第20話 攻める竜迅軍
都市サルガッソ攻略戦は———すぐに始められた。
翌日、軍備を整えるとすぐにサルガッソへと向けて進軍し、戦火が切って落とされた。
「
ガルシア帝国の巨大飛空艇内で、マイクに向かって
半島を丸々都市化した巨大な街並みが足元に広がる。
サルソー半島という名前の地域の上空を大量の飛竜が覆う。まるで竜の雲だった。
「ファッ、ファッ、ファッ! いくら強固な壁だろうが、いくら強力な艦隊があろうが———空から攻められればひとたまりもあるまい! 飛竜を操ることができる―――それこそがこの最強の魔族、竜族の長である、余——バハム・スライバーンの力だ!」
それほどの数の竜を操る力が、権威が、この幼女にしか見えない竜人にはあった。
飛竜は風を切り、迅速にサルガッソの制空権を獲得していく。このまま順調に、こちらの想定通りに戦況を進められると思った。
が———地上から次々と魔法陣が展開し、そこから火の玉が飛んでくる。
アルトナ公国軍の反撃だ。
城壁の上にはローブを着た魔法使いたち。彼らが魔法陣を展開し、迎撃を開始したのだ。
「散開————!」
バハムがマイクを使い、音響魔法を通した指示を空に響かせると、集まっていた飛竜が一斉に散らばり、縦横無尽に空を駆けまわる。
「飛竜が近づけない様子ですな」———とはシュバルツの言葉。彼も俺の隣に立ち、飛行艇の中から地上の戦場を観察していた。
「わかっておるわい! 地上———リザードマン部隊!」
地の上を、竜の兵士の
「進めェ――――‼」
何万といるかはわからない。だが、大地を覆いつくすほどの数の竜が長槍と丸盾を持ち、一歩一歩、ザッザッザッと行進を進める。
トカゲの頭を持ち、全身を硬い鱗に包まれたリザードマン部隊。
その彼らが密集陣形———
ファランクスの陣形は右手に槍を、左手には盾を持つ一人一人が肩を寄せ合って進軍するシンプルな陣形だ。
右の長槍で威嚇をしつつ、敵の攻撃は左の巨大な丸い盾で防ぐ。それでは一人一人の小回りが利かず、槍を持っている右側ががら空きになるので、それを左に並んでいる仲間にカバーしてもらう。それがどこまでも続いていく……。
平らな針ネズミを思い起こさせるその陣形は、ガッチリと互いを守り合う必要があるため足並みをそろえて、ゆっくりと進む。
だから、城壁に辿り着くのは時間がかかってしまう。
それでもじわじわと距離を詰められるのは威圧感があり———アルトナ公国の魔法使い兵は上空から地上へと攻撃の矛先を向けた。
迫りくるリザードマンの大群のプレッシャーに負け、恐怖したのだ。
カンカンと火炎魔法がリザードマンが持つ盾に当たり跳ね返る。
「今じゃ!
バハムの号令と共に、飛竜が城壁に向かって火球を吐く。
飛竜は口から放たれたそれは魔法使いたちがいる城壁の上へ着弾し、爆発が起きる。
障壁魔法が展開されている様子がちらほらと散見されるが、それを突破するほどの火力を飛竜は有している。
魔法使いたちは吹き飛び城壁から転げ落ちたり、中には飛竜の鋭いかぎづめに体を掴まれ、上空高く飛ばさたりしていた。
俺は、悲鳴を上げて地上へ真っ逆さまへ落ちていく敵兵から———目を逸らしたくなった。
だけど、それはいけないと思った。
これは戦争で———俺はそれを操り支配できる立場の人間なのだから。
「————ッ」
隣から吐息が聴こえる。
イリアだ。
聖女イリアは、俺の妾という扱いであり、何かあったら【魔眼】を持っている俺しか止められないと言うことで、この飛行艇のブリッジに
「大丈夫?」
「ええ……これは、仕方のないこと、仕方のないことだとわかっているのに……」
イリアは胸を押さえて、苦しそうに戦場を見る。
アルトナ公国軍が、竜に
「……俺達、帝国が圧勝すればするほど、こんな犠牲はなくて済む」
慰めにもならない言葉だと思ったが、イリアはこくりと頷いた。
「そう……差があれば、あるほど、傷つく人がいなくて済む……だから、魔族が十分にその力を人間に振るうのは、間違っていない———悪いのは、それでも諦めない———神様が……!」
ハッと聖女の目が見開かれる。
「逃げてッッッ‼」
その言葉は誰に向かっていった言葉か。
ただ———戦況は大きく変わろうとしていた。
「何だ……アレは……⁉」
空に———巨人が現れた。
赤く輝く、
その、巨人の背中には———溶岩で出来た翼が付いていた。
「天使———私たち聖女の……真の力……」
溶岩の巨人の足元———サルガッソの城壁の上。
そこには、真紅のツインテールと漆黒のゴスロリドレスを着た少女が笑顔を浮かべて立っていた。
「————火ノ聖女、フレイの天使……
空中に浮く山のようなサイズの巨人の名を———聖女は唱えた。
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