「たかいたかーいってやつだよ。」

「私は子どもじゃねえんだよっ!!」

 銃弾が降り注ぐ。

 しかし効かない。

 『帰宅部』――必ず帰る能力。それは15時であろうがなかろうが発動する。

 15時半9になるとブーストモードに入るだけだ。

「先輩!!」

「ああ出来たよ!!後は予測しやすいリアクションを――」

 予測しやすいリアクション…………。

「あ」

 手が胸に当たった。

「ひっ」

 笑う。勿論俺が。

「このまま揉んでやろうか?あ、そっかそっか。お前にゃ胸なんてなかったなぁ。」

 我ながら最低な発動条件達成だと思う。

 それが怒りによるものだったのか、はたまた恥ずかしさによるものだったのかは分からないが、とにかく彼女の顔は赤かった。

「よくやった楓。いや、人としては終わってるんだけど。」

 ――とはいえ、と続ける。

「楓のおかげだ。後は任せろ。」

 俺はもう下がって大丈夫そうだ。

「よう、『傲慢』。突然だが、演劇って知ってるか?俺は演劇部なんだが、役者が足りなくてな……お前にも演じてほしいんだよ。」

「……はぁ?」

「お前にはとっておきの『悪役』を用意してやったぜ。」


――俺って『主人公』と戦って、盛大に負ける。そんな『悪役』をな。


 既に式演太郎の『演劇』は始まっていた。

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