聖剣Ⅵ:勇者「お兄ちゃん!?」

 どういうことだ。

 洞窟の最奥に魔王がいる。

 おかしい。

 このクエスト――蜘蛛の王の討伐は、聖剣を手に入れるための段階。クエストの報酬として地図をもらって、その先に聖剣があるという流れ、のはずだ。

 RPGで言うなら中盤と終盤の間に位置する進捗状況。

 なのに何故、ここに魔王ラスボスが……?

「……勇者、か。」

「…負けイベ、とかじゃないよな?」

 このタイミングだぞ?

 クエストクリア直後に負けイベとか、多分ではあるが、ないはずだ。

「まあいい、お前ら、私の魔力回復アイテムとなれ」

「何を言っているんですか!?」

 サラが杖を構える。

 私も慌てて剣を構える…が、正直勝てるとは思えない。

「魔王…ッ!!」

「魔法陣を展――」

「『輪廻終着リボルビング・エンディング』!!」

 『輪廻終着リボルビング・エンディング

 半即死攻撃。

 その光を受けたものは問答無用でHP1になる。

 そして私達は洞窟内にいる。つまり、射程距離内に………………入っていた。

「っがァッ!!」

 痛い。

 熱い…と言う感じではない。いや、違う。

 ダメージの分強制的に痛みを与えられている感覚だ。熱的な痛みも、刺したような痛みも、抉るような痛みも、全部まとめて与えられている。

「ほう、この魔法は相手を殺す攻撃ではないのか。」

「知らないで…使ってたの……かよ」

 ホリーが突っかかる。

「生意気なガキだ。私にとってはほぼ全員がガキのようなものだがな。しかしその言葉、死にたいと言う意味に受け取って良いのだな?」

「へっ、勇者が死んだらどうしようもねえからな……時間稼ぎだ。」

「やめろ、自分の命を投げ捨てるな。」

 ルイがホリーを止める。

「良いだろう、その挑発乗ってやる。『ダークネス』――」

「やめ――」

「――ッ!!」

 瞬間、体が動いた。

 …その3つのことは、同時に起こった。

 ダークネスの発動、ルイの上級回復魔法アンデッドキラー、そして――

 気づいたときには、私は、ホリーの目の前で剣を構えていた。

「…馬鹿な勇者だな。」

「馬鹿なのはお前だよクソ魔王が。」

 聞き覚えのある声が聞こえる。

 彼の剣は最上級魔法ダークネスを弾き飛ばした。

「よう、魔王。お前のために来てやったぜ。」

「蓮!?」

「何でここに限って呼び捨てんだよ、お兄ちゃんと呼べ。」

 そっちのほうが映えるだろうが、と言った。

「え?」

「マジで?」

「な、」

「「「お兄ちゃん!?」」」

 私と兄ちゃん以外の3人は混乱した。なんなら魔王も混乱していた。 全く、兄ちゃんらしい。

「な、何で…?何でここに?」

「強いて言うなら女神が無能だったからかな」

 …………。

 女神様がこの言葉を聞いていないことを祈る。

「クソガキが……」

「そのクソガキに負けたのは何処のカス魔王だ?」

 煽り方が本物だ。この蓮は本物の『夜坂蓮』なのだ。

 判別方法がどうにかしているのも含めてそれらしい。

「さてと、勇者の妹と魔王特攻の兄だ。」

 いや、現実改変の兄でしょ。

「魔王vs勇者パーティwith兄……なろうってか、異世界っぽくなってきたなぁ!!」

「そうでもない気がするけど…まあ、テンションが上がるなら良いや。」

 兄ちゃんはテンションが上がれば上がるほど勝つ確率を上げる。

「これはある漫画家の言葉だが、いいか?最も『難しい事』は 『自分を乗り越える事』なんだ。お前にはそれが出来なかった。」

「くッ――」

「覚悟は良いか?俺は、いや、俺たちは出来てる。」

「応!!」

 剣を構えて答える。

「出来てます!」

「やったらぁ!!」

「――やるしかない。」

 サラ、ホリー、ルイも応える。

「で、魔王…お前は?」

「…………」

 魔王はこの膠着状態の間、何かをしていた。

「ありがとう、つまり『雑魚にげた』でいいんだな。お前は」

 兄ちゃんは聖剣で容赦なく、真っ二つに斬った。

「――?」

「『雑魚にげたもの』は『強敵とも』にはなれない。お前は俺に負けたんじゃあない。自分に負けたんだ。」

 決め台詞を言っている。

 中二病の独り言は、邪魔してはならない。

 たとえそれが戦闘前であろうと、戦闘中であろうと、戦闘後であろうと。

「てめーの敗因は…たったひとつだぜ…魔王…たったひとつの単純シンプルな答えだ………『てめーはおれを怒らせた』」

 どうやら、終わったらしい。

「さてと、大丈夫か?」

「いやいやいやいや、体力1ですけど!?大丈夫じゃないですけど!?」

「だろうな。」

 すごく軽いノリで返事された。

 ここまで計画通りだったのか、それとも予定外だったのか。それによってヘイトが変わるが……。

「で、何で魔王がこんなところにいて、テンの兄ちゃんがこんなところにいて、なおかつ聖剣を持ってんだよ?」

 ホリーが問い詰める。

「うーっん……まあ、そうだな。俺が聖剣の…守り神だから……かな?」

 滅茶苦茶悩んでる。

 異世界の住人に異世界を認知させたくはないのだろう。

「えーと、じゃあこれ、王宮行くのかな?」

「そうだな、それが良いと思う。俺は…そうだな、聖剣を元の場所に戻してくる。」

「そ、そっか」

 設定が即興すぎてグシャグシャだが、そこは許そう。

 だって、兄ちゃんは私の命を救ったのだから。それ以上に、私の仲間の命を救ったのだから。

 そのくらいの矛盾は、許してやってもいいだろう?

 その後も色々(表彰とかパーティーとか勇者パーティ解散とか)あったが、そんな感じで私は、この世界を去った。

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