聖剣Ⅴ:夜坂蓮「聖剣を持つ者として、そして。」
聖剣を振りかざす。
俺は、この魔王を倒す。
聖剣を持つものとして…そして――
「よっし、ぶっ殺す。」
冷静に、なれ。怒る理由は見当たらない。
しかし、こいつを殺す義理なら有る。それは聖剣よりも、もっと、もっと大きい大義である。
だから俺は、戦うのだ。
聖剣を持ち、走る。
「――ッ!!!」
斬る。が、受け止められる。
「フッ、其の程度の…いや、これは素人の斬撃か。どちらにせよこんな攻撃で、われが殺せるとでも?」
「セリフの尺が長ぇんだよ…それに――」
――これは、聖剣だ。
魔王の手を貫通……いや、魔王の手を溶かすようなイメージだ。魔王だけに効く『熱した包丁』と例えるのが適切だろう。そんなような感じで、斬る。
魔王の肉体はそれこそ熱した包丁で切られたホールケーキ等々のように、スッと剣を通す。
そして時間差、といっても1秒も経たないうちに傷口が開き、血が出る。
魔王の心臓にも聖剣をかすらせたらしい。
魔王が血を吐く。
吐血の血も傷口から出る血も地面に付く前に蒸発、いや、魔力となって空気中に散った。
「貴っ…様…ァッ!!」
「おうおうどうした、これが『魔王特攻』の正体だぞ?」
正直、言ってる俺も何が起こるかは予想できてなかったけど。まあ結果オーライってことで。
「それ…聖剣かッ!!」
「見りゃ分かるだろ、馬鹿か?」
「『
「させるかよ!!」
模先輩が瞬時にコピーし、魔王の魔法を完全に封じる。
「万事休す…だな」
「クソが」
「魔王のくせに口悪いな」
普通こう、魔王ってもうちょっと格好良いっていうか、潔くない?
「まあいいや」
ソードスキル…と、言いたいところだが、この世界にそんなものはない。
大人しく通常攻撃をすることとしよう。
「こ…うなったら……!!」
魔王がこちらに向かって走ってくる。
「何だ、自爆特攻か?」
剣を急いで構える。
この一瞬で、すべてが決まる。
その時、魔王が消えた。
「はぁ!?」
いや、本当に、目の前から消えた。
「いや、いやいやいや、どうなってるんだこれ。」
ばたっ、と。
後ろで何かが――いや、誰かが倒れる音がした。
「え……これ…血?」
模先輩が倒れてた。
「……先輩!!」
「中二病さん!!まずいです!!」
「中二病さんって何だ!?」
呼び方に対して突っ込まずにはいられなかった。
「それにこれ以上にまずいことって何だよ!?先輩が……撃たれたんだよ!!」
「大丈夫です、致命傷では有りません。私が必ず治します。それより――」
致命傷じゃないなら良かった…が、でもこれは……何が起こったんだ?
「魔王が世界を移動しました!!」
「はぁ!?」
「そのままの意味ですけど」
「何で魔王が世界移動できるんだよ!?」
「知らないですよ!別に私が強さ設定したわけじゃないんですから!!」
設定とかいう何か大きな地雷っぽい言葉はその辺りに捨て、対処方法について聞く。
「どうすりゃ良い!?」
「世界移動するしか無いでしょう!?」
「了解、よっしゃ行ってくる!!」
「え!?」
ダッシュして部室に向かう。
「渡!!」
「は?」
そこにいたのは空想科学部残りの三人。
幻中先輩、明日ヶ谷、時雨。
「渡君って確か観戦中でしょ?」
と先輩。
「あ」
と俺。
やべえ、そうだった。
「悪い!!」
「あっちょっと!!」
「もう終わったの?」
後ろからなにか聞こえるが全部無視する。
ダッシュしてグラウンドに向かう。
「渡!!」
「走ってる途中にお前の独り言聞いたからもう全部なんとなくわかってるぜ!!」
事の運びが早い。
助かる。
「番号はわかりますか?」
女神が聞く。
「多分な、ダイバージェンス0-008-1678――」
「お前の世界転移システムってシュタゲだったの!?」
「冗談だ。えーと、1.130426-0.571024――」
「やっぱシュタゲじゃねえか!!」
ちなみに分からない人はこの数字と『ダイバージェンス』で検索してほしい。
「キッショ、何で覚えてんだよ」
「脳のセキュリティは大丈夫か?メロンパンは捨てておけよ?」
「大丈夫だ。本当のやつ行くからな。」
流石にこれ以上ふざけてはいられない。
渡が世界線数値を唱え始める。
「030-06-11-1600-2-23-5-1350-17」
「うわっ、身体浮いたみたいなな感覚する…気持ち悪――くもないな。」
「んじゃ、いってら」
「その前に」
一つ、聞いておきたいことがあった。
「先輩、あの魔王は俺から逃げた上で、しかも先輩を撃ったってことでいいんだよな?」
「えっ俺に聞くのそれ……?」
数秒の沈黙の後、答える。
「まあ、魔王としても、スポーツマンシップとしてもあいつは…負けてたと思うよ。俺っていう弱いものだけ狙ったわけだし。」
「ありがとう」
これで、本当に、本当に心の底から、怒れる。
「行ってくる。」
魔王。
俺たちは魔王対策をしっかりした。
流石に不意打ちとはいえ、勇者は既に聖剣を手に入れ掛けている状態。そんな中あの魔王は、何の準備もせずに怠惰に魔王城に鎮座していたのだ。
しかもそもそも聖剣を認知していない。
魔王として、中途半端。魔王として、明らかに『弱い』。精神的にも、肉体的にも。
だから、だからこそ、許さない。俺の大事なやつが、決闘上でルール違反である逃げをしながら先輩を撃った魔王と戦うなんて、許さない。
俺があいつを必ず殺す。
「あんな奴にこれ以上、俺の大事なもんを壊されてたまるかよ」
――その瞬間、目の前には洞窟が広がっていた。
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