開闢Ⅱ:夜坂蓮「姉も妹も俺より凄いんだが。」

 「……今日も今日とて、俺は危機から華麗に脱したな。」

 先程のテロリスト騒動は無事――本当に何事もなく終わりを告げた。

 俺としてはあの辺りで力を開放しても良かったのだが、あまり目立ちすぎるのも良くないし、ああいう終わり方が最善なのだろう。

 俺の力は、本当にピンチのときに使うべきなのだ。

 それこそ、機関との戦いとかになってきた時とかに。

 しかし、部活がないため機関との戦いの準備はできない。

 かといって、他に学校でやることなど全くもって無い。仕方がないので俺は帰ることとした。

 

 しかし奴ら、何のつもりだ…?

 あんなに弱い人間を送り込んで…。

「まさか!盗聴器が仕込まれて――」

 いや、ここで考えても仕方がない。全ては明日だ。

 明日、何があるのか。

 部活である。


 空想科学部。

 俺が入っている部活だ。

 よくある科学部とは違い、異能力を掛け合わせた科学……つまり、一般に言う空想科学についての部活である。

――というのは建前。

 この部活は機関との戦いのために結成された組織なのだ。

 本来俺の学校は基本的に休日以外毎日部活、つまりそれは機関との戦いへの準備がやりたいだけできるということなのだが、今日は部員全員がサボりたいと言ったので休みになった。


 門を出る。

「転ちゃんは今日もどっか行ってんのかな。」

 転ちゃん、というのは俺の妹、夜坂転のことだ。

 転だと蓮と被って分かりづらいから、『ちゃん』をつけて呼ぶことにしている。ちなみに姉も同じ呼び方をしている。

 親が居たらこの呼び方は絶対にしていないだろう。

 というのも、この学校もどきに通うにあたって、家が遠すぎて引っ越す必要があった。しかしこれのためにわざわざ引っ越すのもアレだなという話になったので、姉の一人暮らしについていく形になったのだ。

 にしても、年が離れすぎている。

 姉19歳、俺13歳、妹11歳。

 まともに働いてるやつが1人もいない!と言いたいところなんだが、この三姉兄妹さんきょうだいはものすごく特殊で、それぞれ稼ぎ方は違うが、全員が金を稼いでいる。

 それもこれも全部能力のせいだ。おかげと言ってもいい。


 姉、夜坂雄の能力は『主人公』。主人公補正がかかるというものだ。つまり、大体のことが成功するというものである。この前なんて世界を救っていた。

 まあ、主人公補正さえあれば家はでかいし生活は出来るしで、とにかくなんでもありだった。


 んで妹、夜坂転の能力は『救世主』。異世界に召喚されまくって、その異世界を救っている。

 たまに異世界で得た物を持って帰ってくることがある。

 どころか、その異世界から追いかけてくるやつだっている…。


「ただいまー……」

「おかえり」

「転ちゃんは?」

「んー、もうそろそろ帰ってくる。」

 どうやって異世界と通信するんだよ?みたいな疑問が浮かぶが、答えは一つだ。

 これも主人公補正によるものだろう。

 というかそうじゃなかったらおかしい。俺にはどこまでが能力なのかわからないから全部能力としておく。

「あーあ、俺もまあまあすごい能力なはずなんだけどなあ…。」

 危機回避。

 俺のもとに降りかかる不幸はすべて跳ね返され、その上幸福だけが寄ってくる。多分、そんな感じの能力だと思う。

 俺はちょっとよくわかってない。

「たっだいまー!」

「おかえりー」

 適当に返事する。

「邪魔させてもらおう」

「お、転ちゃんまた連れてきたんだ。今度はどんな人?」

 雄が聞く。

 ちなみに俺は雄のことを呼び捨てにしている。

「我は人ではない!!…聞きたいか?よろしい、聞かせてやろう。我こそは魔王ディア――」

「あ、この子デビちゃんね。」

「おい」

「あ、蓮くん帰ってきてるじゃーん!ミミあそびたーい!」

「ししょー、ルービックキューブが全く持って解けないんですけど…ぶっ壊すのが正解ですか?」

「毎度毎度…貴方ハ馬鹿ナノデスカ?」

 速攻でルービックキューブを揃えるメカちゃん。

「うわーすげー!!ありがとうメカっちー!」

「むぅ…魔王と同居ですか……。」

 ……。

 うるさい。

 で、このうるさい奴らこそ、異世界から追ってきた転ちゃんの愉快な仲間たちだ。

 今のところ、俺がわかってるメンバーは5人。

 一人目、勇者一行パーティメンバー、聖女レイン。金髪ロングでお人好し。魔王と同居するのを嫌がってるあの子だ。

 二人目、転ちゃんの弟子、ルーシェ。茶髪ポニテでちょっと馬鹿。ルービックキューブが解けない子だ。

 三人目、モンスター系少女、ミミ。犬の耳と尻尾がついてて自由奔放。遊びたいって言ってたやつだ。

 四人目、機械少女、メカ。常に最適解を導くロボット。ルービックキューブもおそらく最短手順で揃えられてる。ちなみに機械系キャラによくある感情論争だが、感情はある。

 五人目、多分魔王、デビちゃん。力が弱ってるのか転ちゃんより小さい。ディアー、とか言いかけてたやつだ。


 この他にもいるかもしれないと思うとぞっとする。

「いらっしゃーい、いや、おかえりなさい。」

「何言って…おい押すな!私まだ住むとは言ってな――」

「野放しにするのは危険なので私が見守ります。」

 不憫だ。

 魔王が不憫でならない。

 あちらの世界で何をしたかは知らないが、それでもこの仕打ちは可哀想過ぎる。

「じゃ、私買い物行ってくるからー。」

「ししょーが一人じゃ大変だと思うので荷物持ちしてきまーす」

 転ちゃんとルーシェちゃんが退場する。

 彼女らは台風かなにかなのだろうか。

「誰か料理手伝ってくれない?」

「私手伝イマショウカ?」

「お、じゃあよろしく。」

 続いてメカちゃんは雄の手伝いに行った。

「…私ちょっと、出かけてきます。」

 さらにレインちゃんが退場。

 魔王と一緒にいるのに耐えられなかったのだろうか。

「ご主人さま行っちゃった…ねー蓮くーん!遊んでー!!」

 ミミは俺に飛びかかってくる。

「ぐぇ」

 俺、倒れる。

 重くはないしむしろ軽いが、しかしスピードと勢いが人間の比じゃないので普通に負ける。痛い。

「……」

「えーと、デビちゃんだっけ?えー、まあ、これからよろしく。」

 ミミを撫でながら言う。

「何だこれ」

「大丈夫、それが普通の反応だ。」

 なんかこの魔王様とは仲良くなれそうな気がする。

「えー、ゲームでもするか?」

「人間ごときが私に勝負か?いいだろう、受けてやる。」

 ツンデレかな?

 とりあえずめちゃくちゃ仲良くなれそうだ。


「何するよ、テレビゲーム…は、操作覚えるのが面倒だろ?んー…あ。」

「見つかったか?」

「『将棋』って知ってるか?」

「知らん。」

「だよな。」

 RPGの世界に将棋あったら嫌だもんな。

「じゃあ、チェスは?」

「やったことはないがルールは知ってるぞ!」

 胸を張っていばる。

 胸無いのに。

「十分だ、将棋も同じでターンごとに駒を動かすゲームだ。」

「動き方に違いがあったりもするのだろう?」

「その通り。ほら、駒に書いてる字がちょっとずつ違うだろ?その文字ごとに動き方が違うんだ。他にも進化とかのルールがあるけど――まあ、そこは必要になったら説明する。」

「動き方一覧みたいなのはあったりするのか?」

「作っとくよ。あと初期位置のメモも作っとく。」

 ってな感じで俺はケモミミ少女を撫でながら魔王と将棋をした。

 我ながら訳がわからない状況だ。

 ちなみに勝敗なんだが、魔王も俺も下手という言葉で表せないくらい酷い有様だったので聞かないでほしい。




「なかなか楽しかったぞ。」

「そりゃ良かった。こういうゲームはなぜか家に山程あるから、またやろうぜ。」

「ほう。まだまだ楽しめるということだな。」

「そういうこったな。」

 この不憫魔王を妹にしたかった。

 さっき帰って来た妹を見てみろ、聖女と弟子とモンスターと機械の百合ハーレムにいるんだぞ。

 なんか自分が虚しくなってくるもん。

「ご飯できたよー」

「はーい!!」

「いぇーい!」

「分カリマシタ」

「わー!!」

 上4つはほぼ同時である。

「ほら魔王様、俺らも行くぞ。」

「仕方ない、付いて行ってやろ――」

 誰かの腹の虫が鳴る。

「…ついて行ってやろう。」

 多分こいつの腹の虫だ。

 どこまで不憫なんだこの魔王。


 で、場面は風呂へと移る。

「それにしても魔王様、風呂の入り方は…」

「流石に分かるわ。」

「良かった。あと、一人で入りたいなら逃げといたほうがいいぞ。転ちゃんは基本的に全員で入ろうとするから。」

「え?」

「ハーレムの一員にされたくなけりゃ逃げろってことだ。」

「なにそれこわい」

 わかる。

 俺も怖い。

 昔(といっても6歳くらいだったけど)あいつと風呂に入ってたことがあると言う事実が受け入れられない。

「あ、デビちゃんいたぁ!!」

「うわ来たぁ!?」

 幸い、この家は鬼ごっこを十分にできる広さだし、設計だ。

「なぁ雄。」

「はい雄姉さんですけど。」

「姉さんとは呼んでねえ。」

 俺の台詞に付け足すな。俺の台詞を捏造するな。

「雄姉ー、デビちゃん全然捕まんなーい。」

「諦めてお風呂入っちゃったら?」

「んー…残念だけどそーする。」

 と言って転ちゃんは風呂に向かう。

「転ちゃんは『雄姉』って呼んでくれて、可愛い妹だよ」

「可愛くない弟で悪かったな。」

 雄姉って呼ぶのが正解なのか?

 いや、違和感しか無いし何よりなんか嫌だ。

「じゃ、日記書くわ。」

「真面目だねぇ。」

「あんたが書けって言ったんだろうが。」

「そうだったかもね」

「そうだったんだよ、それが事実だ。」

 捨て台詞のようにそんな事を言い、俺は自分の部屋に行く。


 日記を書き始める。

 書き出しは…そうだな。

 うーん…。

「駄目だ、書くネタが無い。」

 異能事件が起こったわけでもないし、部活はなかったし、別にテロリスト的なのは割と日常茶飯事だし。

「…あー、もういいや。」


『今日も一日平和だった。』


「……これでいっか。」

 苦し紛れに書いた夏休みの日記としか思えない出来だが、まあ日記なんて大体こんなもんだろう。

 そんなような適当なテンションで、俺は今日も、一日を終わらせる。

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