聖剣Ⅰ:アストラ「聖剣送る場所間違えた。」

 ……まずいことになった。

 勇者が使う『聖剣』…送る場所、間違えちゃった。



 女神。

 それが私の役職である。

 名前はアストラ。

 私がまだ人間だった頃、とある『奇跡』を起こしたことをきっかけに、私を信仰するものが増え、没後も信仰され続けたことから、こうして女神として世界を調整する役割に付けたのだが――


「あっ間違え…あぁ……。」


 送ってしまった。

 あろうことか、魔法も、モンスターすら居ない世界に、聖剣をだ。


「――!!」


 絶対に起こしてはいけないミスだったからだろうか。それとも、どうするべきか考えた結果脳がショートしたのだろうか。私は放心状態に陥っていた。

 が、ようやく意識が戻ってきた。


「まずい…まずいまずいまずいまずい!!!」


 どうしよう。

 いや、どうしようもないんだけど。

 勇者を聖剣を送ってしまった方の世界に飛ばすというのは、一応出来なくはない。しかしその場合、こっちの世界での冒険はどうするのか?

 当然、続行。

 時間は絶対に、一定の速度で進むのだ。

 勇者パーティーには、勇者の居ない冒険をしてもらわなければいけなくなる。


「流石にそれは……だめだよなぁ…。」


 では結局、どうするべきか。


「私が取りに行くのか……。」


 面倒だ。

 ものすごく面倒だ。

 話の通じる人が聖剣を拾ってくれるならいいが、もし、もし仮に私の…『女神の身体』なんかを要求するような人が持っていたら、私は否応なしに受け入れないといけないわけだ。

 だって私のミスだから。


「うわぁ…嫌だ。ものすごく嫌だ。」


 私も元は『人間』なのだ。今は女神だけど、ミスの1つや2つくらいあるはずだ。

 許してくれたりしないかな。


「いや無理無理無理無理絶対無理。不可能!!だってあのひとだよ!?あの創造主だよ!?無理に決まってるじゃんそんなのぉー!!」


 私やばいかもしれない。

 いや、絶対やばい。

 創造主の前では逃げ場すらない。


「…バレる前に取ってこなきゃ。」


 私は急いで、全力で、全速力で、聖剣のある世界に飛んだ。



 さてと……。

 来たはいいものの、いいもののだ。

 聖剣の反応があるのは学校だった。


「最悪だ。」


 中二病というものが、この世にはあるらしい。

 もしそんなやつの手に聖剣が渡っていようものなら、もう私にはどうしようもできまい。


――どうするのが正解なんだろうか?


 最初に行き着いたのはその疑問。

 だって考えてみてよ!?

 相手は聖剣を『与えられた』と思ってるんだよ?与えたんじゃなくて目の前に『落としちゃった』だけなのにだよ?

 無理じゃん。


「うああぁあぁあぁぁ……ここで悩んでても目立つだけだしぃ…!!」


「何してんすか…?」


 後ろから声をかけられた。


「うぇ!?あっあぁ……えと……」


 もしかして拾った本人なのかも?とも思ったが、持っていない。

 仮にこの人が拾った人でも、今現在持っていなきゃ意味がない。別に拾った人に会うことが目的ではないのだ。


「まあ、十中八九あいつが原因か…」


「あいつ?」


「中二病の馬鹿ですよ。多分、あんたが探してるのもそいつだと思う。」


 中二病の馬鹿……。

 すごく、ものすごく扱いづらそう。

 果たして『中二病の馬鹿』なんて称号がつけられてる人と会話は成り立つのだろうか。


「その人の名前って?」


「夜坂蓮。」


 夜坂蓮。

 よし、覚えたぞ。


「えっと、ありがとう。ちなみにだけど、貴方は?」


「じゃ、帰るんで。」


「えっ」


 そう言って彼は走り去った。


「え、いや、え?……何で?」


 避けられてたのかな?

 なんかちょっと傷ついたかもしれない。相手は人間なのに。…いや、私も元人間なんだし、当たり前なのかもしれないけど。

 それにしても、彼のあの雰囲気は…吸血鬼?

 え、日光の下に出て大丈夫なの?


「それにしても、夜坂…か。」


 どこかで聞いたような名前だ。

 まあ、いいか。

 とりあえず、夜坂蓮に付いて情報を集めないと。


「でも誰に聞けば……」


「夜坂くーん?おーい!!いるー!?」


 夜坂?

 今、夜坂って言った?

 あの女の子!今、夜坂くんって言ったよね!!


「ねえ!貴方今、夜坂って言った!?」


「え?い、いや…言いました……けど。」


 やっぱり私は運がいい。

 女神でありながら神に愛されている。それとも、女神であることに対しての加護なのだろうか?


「その人のところ連れて行って!!」


「えと…私も捜してるんですけど……」


「じゃあさ!私も捜すの手伝うから!!」


 というような感じで、私はどうにか押し切った。

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