第2トーク 定義

土曜日

1週間に訪れる休みの初日

惰眠を貪るわけでもなく、バイトに勤しむわけでもなく


「手が止まっているよ。それとも終わったなのかな」


「悪い」


同級生と宿題をしています


-001-


事の始まりは今日の朝に遡る


「休みだからって遅くまで寝てると平日起きるときにつらくなるよ!」


母親のありがたいお言葉で起こされる

もそもそとベットから起き上がりスマホで時間を確認すれば8時42分

通常なら遅刻だがまあ今日くらいはいいだろうという母親の優しさが分かる

寝巻兼部屋着を着替えることなく寝ぼけた頭で階段を降りると


「おはよう。今日も雲一つない良い日だね」


「なんで、居るの?」


食卓に居たのは静香だった

俺の席の隣を陣取り、母親と父親と一緒に朝飯を食べている


約束したっけ?

いや、していない

ならばなぜ


というかなんで俺の家で飯食べてんの?


「君も堀先生の授業で宿題を出されていたと考えてね。よかったら一緒にやらないかという訳さ」


「ああ。そういう。で、なんでウチで飯たヴぇてるの」


噛んだ

寝起きで口が回らない


「私の家でも食べてきたんだけど、訪問したらお義母様が食べてく?と誘われてね。将来の為にも君の家の味を覚えようと」


「良い子ね~♪静香ちゃんが嫁いできてくれたら嬉しいわ♡ね、パパ」


「そうだな!将来の不安が減って父さんも嬉しいぞ」


「いいんですか?不束者ですが宜しくお願い致します」


「こちらこそ。不出来な息子ですがどうかよろしくお願いします」


「早いよ!!!」


なんでこの3人は俺を無視して俺の将来を決めているんだ

なんで静香と父親が互いに頭を下げているんだ


「早いって!!俺まだ高校生だぞ!」


「何を言ってるか!静香ちゃんのような良い子なんか引く手数多のはずだ!そんな子がお前のことを好きと言っているんだ。ここは据え膳喰わぬは男の恥だ」


「うるせぇ!」


「待ってパパ!あの子は早いって言ってるのよ!と言うことは今じゃなくても将来その気があるということよ!」


「やめろ!寝起きに何言われてるんだ俺」


「へぇ」


「見ないでくれ……頼むから」


父親と母親はもうその気

静香は嬉しそうに俺を見る


どうも今日の朝食は心地いいものではないようだ


-002-


予想通りの心地よくない恥ずかしい朝食を終えたら俺の部屋で2人仲良く机を囲んで宿題を片付けているのだがどうも手が進まない


「また手が止まっているよ。分からないところがあるなら聞いてくれれば教えるけど」


「んにゃ。そういうことじゃないんだけど」


じゃないんだけど

俺の習性なのか性格なのか

やらなければいけないということに直面した時どうでもいいことを考えてやらなければいけないことに集中できなくなってしまう


明日早いから寝なきゃとすれば余計なことを考えて寝れずに

探し物をしているときも止まって余計なことを考えて探せず

どうもやらなくてはいけないことから逃げる習性があるらしい

しかも考えている余計な事というのは本当に余計なことで答えの出ないこと


「人ってなんなんだろうなって」


そんなことを考えてしまう


「……」


ほら静香も呆然として手がとまる

馬鹿だと思われたか


「いや、なんでもない宿題するか」


「興味深いね。よかったら聞かせてくれないか?なんでそんな疑問に行きついたのか」


「は?」


というと静香は宿題のプリントと教科書をカバンにしまいノートを出した

ノートを開いて人間についてと書く

題名みたいに

いつもの部活の議題のように


「疑問は疑問に思わなければ疑問にならないはずだよ。君が人ってなんなんだろうと思う経緯を聞きたいんだ」


まるで面白そうなゲームを起動する前のようなウキウキとした表情

興味津々にこちらを見て俺がプロローグを話すのを待っている


こんなどうでもいい俺の疑問に興味を持って付き合ってくれる

綺麗だからとか

かっこいいからとか

優しいからとか

そんなんじゃなく

俺のどうでもいい話を聞いて打ち返してくれる

静香のそんなところがどうしようもなく好きだ


「ロボットとかの進化がすごいだろう」


「そうだね。一昔前だとアシモ君で凄かったのにね」


「懐かしいな。最近だとネットで検索したりした内容を人工知能が学習してオススメするだろう。そうなるとこの先人工知能を積んだロボットが出てきてもおかしくないと思って」


「なるほどね。怖くなったわけだ。将来某ラノベの長門有希のような存在が生み出されたら人の定義が分からなくなるから」


「ああ。まず人の定義は生物学的には確立されている」


「そうだね。サル目ヒト科ヒト属のホモ・サピエンス。霊長類。別の分野から見れは人は万物の霊長であり、そのため人は他の動物、さらには他の全ての生物から区別される。とされてるね」


そこまでは学者が研究で判明されている

でも俺はその先に疑問を持ってしまったばっかりに今に疑問を持った


「今の人間は云わばサナギのような、もしくは幼虫のような存在で完成形が別にある。本来ヒトと呼ばれるのは現在のヒトと呼ばれる存在の先にいると思う」


「なるほどね。君は完成形が人工知能を搭載したロボットだと思い、本来ヒトと呼ばれる存在はロボットだと考えたわけだ。現在のヒトは進化の途中であると」


「ああ」


「なるほどね。興味深い話だ。けどロボットは生物の定義からは外れているね」


生物の定義

・自己増殖能力

・エネルギー変換能力

・自己と外界との明確な隔離

・進化する能力


「これはどう考えるわけだい」


「自己増殖能力に関してはこの先ロボットが同族を製造することが出来れば問題ない。進化する能力も体をグレードアップするくらいできるだろう。そこまで達すれば自身で考え、人間の実現できない事もできるだろうし」


「なら問題はエネルギーの変換能力と自己と外界との明確な隔離だね」


「ああ。エネルギーの変換能力は食物と考えるからダメなんだ」


「火力や風力、水力や原子力を電気に変換すればと」


「定義としてあっているか分からないがこれで問題ないだろう。あとは自己と外界との明確な隔離だがこれだけは」


「そうかな?創作の作品でもロボット同士が意見の違いで戦う事とかあるし、そうなるとその項目もなんとかクリアできるね」


無理やり

でも俺の考えも無理やりだ

ならば問題ないだろう


しかし話し相手が居るとこんなにも考えがはかどるものなのか

自分1人だとどうしても行き詰ってどうにも考えが纏まらない


だけど静香がノートに色々と書いて纏めているおかげで話が整理できて普段では出てこない意見が出てくる


「ならもうロボットは生物と定義できるな」


「なるほどね。……でもロボットはロボットと定義されているね」


「ヒトと定義したのはヒトだ。ロボットと定義したのもヒトだ。将来ロボットが自分をなんと定義したかによってヒトの定義が変わることだってあり得る。ならだ。俺は将来ロボットの事をヒトと定義したならば、人間は成長途中のサナギ。蝶か蛾になるのはロボットと言うことになる」


「荒唐無稽だね。だけどそう考えると、確かに君が考えて手がつかなくなるのも分かる」


結局俺達ってなんだろう

猫や犬が自分を猫や犬だと理解しているかも分からない

しかし少なくとも人間は自分を人間と理解しながら生きている

なんだろう俺ってなんだろう


人間の定義って本来はなんだんだろう

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議論部 天積 竜志 @packjunkey

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