第6話 一歩進む

 私は極秘伝書で母に国王の薬の件を伝えた。母の返事は『ほっとけ』というとこだった。


 なのでほっとくことにした。


 母は国王にそれを知らせて助けるつもりはないようだ。まぁ、知らせたところで国王は聞く耳はもたないであろう。側妃の意のままだもの。


 母は薬のせいとはいえ、大事な妹に辛い思いをさせた国王を許すつもりはないようだ。母が怒ると厄介なのを他国の王が知るはずもないのだが、国王は終わったなと私は思った。


◇ ◇ ◇


 しばらくしてスティーブから連絡が来た。


 リュディガー様は『いつでもどうぞ』と仰ってくれたらしい。


 私は早速、ハンナを伴い礼拝堂を訪ねてみた。


「ハイデマリー殿下、話はスティーブから聞いています。我が国の守護の神について話を聞きたいと?」


 リュディガー様は笑顔で迎えてくれた。


 今でも痩せ細っているのに、この礼拝堂に保護されるまではもっと痩せて傷だらけだったとは。

 ハンナは痛々しくて目を背けたくなるくらいだったと言っていた。


「はい。この国は神の守護を受けていて、それで気候もよく豊穣で魔獣などに襲われることもないと伺いました。それは代々のヴェルトミュラー家の聖人がいて、祈りを行っていると。その守護について学びたいのです。今はリュディガー様が行っているのですね」


 リュディガー様は眉根を寄せ目を伏せた。


「どうでしょう? 正直なところ私にそんな力があるのかどうかわかりません。この国は神の守護があるので、もう聖人などいらないとの声もあるみたいです。私は先祖が張った結界に神力を注いでメンテナンスしているくらいですし、それすら必要ないと言われているようです」


 そんな……。


 この人には力がある。勝手に鑑定した私がいうのだから間違いない。それは神力。魔力とはまた違うエネルギーだ。


 それにこの人の瞳は私の心の奥底を捉えて離さない。これも神力か? 私は瞳を逸らすことができない。


 こんなに力が溢れ出ているのに、なぜこの国の人はわからないのだろう?


「どうかしましたか?」


 私はリュディガー様を見つめたまま固まってしまっていたようだ。


「あっ、すみません。ぼんやりしてしまって……」


 リュディガー様は優しく微笑んだ。


「お疲れ様が出ているのでしょう。癒してもよろしいですか?」


「ありがとうございます」


 私はこくりと頷いた。神力を感じてみたい。

 

 リュディガー様が手をかざすと、その手から光とともに癒しと回復のエネルギーが出ているのが見えた。

 そのキラキラとしたエネルギーが私を包む。


 あ〜、気持ち良すぎる。こんな良いエネルギーは初めてだ。自分にもかければ良いのに。


「ご自分にはかけないのですか?」


「自分には効果がないのです」


 リュディガー様はふっと笑った。


 「もしよろしければ、お礼に私の回復魔法をうけていただけませんか?」


「回復魔法ですか? 魔法を受けるのは初めてです。あなたが辛くならないのであればお願いします」


 辛くなる? リュディガー様は神力を流すと辛くなるのだろうか?


「私は全く辛くなりませんが、リュディガー様は神力を使うと辛くなるのですか?」


リュディガー様は首を振った。


「いえ、以前に、回復魔法を使うと術者は魔法時にかなりの魔力を喪失するため、身体に負担がかかり一時の魔力欠乏になると本で読んだことがあります」


 本か……。


「私は魔力量が多いので、全く問題無しです」


 にっこりと微笑み、リュディガー様の手を取った。

 手から私の魔力を流す。ヒールで魔力を纏わせて癒す方法より、直接私の魔力をリュディガー様の身体の中に入れたかった。


 魔力は血液を通り、身体中に行き渡らせていると、リュディガー様は安らかで穏やかな表情になった。魔力を流している私も気持ちいい。


 リュディガー様の神力と私の魔力は相性が良いようだ。上手く交わり強い力になる。


「ありがとう。身体の血液や細胞がうまれかわったようだ」


「私もですわ。こんなことははじめてです」


 私達は顔を見合わせ微笑みあった。


 ハンナがお茶を淹れてきてくれた。


「さぁ、お二人とも、少し休憩なさいませ。リュディガー様も甘いものなど召し上がってください。あなた様はもう少しお肉をつけた方がよろしゅうございます」


 確かにそのとおりだ。


「食べながらで良いので、お話を聞かせてください」


 リュディガー様はヴェルトミュラー家がなぜ守護の聖人の家と言われるようになったのかをぽつりぽつりと話し始めた。

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