第7話 リュディガー様の話
「聖女として神から力を与えられた王女がヴェルトミュラー家に降下されたことがはじまりなのです。それからは産まれてくる子供が神力を受け継ぐことになった。王家は力を王家に戻そうと、ヴェルトミュラー家から王家に嫁がせたが、産まれてきた子供達にその力は宿らなかった。神の力はヴェルトミュラー家だけに引き継がれる力となり、ヴェルトミュラー家は守護の家と言われるようになったのです」
なるほど。そういうことか。
リュディガー様は話を続ける。
「しかし、私はもう子孫を作ることはないと思います。ヴェルトミュラー家も神の守護ももう終わりです」
「弟さんは?」
側妃の息子がいたはずだ。
「弟は父が再婚した相手の子供です。父は入婿でヴェルトミュラー家とは何も血は繋がっていません。私は最後の血縁者なのです」
そうか。そういえばそのようなことを言っていたな。
「リュディガー様は確かイルメラ様の婚約者ではなかったのですか? イルメラ様がヴェルトミュラー家に嫁ぎ、子を成せば、繋がりますよね?」
私の言葉にリュディガー様は乾いた笑いを浮かべた。
「私の噂をお聞きになっていませんか?」
「噂? いいえ。何も」
「そうですか。ハイデマリー殿下はまだこちらにきて日が浅いのでご存じないかもしれませんね。私は弟のマインラートを冷遇しいじめ、危害を加える悪い兄なのだそうです。我儘で傲慢、選民意識が強く使用人達にも偉そうにしていると。あまりの酷さに王妃殿下がヴェルトミュラー家から切り離した。本来なら罪に問い処遇されるはずだが、守護の力があるからこの礼拝堂に幽閉しているそうですよ」
そんな……。そういうことになっているのか。
「そんなわけありません。リュディガー様はとても慈悲深く、お優しいお方です」
ハンナが私を見た。
「それは世を偲ぶ仮の姿らしいです。外では聖人君子を演じて、家に戻ると悪魔になるそうです」
リュディガー様はため息をつきお茶をひと口飲んだ。
「陥れられたのですね。否定はしなかったのですか?」
「否定などしても同じですよ。母が亡くなって、あの女が後妻になってから私はずっと冷遇されてきました。父は元々あの女と結婚したかったそうですが、爵位に目が眩み母と結婚した。母も祖父母もきっと父とあの女に殺されたのだと思います。なんの因果か私は生き残ってしまった。あの女にとって母にそっくりな私は憎悪の対象でしかなかったのだと思います」
「リュディガー様のお母様、お祖父様、お祖母様は殺害されたのですね。なぜ調べてもらわなかったのですか?」
聞いてすぐに気がついた。
「気が付きましたか? 義母の姉は側妃です。そう言うことです。こんな話は今まで誰にも話さなかったのですが、回復魔法のせいでしょうか、あなたにペラペラ話してしまった。忘れてください。さぁ、守護の神の勉強をしましょう」
そう言ったきり、リュディガー様は祖父母と母親の馬車の事故のこと、ヴェルトミュラー家で受けていた迫害のこと、その他も自分の話は一切しようとしなかった。
◆ ◆ ◆
「ねぇ、ハイデマリー、あなたリュディガーなんかから守護の神について学んでいるんですって?」
語学の授業が終わり、王家のサロンでお茶を飲んでいたら、後ろから突然イルメラ様に声をかけられた。
一応王女なのだし、突然後ろから声をかけるのはどうかと思うが、注意しても善意には取らないだろう。ほっておこう。
「これはこれはイルメラ様、突然で驚きましたわ。確かにリュディガー様から学んでおりますが何か?」
嫌味を含んでみたが全く気がついていないようだ。
「リュディガーは、酷い人なの。人前では良い人のふりをしているけど、陰では弟のマインラートや義母に酷いことをしているの。我儘で傲慢で暴力も平気でふるうの。王妃殿下が気づいてあの礼拝堂に幽閉したのよ」
イルメラ様は興奮した様子で話す。
「リュディガー様が弟や義母に酷いことをしたという証拠はあるのですか?」
「証拠? マインラートや夫人がそう言ったわ」
「証言それだけですか?」
「マインラートが嘘をつくというの?」
「では、リュディガー様が私に嘘をついているとおっしゃるのですか?」
「そうよ」
「その証拠は?」
「王妃様が幽閉したというのが証拠でしょう!」
「私は幽閉ではなく保護したと伺いましたが」
「誰からよ」
「王妃殿下である叔母からです」
「う、嘘よ! リュディガーが悪い人なの! 守護の神の勉強ならマインラートに受ければいいわ」
「結構です。私は自分の目しか信じません。失礼します」
私は立ち上がり、一応礼をとったあとサロンから出た。イルメラ様は私を苦々しい表情って見ている。
廊下を歩きながら後ろに控えているメアリーに小声で呟いた。
「イルメラも盛られているわ。ほっとく?」
「そうですね。とりあえず女王陛下に報告いたしましょうか?」
「そうね。私は黒幕と会ってみたくなったわ」
私はふふふと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます