第18話 公国で二番目に大きな都市・サルガッソ
フィレノーラ要塞から遠く、東にサルガッソという巨大都市が存在する。大陸の中心を流れる巨大運河と海の境目に作られた都市で、豊かな土地に交易も盛んで発展し続けてきた、神聖アルトナ公国の首都に次ぐ大きさの都市である。
港湾都市サルガッソ―――そこの管理を任された神———アテナイは街で一番大きな教会に民衆を集め、祈りを捧げられていた。
「祈りなさい……哀れな子らよ……あなたたちは祈ることで救われるのです……」
槍を持つ透き通る蒼い色の髪を持つ、背の高い女性。純白のウールで出来た
「そ――――」
槍がシュッと振られ、跪いている人間たちの頭上を過ぎる。するとその先端から、わずかに雫が落ち、零れ、人々へ降り注いでいく。
「———はい。あなたたちの罪は、今、わたくしが断ち切らせていただきました。これであなたたちは永久に‶天国〟にいることができますよ」
ニコリと微笑むアテナイの言葉を合図に、人々が立ち上がり始める。
ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます……!
みな、ぺこぺこと頭を下げて出入り口まで歩いていく。
「今日もお集まりくださいましてありがとうございました。あなたたちの信仰のおかげでわたくしたち‶神〟も生きていけるのです。あなたたちの祈りがあれば、わたくしたちは永遠に生きていけます。わたくしたちが永遠であるということは、その恩恵を受けるあなたたちも永遠であると言うことです———ですから、いつまでも、信仰を捨てないでくださいね……」
帰っていく人々の背中に当てないは声をかけ続ける。
人々の足取りは軽い。
老若男女———老いも若いも、男も女もいた。
ただ……子供だけはいなかった。
そんないろんな世代の大人たちが、軽やかな足取りで帰っていく。
背筋を伸ばして、速く、スタスタと。
その光景はものすごく―――健康的だった。
「あぁ————!」
神は突然、忘れていたとポンと手を叩くと人々が足を止めて振り返る。
「教会の出入り口に
ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます。
人々は再び手を合わせて神に祈り、言葉に従い、教会の前に置いてあるテーブルの上に乗る酒樽を手に取り、それぞれの帰路についていった。
「お疲れ様ですわ———神様」
真紅の髪と漆黒のゴスロリドレスが特徴的な少女が柱の陰から躍り出て、スカートのすそをつまんで一礼する。
歳は14程。黒いリボンで縛ったツインテールと少し意地の悪そうなほほえみから、小悪魔的な雰囲気を感じさせる少女だった。
「あぁ———私の‶聖女〟!
アテナイが歓迎をするように両手を広げ、その腕の中に聖女・フレイは収まり抱擁を受け入れる。
「今日も‶罪斬り〟のお役目ご苦労様でしたわ」とフレイが声をかけると、アテナイは首を振る。
「いいえ、‶人は神のために神は人のために〟。彼らが楽に長く生きられる人生を作るのが———神の本来の役目なのです」
「神、アテナイ様に祝福を受けるこのサルガッソの人間は幸せですわ。あなたは神の中で誰よりも慈悲深い……」
アテナイの抱擁の力が緩み、互いにその体を離す。
「そういえば、フレイ……聞きましたか? 西の要塞フィレノーラが落とされたそうです。下級男神に任せていたのですが……名前は、名前は、なんと言いましたか?」
「エニュオですわ。アテナイ様」
「ああ、そうそう……」
「十二
怪訝そうにフレイが顎に手を当てる。
「どうしてでしょうねぇ……あ!」
「アテナイ様、いかがされたのです?」
「そういえば、エニュオ君から援軍要請を受けていたのを———すっかり忘れていましたわ! あぁ~だから増援が来なくてあっさり陥落してしまったのですねぇ……」
「あ、アテナイ様……」
フレイはため息を吐いて、額に手を当て首を振る。
その様子にアテナイは慌てた様子で、
「で、でも———
「…………私たちがついに、敗れる時が来たのかもしれませんね」
暗い様子で、フレイは応える。
「聖女がですか?」
「はい……」
「……少し、外の空気を吸いましょうか。フレイ」
そんな彼女を励ます目的か、アテナイが教会の外へ向かって歩き出す。
フレイはそんな彼女の横に並び、歩く。
歩きながら、話す。
「神の力を集めて作られた存在である———聖女。その力は神すらも超えると言われている7人の神の最終兵器。それがどうして敗れると言うのです?」
風が二人の髪を撫でる。
外に出たのだ。
「私たちも無敵ではありません。弱点はあります。帝国はその点を巧みについたのでしょう」
「弱点?」
「人間であると言うことです。感情があるということです。恐らく、帝国軍は民を人質に取り、聖女の優しい心に付け込んだのでしょう。私たち、聖女が神に仕える人間の模範となるようにデザインされている以上———卑怯な手段を取られれば負けることがあります。帝国も———その勝ち筋というものを研究したのでしょう」
「なるほど……なんて卑劣な。ですが、それがわかるなんてフレイは賢いですね」
「アテナイ様の教育のおかげですわ」
教会前の石畳で出来た通路の上で、二人は微笑みを突き合わせる。
「フフ……ねぇ、フレイ。来ると思いますか?」
「来る、とは?」
「帝国軍です。イルロンドです。この絶対防御都市であるサルガッソを攻めて来るとお思いですか?」
「……ええ、くるでしょう。近いですから」
「そうですね……次に攻めるとしたら、やっぱり近いここですわよねぇ~」
呑気に話しながら歩く二人の横には庭があった。
その教会の庭には桃色の実がなる木が、いくつも植えられていた。
その木々には実の色だけではなく、もう一つの共通点があった。
―――幹だ。
庭の畑に植えられている木の幹には———どれも共通して人の
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