任務編

任務N:語世継「数日の密度じゃない」


――流石に、初めて聞いた時はどうにかしてると思った。


 テロリストが来て(これは日常茶飯事)、楓くんが吸血鬼になって(なお吸血鬼の能力は再生しか受け継がなかった)、しかもその次の日に蓮くんが魔王を討伐して聖剣を手に入れた(魔王討伐の報酬が聖剣というわけではない)…?

 まず注釈(これ)が多いし、2日間に起きていい密度じゃない…!

 と、思った。

 ただまあ、今となっては既に知っていたこと。つまり、既にその出来事で驚き尽くしているのです。

 ああ、説明していなかったんですが、これも『メタフィクション』の能力です。

 未来の視点――つまり、未来の話を覗くことができます。勿論、多少のズレはありますけど。

 未来視とは違う、『物語の予測』ができるのです。


 閑話休題。

 とりあえず、蓮くんはこの教室に入ってきて――聖剣を持って入ってきて、こう言いました。

「魔王を倒してきた。」

「は?」

 まず声を発したのは楓くんでした。

「あれ、楓がさっき言ってた女の人ってそれと関係あるんじゃない?」

「違う。絶対に違う。……というか違って欲しい。」

「何で?事後じゃん。」

「鬼血、言い方考えろ。」

 そうか、そうだよなぁ。

 一昨日近しいことをしたもんね。

 覚えてない方、知らない方は『開闢Ⅵ:「ぶつかって砕けちまったら意味無いだろ」』を見てみてください。あ、別に行くところまでは行ってませんよ?

「魔王ってどーいうこと?」

 暗闇さんが質問する。

 まあ、僕は知ってるんでいいですけど初見じゃ一発で状況を理解するのは不可能です。僕がそうだったように。

「あー、まず女神様が聖剣を落としてだな――」

「あの女神無能だな」

 というような感じで蓮くんの体験談を聞きました。

 いやあ、すごく面白かったです。もう小説が書けそうなくらいの物語でしたよ。まあ書いてるんですけど。

 僕は一応、ここまでは事前に知っていました。ただ、僕が驚いたのはここからです。

 楓くんの吸血鬼化、そして蓮くんの聖剣伝説の方に気を取られてそれ以降の展開を読めてませんでした。

「ビーーーーッ!!キケッ!!聞けッ!!」

 放送が聞こえる。しかしそれは放送部の4人がしているようなほんわかした放送ではなく伝令に近いものだった。

「これよりここにいる28人で、『1・2・3年生合同任務』を行ってもらう!」

「え、なにそれ」

 つい口に出してしまった。

 しかし事前の情報もなしにこれは流石におかしい…のか?

 というようなことを考えてしまう。いや、こんなに驚いているのも元はと言えば僕の確認不足なんですけど。

「あとはお前たちの先輩が知ってるハズだッ!だからまあ、丸投げさせてもらう!!」

 ひどい概要だった。

 とはいえ本当に『1・2・3年生合同任務』なんてものがあるのだろうか。

 先輩に聞くしかない。


「ああ、あの放送の人が誰かって?」

「そうですよ分身先輩、あんなのいたんですか!?」

 先輩が教室に来た。

 3年生、分身蛍多。分身の能力を持つ――って、これはもう説明したか。

 分身ができるから、そして放送の人間(?)に丸投げされたから、1年生2年生3年生全クラスに行って説明しているらしいです。

「あれ、知らないんだっけ?実はな俺たち異能力者の協力者がいるんだよ」

「そんなのいたの!?」

 知らないどころか噂の一つも聞いたことがないんですが!?という状態だ。

 次回の話くらいはちゃんと見ておくべきだった。

「先生!!」

「はい諭さん、ちなみに俺は先生じゃないぞ。」

「『1・2・3年生合同任務』ってなんですか?」

「おっけ、じゃあ本題に入らせてもらおう。」

 そうだ、一応こっちが本題だ。そして僕もこっちの情報が欲しかった。いや、あの放送の人の正体も同じくらい気になってたけど。

 ……ああ、だめだ。本当に考えがまとまらない。

 とりあえず説明を聞こう。

「1・2・3年生合同任務、要はこの任務は1年生の初仕事ってわけだ。まあ、この2ヶ月で色々あったらしいけど、というかあったけど。」

 まあ、色々とあった。

 テロリストも魔王もそうだし、それ以前にも変装したスパイとか幽霊とか色々とあった。

「まあ、これが一応任務としては初だ。今年は合計28人、んで討伐対象が7人だから1チーム4人でやれ…と、言われてんだけどさ。」

「だけど――ってどういう意味ですか?」

 正直、この物語でセリフらしいセリフとして発したのはこの言葉が最初だったかもしれない。

 すごくモブキャラなのかもしれないです、僕。

「いや、相手が相手だからさ。」

「その相手って一体?」

 今度は暗闇さんが質問した。

「古よりその存在は人間を罪に導くと見做されてきた…。彼らは肉体を転々として『意思』として生き永らえている、人の大罪を司る能力者――『七つの大罪』だよ。」

「概念が能力に成ることなんてあるの!?」

 口に出したのは吸ちゃんだけだったが、おそらくこの場にいる6人全員が…先輩以外の全員が思っていただろう。

「まあ、能力自体は結構昔からあったんだよ。呪術とか、心霊とかもその類かもな。最近になって滅茶苦茶に増えたからこんな学校もどきが出来たりして、『最近こういう概念ができました』みたいな顔してるだけだ。」

「へぇ……」

 そしてその場にいる全員が、先輩以外の全員が納得した。

「さてと、まあ説明はもう良いだろ?要は4人で一つの大罪を狩るわけだ。」

「大罪を狩るって言い方すご」

「まあまあ、んじゃ、お楽しみのチーム分けなんだけど……」

 全員が息を呑む。

「聞いてくるわ」

「「「「「「分かんねえのかよっ!!!」」」」」」

 恐ろしいほどに全員の声が揃った。

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