第17話 祭りの後、語り合う。
踊る、踊る———。
俺と聖女は二人で手を取り合って、キャンプファイアーの周りでくるくると踊り続ける。
それをやんや、やんやと
他の者たちもみんな、一時の享楽に身をゆだねて踊っていたからだ。
くるくるくる……。
回り続け、時間は流れる。
やがて、疲れた空気がファイアーストームの辺りを覆う。
始めは赤い鱗と角を生やした、竜族の女性だった。次に妖精族の男。
段々とファイアーストームを離れて、フィレノーラ要塞や野営地に向かって歩いていく。
解散———祭りの終わりだ。
俺と聖女も、自然と手を放し、キャンプファイアーから離れた。
このまま普通だったら帰って寝るだけだ。
だが、聖女には居場所がないし、俺もまだこの世界に慣れていない。
だから、二人とも行く当てなくフラフラとその場を彷徨い、やがて互いに何の気なしに芝生の上に腰を落とした。
解散していく人間と魔族の帝国兵たちを、並んで見つめていた。
何となく、そういう雰囲気になっていた。
「……思っていたのと、違った」
ぽつりと聖女が言葉を漏らす。
「思っていたのって?」
「帝国の人たちはみんな心が貧しいものだと思っていた……自分の事しか考えてなくて、お金と権力にしか目がないような……こんな……遊び心も持っていたのね」
「……多分、みんなそうだよ。世界中のみんながそう」
「イルロンド」
「ん?」
「アルトナ公国の人間も———こうならないかな。魔族も人間も……できれば……関係なく、一つの炎を囲んで、一時の感情でもいいから、踊って楽しめないかな。そんな世界に———してくれないかな」
「…………」
世界を救うなんてできない。
俺は立場は皇帝かもしれないが、心は普通の人間なのだ。
天才でも何でもなければ、たくさん本を読んで知識がある賢者でもない。
それでも———いろんな人と火を囲んで踊るぐらいはできるかもと思った。
「まぁ、とりあえずできる限り……やってみるさ」
俺の視線の先では笑いながら手を振り合って別れているゴブリンとサキュバスがいた。
ああいう光景を帝国と公国の国民同士で作り出せばいいんだろ?
できないことは———ないと思うけどなぁ……。
「やってみせてよ」
コツンと、聖女が頭を肩に乗せた。
ズッと肩に重みが乗る。
「聖女……」
「聖女じゃ誰の事かわからない、イルロンド」
「……え?」
「さっきみたいに呼んでよ。踊りを誘った時みたいにさ」
「あ、あぁ……」
格好がつかないからつい呼んでしまったが、やっぱり女の子の名前を呼ぶのは抵抗があるんだよな……。
だけど、こうして頼られている以上、その好意に報いた方がいいだろう。
「イリア」
「—————」
名前を呼ぶと、聖女は、いやイリアは声にもならない変な音を喉の奥から漏らした。
ズキ—―――ッ、
ふと心が痛む。
彼女は知っているのだろうか?
いや———知らないはずがない。
あのフィレノーラ要塞で何が行われていたのかを。
そこでシヴァ・キシンが、ガルシア帝国軍が何をしたのかを。
俺がただ———見ているだけだったことを。
それなのに、こうやって慕ってくれているのは一体どういうことなのだろうとつい思ってしまう。
本当は嫌だろうに割り切ってくれているのか?
世界を救うために。
俺が世界を救えると信じているから———。
「イルロンド」
「ん?」
「私の他にも……聖女はいるの」
「え———?」
そうなのか?
あんな生物兵器と呼ばれている力を持っている人間が、まだ何人も……?
「あの子たちは帝国を知らない。魔族を知らない。人間を、知らない。だから、神様を妄信的に信じている。信じたくないとすら思っていない。神のために生きることが生きがいで、死ぬことが死にがいで、神のために費やした生涯が何の意味もないものだって———気が付いていない。だから———」
そっと、俺の手の上にイリアの手が乗せられた。
「私の姉妹たちを……救って……他の六人全員が———まだ神様に囚われているの」
俺は手をくるりと上に向けて聖女の手を握りしめた。
「ああ———任せろ」
六人か……多いな、と思ったことはおくびにも出さない。
あんな一個師団を消し去る能力を持った少女が、あと六人もいて、敵として向かってくる。
はたして、死なずにいられるのか、内心俺は不安だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます