任務Ⅰ:環楓「2時50分。」

「チームA…ねえ。」

 名付けが適当なのは置いておいて、いや、置いておいても特に話すことがない。

 プロローグだけで語れる物語はないのと同じように、作戦概要だけでは話はできない。

 それはそうと、チームAの集合場所に着いた。

 扉を開ける。

「お邪魔しました」

「何で過去形…?」

 そこには既に俺以外の三人が座っていた。

「あれ、もしかして俺最後?」

「もしかしなくても最後だよ。」

「最後だね、お姉ちゃん。」

「双子ってやっぱ仲いいんだな。」

 そこにいるのは、この学校…学校もどきににいる唯一の双子。

「一年三人か。」

「うん。」

「はい。」

 やっぱ仲いい。

「…そろそろいいか?」

「あっはい、すいません話遮って。」

「いや話始まっちゃいないんだけどさ。」

 にしても遮ってはいるよな……と考える。

 まあ、ここまでは起承転結で言うところの『起』だ。

 ここから『承』だ。

「まあいい、チームAの話を始めるとしよう。」

 チームA。

 俺、緒河姉妹、式先輩――式演太郎の四人で構成されたチームだ。

「んで先輩、俺たちは誰を倒しに行くんすか?」

 討伐、という言葉は使いたくなかった。

 相手をただの『討伐対象』としか見ていないように感じるから。相手を『相手』として認識していない気がするから。

「チームAに任されたのは『傲慢』だ。」

「ちゃんと七つの大罪してんな……」

 しかも確か、『傲慢』って一番強いんじゃなかったっけ?

「『傲慢』?」

「偉そうにするっていう意味だよ」

「ありがとう、お姉ちゃん。」

 本当に仲いいな。

「じゃあ『傲慢』ってなんなの?」

「なんなのってのはどういう意味だよ」

「キミには聞いてない。」

 …………。

 酷い…!

「なんなのってのはつまり、どういう能力なのか…みたいなことか。」

「そうです」

「え、何?俺だけ嫌われてるの?」

 だとしたらこれ以上無いくらい悲しいんだけど。

「うん」

「否定しやがれください!!」

「やだ」

「お姉ちゃんがそう言うなら。」

「泣くぞ!?」

 何で嫌われてるのかわからないのが一番悲しい。

「んで、『傲慢』の能力なんだが――」

 …まあ、本題はそっちだ。

「無尽蔵に兵器を作り出す……という能力だ。」

「……え、それだけ?」

「それだけ。」

 何か、簡単に倒せそうだけど。

「それだけだが、ただ厄介なのがやつが生み出した兵器を意のままに操れるということだ。つまりは、生み出した兵器を遠隔で操れるところだな」

「遠隔……か。」

 『厄介』という言葉は、おそらく強くはないが面倒だということなのだろう。いや、考えすぎなのかもしれないけど。

 ただ、『厄介』は『強い』よりも強いだろう。

「めんどそう」

「駄目だよ相ちゃん、めんどいとか言っちゃ。」

 何の会話だよ。

「ちな、作戦決行はいつなんすか?」

「今日の3時半以降……いや、ちょっと前くらいだから2時間後だ。」

「え、いや早くね?」

「早いよ?ただ、早くしたほうが良いよなぁって。」

「じゃあ今すぐにでも行けるんじゃないかと、共は思う。」

「私もお姉ちゃんと同じ意見です」

 まあ、確かに……でも何か理由が――ああ、なるほど。

「帰宅部っすか。」

「その通り、そういうことだ。」

 帰宅部の能力発動時間。

 午後3時半だ。

「楓の能力発動が午後3時半からだからだ。」

「からだからだ……まあそういうことだ」

 音に韻を感じて少し笑いがあった…が、一応無視しておく。

「あっそ」

「そうなんだー」

「お前ら俺に興味なさすぎな?」

 何でこいつら俺が嫌いなんだよ。

 何もしてないだろうが。

「んじゃあ、集合時間は2時50分で。」

「解散?」

「解散でしょ?」

「そんなに俺と別れたいかお前は!!」

 俺は何もしてないだろうが!!


「2時間ねえ……」

 何もすることがない。

「2時間かあ……」

 何もすることがない。

「2時間もあるのかあ……」

「ねえねえ相、あの人『2時間かあ』って言って10分ぐらい同じところ回ってるよ。」

 ちょっと遠くから双子の姉の方の声が聞こえた。

「そうだねお姉ちゃん。あの人10分も同じところぐるぐるしてるね。『怠惰』だね。」

 ちょっと遠くから双子の妹の方の声が聞こえた。

「お前らは俺のことが好きなのか嫌いなのかどっちなんだよ!!」

「嫌い」

「強いて言うなら虐めるのが好き。」

「Sか!?おまえらはSなのか!?」

「相はSかもしれないけど、私は違う。」

 何が違う!!

 お前ら性格一緒だろ!!

「……何がしたいんだよ?」

「2時間、暇つぶしをしたい。」

「正確には1時間32分ほど、『あなたで』暇つぶしをしたい」

「『俺と』じゃなくて『俺で』かよ!!」

 酷い。

 酷い。……惨い。

 ひどいしむごい。

「俺は1時間半もお前らの玩具に成り下がる気はないぞ。」

「へ?成り上がるでしょ?」

「俺玩具以下かよ!?」

 酷い扱いだ。

 ちなみにこれはどっちの読み方しても良い。

「同級生に対しての態度……じゃないよな?」

「同級生…そっか、そうだったね。」

「私もお姉ちゃんも忘れてたよ。」

「おい忘れんな馬鹿!!」

 辛い。

「んで、ちなみにだが俺で何する気なんだ?」

「人体実験とか?」

「マッドサイエンティストか!?」

「そうかもね」

「お前らは一体何なんだ!!」


 その後、結局何をしたのかというと、まあ何もしなかった。

 結局は、こういう雑談が最も楽しいらしい。

 そして、2時50分が来る。

 正確には2時43分だが。

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