かみさまのところに行く
@ramisho
第1話 学校に行きたくない
最近、小学校に行きたくないの。だって、ユカリちゃんに嫌われて、仲間はずれにされているから。
私がそう話すと、かみさまはふーん、と言った。
なんで嫌われたのかは分からなくて。いつも通り学校に行って、いつも通り勉強して、いつも通り遊んだだけ。でも次の日、ユカリちゃんの機嫌が悪くて、話しかけても無視された。
ユカリちゃんはみんなのボスみたいな存在だから、ユカリちゃんが嫌いになった子は、みんなも一緒に嫌いになるの。私は今、みんなからの嫌われ者。
でもね、この前まではミオちゃんが仲間外れにされてたんだ。ミオちゃんも、どうしてユカリちゃんに嫌われたのかわからないって泣いてた。私は、それがかわいそうで、ミオちゃんとも仲良くしてたよ。でも今は、ミオちゃんとユカリちゃんが仲良しで、ミオちゃんに無視されてる。
最近ね、ユカリちゃんとミオちゃんが、男子に女子の人気ランキングを決めさせた、ってランキングを貼ってた。男子もユカリちゃんが怖いから逆らえないし、でも、楽しんでた。
ユカリちゃんとミオちゃんが一位と二位で喜んでた。私も気になって見てみたら、私は最下位だったよ。目の前が真っ暗になって胃がぎゅーって痛くなって、下向いてた。それをユカリちゃんたちが見て、クスクス笑ってた。
後でね、男子の一人が「ユカリにお前を最下位にしろって言われたから、そうした」って教えてくれた。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、ホッとしたけど、私はどうしてこんなにユカリちゃんたちに嫌われてるんだろう。
どうしたら、いいのかな。朝起きると、お腹が痛くて、学校に行きたくないの。朝ごはんも食べたくない。ずっと胃がきゅーってしてる。お母さんに言ったらね、お母さんが怒って、先生に言うって言ったの。それは嫌だから、今はもう大丈夫なふりしてる。
かみさまはまたふーん、と言って大きい窓から見える外の景色を見た。私も一緒になって見た。
外は良い天気で、きれいな水色の空があって、たくさん生えてる緑の葉っぱが太陽でキラキラしてる。ちょっと遠くには田んぼが見えて、水がピカピカしていて、その奥には小さな緑色の山がある。
いい天気だね、というとかみさまがうん、と言った。かみさまは、お山に向かってお話し始めた。
俺はさ、今を生きるのがつらいと思ったとき、未来を生きるようにしてるんだ。未来はな、今よりめちゃくちゃイイものになるんだよ。そう、信じるんだ。
ひろーいお座敷の中に、かみさまの低い声がゆっくり、ふわんふわんっと、広がっていく。私はどういうこと?と聞いて、かみさまをじっと見た。
キミにとってのイイ未来っていうのは、ユカリがいない未来だよ。
かみさまは眠たそうな顔で、ぼーっとお山を見ながら言った。灰色と白の線が縦にいっぱい入った浴衣を着て、細いのに大きなごつごつとした手は、あぐらをかいた膝の上に置いてある。
かみさま。ユカリちゃんのこと、消してくれるの?
かみさまは、少し驚いた顔で私を見た。短いサラサラの髪が動いて、びっくりした目はみんなよりも薄い色をしていて、お日様でキラキラしていて、キレイだなぁと思った。
意外と物騒なことを言うんだな。消さないよ。キミはユカリとは別の道を目指したらいい、ってこと。
別の道?
そう、キミがユカリよりも得意なことはなんだ。
勉強、かな。
じゃあ、勉強してユカリよりもテストの点数が高くないと入れない学校を目指せばいい。その未来のために、今日も明日も、生きるんだ。
じゃあ、私、勉強しないと。学校も行かないと。
うん。
そっかぁ。
私はユカリちゃんのことを思い出してきゅーっとなっていた胃がぽわっとあったかくなって、身体からくてーっと力が抜けた気がした。
私ね、ユカリちゃんたちといつかきっと仲良りしなきゃ、そのために学校に行かなきゃって思ってたの。だから、行きたくなかったの。私、ユカリちゃんのことも、ミオちゃんのことも、みんなのことも、もう嫌いなんだ。大嫌い。
かみさまは、うん、と頷いた。
だからね、ユカリちゃんも、みんなもいない世界に行くために、学校に行って、勉強を頑張る。誰も追いつけないくらい、頭良くなる。かみさま、ありがとう。
私はずっと体育座りをして、ちょっとだけ痛くなったお尻をさすりながら、ぴょんっと立った。なんだか走りたかったけど、玄関まで早足で歩いた。
お父さんが買ってくれたお気に入りの靴を履いて、つま先をとんっとんっとすると、くるんと振り返る。柱にもたれて腕組みしていたかみさまが、ひらひらと手を振った。
かみさま、ばいばい。また来るね。
うん。気をつけて。
お外は、土や石や葉っぱが、お日様の光で暖かくなった匂いがした。私はかみさまの家の前の砂利道を、じゃっじゃっと音を立てながら走った。
かみさまのところに行く @ramisho
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