第14話 魔力枯れ
「黄昏の———大地……」
この、目の前に広がる大地は何処までも広がり続けていると聖女は言う。
それがどういう意味を持つのかわからない俺に対して、聖女は淡々と言葉を繋げる。
「———‶魔力枯れ〟。万物に宿る魔力がどこかに消えるように霧散し、木々は枯れ始め、雨は降らなくなり、大地は渇く。こんな荒野や砂漠がドンドン広がっている」
「どうして、そんなことになっているんだ?」
聖女は首を振る。
「わからない。‶神〟がこの世界にいるはずなのに。神がこの世界を祝福し、世界を魔力で満たしているはずなのに———魔力枯れは起きている。一説によると、あなた———」
聖女が俺を指さす。
「悪ノ皇帝———イルロンド・カイマインドが原因と言われている」
「俺が?」
「イルロンド・カイマインドは魔法使いでない人間でも魔力が使えるように魔道具を開発し、魔力を吸いつくす‶害獣〟である‶魔族〟を保護し、この世を滅ぼそうとしている。だからこの世界を救うために何としてでもイルロンド・カイマインドを殺さなければならない。神は———そうおっしゃられた」
さーっと風が流れる。
「……それって、あの魔銃とかいう道具と魔族の軍団を使っているから……俺が帝国を指揮しているから、この世界が滅びに向かっているってことか? こんな荒野がドンドン広がっているってことか?」
「そう———教わった」
「だったら……! いや、だけど……!」
どうすりゃいいんだ?
聖女の言葉が事実だとすれば、俺は人類に対する大罪人だ。
進んで世界を滅ぼそうとしている……だけれども、あの飛行船や銃のような道具を一気に捨て去るなんてできるものか。戦時中だぞ。そんなことをすれば、こっちが虐殺の憂き目にあう。
それに例え魔道具を捨て去るという決断をしたとしよう。
それで、なんとかガルシア帝国の人間たちを交渉して生き延びさせてもらえたとしても———魔族はどうなる?
聖女の論法で言うと魔族も‶魔力枯れ〟の要因の一つであると言うことだ。
「魔力というのは一度生命が使うと大地に還り、それが食物や空気となって巡り巡って生命にいきわたる———普通の生き物や人間が使うと魔力は循環する。だけど、魔族は違う。魔族が魔力を使うとどこかに消えてしまう。まるで隠されてしまうように———それは魔道具も同じ。魔道具と魔族が使う魔力は循環をしない———‶魔力隠し〟という現象が起きてしまう」
「じゃあ———神とかいう奴らも、この世界の人間もみんな魔族に死んでほしいって思っているってことかよ⁉」
聖女はコクリと頷く。
「そんな……」
この世界……ハードすぎる。
滅びに向かっているし、それを救おうとしている神は明らかにクズだし、かといってそれに抵抗する魔族はこの世界を滅びに向かわせている原因……。
シヴァ・キシンの顔を思い浮かべる―――あの、忠実に俺を慕う鬼の少女の顔を。
この世界を滅びから救うためには———人間を助けるためには、彼女や他の魔族と魔物を葬り去らなければいけないと言う事か……?
できるわけが、ない。
「なんだよ……この世界、救いがない……こんな世界なら転生しなければよかった……」
「そう、救いがない。私たち―――神に仕える人間にとってはあなたたち帝国が滅びることしか救いというものはないの。だけど———あなたたちは違う」
「え?」
「本当に記憶を失っているみたいね———イルロンド・カイマインド。そのためにあなたたちは戦っているんでしょう。そのために帝国軍はあなたを皇帝と崇め付き従っているんでしょう。あなたが、神を殺し———この世の全てを変える支配者になると信じて」
「支配者……?」
聖女は遠くを指さす。
遠く、遠く地平線の彼方を———。
「神の都・カナン。そこではこの世の全ての理を操ることができる‶神殿〟がある……神の手でこうなってしまっている
「俺が、ルールを変える? そんな魔力のルールまで変えれるものなのか?」
‶神殿〟というものは……。
「そう‶教え〟には記されているし、ガルシア帝国の人間はそれを信じて戦っている。イルロンド・カイマインドが、神の独善で決められ、変えれれば変えられる
ぐっと胸に手を当て、
「———だから、聖女である私もあなたに救いを求めた」
そして、聖女は膝をついた。
「この世界を、私たちを……救って……!」
そして、すがるように両手を握りしめて祈るように目を閉じた。
俺に向かって———。
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