第23話 もう、壊れたに決まっているだろう?

「……お前が———‶神〟か?」

「ええ————私が‶神〟です」


 サルガッソの城壁の上で、俺は槍の先端を向ける戦神と対峙する。

 思えば、こうしてまともに神と向き合うのは初めてだ。

 フィレノーラ要塞で出会った神は錯乱してまともな会話ができるような状態じゃなかった。

 神、アテナイ。

 彼女は外見こそ普通の人間なのだが、その身体に待とう神々しさというか、張り詰めた空気というか、内側から異物感・・・がにじみ出ていた。


「神、アテナイ。敵の大将が自ら前線に出てくれるとは……勝負が早くつきそうで助かる」

「笑わせようとしてます? イルロンドにいたっては自分から瞬間移動してきてくれたじゃないですか。【次元の魔眼】を使って」

「【次元の魔眼】……また知らない用語……だけど、それをお前に聞くつもりはない。悪いけど、今、俺達は戦争をやっている———」

「ですね」

「そして———戦場にいる」

「わかります」

「だから———速攻でお前を殺させてもらう!」


破壊デストロイモード起動】

 

 瞳の中に、魔法のメッセージが表示される。

 目に力を込めて、アテナイを見つめる。

 その頭を———【魔眼】の力で爆破しようと———、


 ドォォォォォォォォォォォォンッッッ‼‼‼


 瞬間———横から巨体が突っ込んできた。


「何だ———⁉」


 それは———エメラルド色の巨竜だった。


「バハムート⁉」


 天竜将軍バハム・スライバーンの真の姿———巨竜バハムートだった。

 彼女のからだの右側面には大きな焼け焦げた跡があり、鱗が煙を上げていた。

 瞳を閉じて、苦しそうな様子で、全身をフルフルと震わせている。

 大きく負傷をして動けず、瀕死の状態だった。


「アテナイ様はやらせはしませんわ!」


 火ノ聖女が言う。


 上空では火ノ天使ウリエルが拳を握りしめ、地上に落ちた巨竜バハムート へ追撃をかまそうとしていた。


「————フレイ!」


 その火ノ聖女へと向けて、イリアが飛びつく。

 巨竜バハムートの背中に乗っていたイリアは、足場の巨竜が落ちるがままに勢いが付き、そのまま敵の聖女に突撃をかました。


「お姉さま⁉」

「フレイ‼ もうやめて!」

 

 イリアが火ノ聖女を押し倒すと、彼女たちの頭上にいる天使たちも同じ動きをし、光の天使が、火の天使の肩を掴んで押し倒そうとしているところだった。


「その目……お姉さま……操られてはいませんの?」

「そうよ、フレイ。こんな戦い……こんな戦争は間違ってる。だから、もうやめよう。やめて一緒にどこかの村で平和に暮らそう?」

「てっきり〝光ノ天使ミカエル〟が召喚された時には、イルロンドの【魔眼】で操られているかと思いましたけど……まさか、お姉さまは自分の意志で……」

「そう、私は私の意志で、あなたを止めに来た」

「寝返りましたの⁉」

「それは違う———!」

  

 そこは否定するんだ……。

 もう完全に、神を裏切ってこちら側についたと解釈していたが、イリアの中ではまだ結論が出ていないらしい。

 

「う……うぅ……」


 二人の聖女が争い合っている一方で、巨竜バハムートは姿を巨竜から人間態に戻し、幼女の姿で呻きだす。


「大丈夫か⁉ え~っと、バハム!」


 駆け寄り、彼女に手を触れると相当痛みが激しいらしく、言葉は帰ってこなかった。


「あら? イルロンド君、あなたもしかして……」


 そんな俺に神は呑気に話しかける。


「何だ⁉ ク……ッ、早くお前を殺してこの戦いを終わらせないと! バハムを治療しないと……!」


 俺は【魔眼】が破壊の状態モードのままにしている。

 一刻も早く神を殺して、犠牲者をこれ以上出さないために———。

 少しでも躊躇をしてしまえば、無駄な犠牲がでると、考えればわかるから。


 だから———この女がどんな神なのかはしらないが、躊躇わずに絶対に殺、


「———イルロンド君、あなた壊れている・・・・・んですね」

「え————?」


 神、アテナイは満面の笑みを浮かべていた。


「どういう……ことだ?」


 躊躇を、してしまった。


「どうもこうも……あなたは何も知らないんでしょう? だって、もう前のイルロンド君じゃあないんですもんねぇ」

「——————ッ」


 心臓を掴まれたような感覚になった。

 この女は、何か知っているのか?

 俺に関する重要なことを———。


「あなたが壊れてなかったら、そんな驚いたような反応はみせませんよ。そんな何も知らないような反応見せませんよ。私の前に姿を現しませんよ。絶対に勝てない・・・・———昔馴染みの私の前にはね」

「勝てない……?」


 んな馬鹿なことがあるか。

 見ただけで相手を爆殺できる、チートスキル【魔眼】を持っているんだぞ。


「うぅ……」


 再び、バハムのうめき声が聞こえる。


「———勝てないなんて、あるわけがない。このイルロンドが!」


 コイツはチートスキルをもっている無敵の皇帝だ。


 その———はずだ!


 今度こそ———【魔眼】に魔力を込めて神、アテナイを見る。


 目に熱を感じる―――。

 【破壊モード】とやらが発動した感覚がして、閃光がアテナイへ伸びる。


「あなたの【魔眼】は———別に無敵じゃありませんよ?」

 

 アテナイは———丸い盾ラウンド・シールドをかかげた。

 大きな輝く銀の盾。その表面は綺麗に磨かれて、水面のように周囲の光景を映し出していた。


 鏡のように———。


「—————〝邪神殺シノ盾アイギス〟」


 俺の顔が———その盾には映っていた。


 その奥のアテナイがニヤリと笑う。

 

 こんな……こんな単純な方法で————!


 【魔眼】の力は反射され、俺は全身が裂けるほどの衝撃に襲われた———。

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